第315話 情報収集と雑事

 俺は三橋師範に高速戦闘の技術を教わりながら、執事シャドウパペットを作製する準備も進めていた。全ての準備が整ったので、亜美に手伝いを頼んで作製する事にする。


「グリム先生、執事シャドウパペットを作るというのは、本当なんですか?」

 亜美はシャドウパペットが執事になるというのが、信じられないようだ。

「執事と言っても、簡単な仕事ができればいいんだ。荷物を運ぶとか食器を洗うという単純作業だよ」


「それって執事じゃなくて、召使いシャドウパペットじゃないんですか?」

「夢は大きくだ。教育して執事のような仕事ができるシャドウパペットになったら、凄いじゃないか」


 使うシャドウクレイは六十キロにした。エルモアのように逞しい体格にせず、ひょろりとした体格にすれば、身長百五十センチくらいにはなるだろう。


 D粒子を練り込んだ六十キロのシャドウクレイを取り出し作業室の台の上に置く。隣の部屋では改装工事が始まっており五月蝿いが、我慢するしかない。


「屋敷はどう改装するのです?」

「一階の三部屋を一つの部屋にして多目的ホールとする。ダイニングは大勢が一緒に食事ができるように改装する予定だ」


「二階の角部屋が、先生の部屋というのは変わらないんですか?」

「そうだ。二階は俺の部屋と作業室以外を資料室や打ち合わせ部屋にする」


 そんな事を話しながら、シャドウパペットの作製を始める。最初はエルモアに手伝わせて大体の形を整える。それから俺と亜美が、人型に調整する。手の指は細長く器用そうな指にして、顔はなぜか新選組の土方歳三に似てしまった。


 亜美が歴史の教科書で見た事が有ると言い出したのだが、そう言えば、割とイケメンの感じが似ている。


「まあ、顔はどうでもいいか。問題は色をどうするかだな」

「髪の毛と眉毛、尻尾を除いて、白で統一するというのは、どうでしょう」

「人型だから、斑やトラ模様というのはダメだろうし、それでいこう」


 ソーサリーアイとソーサリーイヤー、ソーサリーボイスの三点セットを埋め込み、魔導コアを組み込む。髪の毛と眉毛、尻尾をマスクしてから、シャドウパペット用のスプレー塗料を吹き付けた。


 塗料が定着した後、魔力を注ぎ込み仕上げる。その直後、金剛寺が紅茶を淹れて持って来た。

「こ、これが執事シャドウパペットでございますか」

 シャドウパペットに服を着させる。着せたのは作務衣だ。


 それを見た金剛寺が首を傾げる。

「なぜ土方歳三に?」

「その顔は偶然だ。それより仕立て屋を呼んで、このシャドウパペット用の服を作ってくれないか」

「承知いたしました」


 亜美が新しいシャドウパペットをチェックしていた。

「グリム先生、この執事シャドウパペットの名前は何にするんですか?」

「決まっているだろ。『トシゾウ』だ」


 それから数日は、鍛練とトシゾウの訓練をして過ごした。トシゾウがちゃんと歩けるようになった後、冒険者ギルドへ行って情報を集めると、長瀬がシルバーオーガとの二回目の戦いに向かった事が分かった。


「グリム先生、長瀬さんがシルバーオーガを倒せると思いますか?」

 受付のマリアが尋ねる。この時間は冒険者が少なくてマリアたちは暇なようだ。

「どうだろう。長瀬さんはランキング百二十六位のA級冒険者だけど、シルバーオーガもかなり強敵だからな」


 ちなみに、俺はランキング百九十七位になっている。ドラゴニュートを倒したというのもポイントになったようだ。


 マリアと話をしていると後藤が来て話に加わった。

「攻撃魔法でシルバーオーガを倒す方法はありますか?」

 後藤が渋い顔をする。

「シルバーオーガが、魔法を発動する時間をくれれば、倒す方法は有る。だが、そんな幸運を期待するのはリスクが大きい」


 攻撃魔法には素早い敵を倒す魔法が有るらしい。但し、敵が魔法を発動する時間を与えてくれるという保証がないと、シルバーオーガなどという化け物とは戦いたくないようだ。


「生活魔法はどうなんだ?」

 逆に後藤から尋ねられた。生活魔法には素早い敵に必ず命中させる魔法はない。

「いや、残念ながら生活魔法にはないです」


「そうなると、長瀬さんに期待するしかないな。ところで、『奉納の間』に挑戦したと噂になっていたが、本当なのか?」


 隠れて行った訳ではないので、当然地元の冒険者たちには知られていたようだ。

「ええ、欲しい魔導装備があったんで、挑戦しました」

「相手は、どんな魔物だった?」


「ドラゴニュートです」

 それを聞いた後藤は顔を強張らせた。

「シルバーオーガに匹敵するくらいの化け物じゃないか。よく勝てたな、シルバーオーガほどじゃないが、あいつも素早かったはずだ」


「最初の方で、ドラゴニュートの脚に穴を開けたので、何とか勝てました」

「そんな攻撃手段が有るのなら、シルバーオーガにも勝てるんじゃないのか?」

「最初の一撃で、大きなダメージを与えられなかったら、こっちが危なくなりますよ」


「まあ、そうだな」

「後藤さんは、今何層で活動しているのですか?」

 俺は話題を変えた。ドラゴニュートとの戦いでは、未登録の魔法を使っているので話題にしたくなかったのだ。


「今は十層のピラミッド以外の場所を探索している。ピラミッドの右側にある岩山地帯で、奇妙なリントヴルムを発見したので報告に来たんだ」


 リントヴルムはドイツの伝説に出てくるドラゴンであるが、現在のダンジョンに出てくるリントヴルムは、体長三メートルほどの小型の飛竜である。


「奇妙というのは?」

「黒い色のリントヴルムが居るんだが、そいつに近付くと消えるんだ」

 近付くと消えると聞いて、シャドウパンサーを思い出す。あいつは影に潜って獲物が近付くのを待ち、影から飛び出して襲い掛かるという魔物だった。


 冒険者ギルドで面白い情報を仕入れた俺は、ギルドを出て仕立て屋のところへ行った。この仕立て屋は執事シャドウパペットの服を作ってもらうと同時に、D粒子の糸を織って作った布『粒子布』で俺用の服を仕立ててもらっていた。


 受け取った服は、身体にフィットしたフード付きスポーツウェアという感じの服である。一緒に靴下と手袋も作ってもらっている。


 それらと余った粒子布をもらって屋敷に戻る。屋敷ではアリサが待っていた。

「あれっ、何か約束していたっけ?」

「違います。凄い発見をしたので、先生の意見を聞きたいんです」


 アリサは俺が持っている服に気付いた。

「その服は?」

 D粒子の糸を織って作った布で仕立てたものだと説明し、これに特性を付与するつもりだと告げる。


「それでしたら、特性を付与した後に、話を聞いてもらえますか?」

「そういう事なら、先に作業を済ませよう」

 影からエルモアが出てきた。興味が有るようだ。まずは、余った粒子布で<衝撃吸収>だけを付与した場合と<堅牢>と<衝撃吸収>を付与した場合に分けて実験してみた。


 付与した後、左手に巻いて右手で殴ってみる。両方とも衝撃を感じなかった。だが、二つの特性を付与した方は少しゴワゴワする。


 高速で動いた場合、そのゴワゴワ感が不安になった。動きを邪魔するのではないかと思ったのだ。結果、<衝撃吸収>だけを付与する事にした。


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