第313話 ドラゴニュート

 ドラゴニュートの身長は三メートル半、ブルーイグアナを大きくして二足歩行の人型にしたような魔物だった。それを確認した俺は『センシングゾーン』を発動してD粒子センサーの感度を上げる。


 『センシングゾーン』によりD粒子の情報が頭に流れ込んでくる。但し、俺の能力だと位置は分かるが、細かい動きは目で見ないと分からなかった。


 ドラゴニュートは左手にロングソードを持ち、右手に盾を持っていた。魔物の格を考えると普通の盾やロングソードとは思えない。


 俺は『クラッシュボール』を連続で発動しD粒子振動ボールをばら撒いた。だが、ドラゴニュートはそれに気付いたらしく素早く避けて走り出した。


 その速度は目で追いきれないほどだった。急いで『マグネティックバリア』を発動し自分の周りに磁気バリアを展開する。次の瞬間、磁気バリアにロングソードが凄まじいパワーで叩き付けられた。


 磁気バリアのエネルギー源であるD粒子磁気コアが目に見えて小さくなる。後二度ほどしか耐えきれないだろう。そう思った時、またロングソードが叩き付けられる。


 磁気バリアの向こうに居るドラゴニュートに向かってD粒子振動ボールを放つ。それは磁気バリアに命中して、空間振動波をドラゴニュートに向かって放出。


 空間振動波はドラゴニュートの右太腿に命中し筋肉に穴を開けた。ドラゴニュートは足から血が噴き出し片膝を付く。もう一度D粒子振動ボールを放とうとした時、ドラゴニュートの盾が磁気バリアを叩いて崩壊させる。


 クイントカタパルトで自分の身体を後方に投げる。怪我を負ったドラゴニュートは、ゾッとするような目で俺を睨んだ。思わず冷や汗が背中から噴き出す。


 『エアバッグ』を使わずに着地。上半身がぐらついたが、耐えて『クラッシュボールⅡ』を発動し、十メートル前方で空間振動波が放出されるように時間指定する。


 ドラゴニュートは高速振動ボールを避け横に跳んだ。跳躍の途中で高速振動ボールから空間振動波が放出。その破壊空間はドラゴニュートの右腕を捉えた。鱗に覆われた右腕が粉砕され、盾が床に落ちる。


 ドラゴニュートが吠えた。その響きには人間を恐怖させる何かがあり、俺はビクッと反応する。ロングソードが振り上げられ、俺の居る方向に向かって振り下ろされる。距離は十メートルあり届かないはずだが、嫌な予感がして横に跳んだ。


 衝撃波のようなものが横を通り過ぎて壁に命中すると、壁の一部が砕けて床に零れ落ちる。

「ヤバイ」

 遠距離攻撃する方法を持っているのなら、足を負傷していても気を抜けない。


 俺がもう一度『クラッシュボールⅡ』を発動しようとした時、ドラゴニュートの姿が消える。D粒子の動きで跳躍したのだと分かった。片足で跳躍し俺を飛び越して背後に着地すると回転しながら、ロングソードを横に薙ぎ払う。


 俺は必死で床に身を投げだして転がる。その時、ロングソードから発生した衝撃波が黒鱗鎧を掠め、背中に痛みが走った。『オートシールド』はどうしたと考えたが、ドラゴニュートのパワーから推測するとD粒子シールドはロングソードの攻撃で砕け散ったのだろう。


 またドラゴニュートの姿が消える。跳躍したのだと分かり、空中を移動しているドラゴニュートに向かって五重起動の『ティターンプッシュ』を発動する。


 ティターンプレートはドラゴニュートと衝突し、凄まじい勢いで跳ね返す。回転しながらドラゴニュートが後方へ飛んでいく。俺は『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールで追撃した。


 空中で高速振動ボールに気付いたドラゴニュートは、ロングソードで弾こうとする。だが、時間指定された高速振動ボールは弾かれる前に空間振動波を放出。


 破壊空間が広がり、ドラゴニュートの頭半分と胸の一部を包み込んだ。その一撃で致命傷を負ったドラゴニュートだったが、地面に叩き付けられてから起き上がり、空間振動波で短くなったロングソードを俺に向かって投げる。


「うわっ」

 慌てて避けたが、ロングソードの刃が左肩をザクッと切り裂いた。肩から血が噴き出す。その直後、ドラゴニュートが消えたのを目にした俺は、必死で中級治癒魔法薬を取り出して少量だけ肩に振り掛けてから一気に飲み干す。


 魔法薬の効果で血が止まったが、傷は完治していないので『治療の指輪』を使う。その頃になって悲鳴を上げたいほどの痛みが襲い掛かり、ゆっくりと収まっていく。


 『治療の指輪』が効果を発揮したらしい。俺の影からエルモアが出てきた。

『大丈夫ですか?』

「ああ、魔法薬と『治療の指輪』が効いたようだ」


『そこで休んでいてください。ドロップ品は、私が探します』

 黒魔石<大>と中級治癒魔法薬が五本、それに指輪が見付かった。魔石と魔法薬は仕舞い、鑑定モノクルで指輪を調べる。


 指輪は『韋駄天の指輪』だった。素早さを八倍に引き上げる機能を持っている。但し、大量の魔力を消費するらしい。長時間は使えないものだという事だ。


 俺は指輪の事をメティスに伝えた。

『目的の物を手に入れたのですね。これからどうしますか?』

「血を流し過ぎた。中ボス部屋で休んでから戻ろう」


 中ボス部屋へ行った後、メティスが俺の身体をチェックした。

『黒鱗鎧が破損しているようですが、大丈夫ですか?』

 ドラゴニュートがロングソードを横薙ぎした時に破損したのだと分かった。黒鱗鎧を脱いで調べると、広範囲が破損している。


「これは直せないかもしれないな。メティス、背中を調べてくれ」

 メティスがエルモアの目を通して背中の傷を調べ、魔法薬と『治療の指輪』の効果で傷が塞がっている事が分かった。


 装備を脱いで、『パペットウォッシュ』を自分に対して発動する。血などの汚れが綺麗になった。装備に付いている血も綺麗にしてから、新しい服に着替える。


 俺は中ボス部屋で一日休んでから、地上に向かった。

『ドラゴニュートと戦って、どう感じました?』

「強かったよ。最初の方で、ドラゴニュートの足に穴を開けていなかったら、もっとギリギリの戦いになっていたと思う」


『途中、ドラゴニュートの姿が消えたように見えたのですが、あれは何が起きたのですか?』

「有り余るパワーで跳躍しただけだ。そのパワーが尋常ではなかったので、消えたように見えたんだ」


『そういう事ですか。あのような魔物と戦うには、高速度対応のソーサリーアイが必要です』

 メティスのために用意したヘアバンドに取り付けてあるソーサリーアイやエルモアのソーサリーアイは、高速度には対応していないので、高速戦闘する魔物を見失う事になるようだ。


 地上に戻った俺は、メティスの勧めで病院へ行き検査入院する事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る