第309話 高速戦闘
アリサたちは鳴神ダンジョンを探索する事にしたようだ。今日、ここに来た目的は鳴神ダンジョンの事を詳しく聞くのがメインだったらしい。
俺は一層から五層までを詳しく説明した。それを聞いたアリサたちが礼を言って帰ると、アリサたちに約束したプッシュ系の魔法をメティスと一緒に考え始める。
『『オーガプッシュ』に<衝撃吸収>を付与するというのは、どうでしょう?』
「<衝撃吸収>を付与した『オーガプッシュ』で、魔物の突進を迎え撃った場合は、どうなる?」
魔物が突進して衝撃吸収プレートと衝突した時、その衝突のエネルギーはアブソーブ力場が吸収する。魔物の突進はその時点で停止するだろう。その状態で魔物と衝撃吸収プレートが押し合ったとしても、その力もアブソーブ力場が吸収するから、時間切れで魔法が解除されるまで魔物は停止したままか。
『……その魔法だと、魔物を停止させる事しかできません。他の特性を付与した方がいいようです』
メティスも同じ結論になったようだ。それから話し合って決まった。
「<放電>と<ベクトル加速>を付与してみよう」
賢者システムを立ち上げて、『オーガプッシュ』を基に<放電>と<ベクトル加速>を付与してみる。魔法レベル9で習得できる魔法となるが、射程が短すぎる気がして二十メートルに延長した。それで魔法レベル10で習得できる魔法となった。
「これでいいか。後で使い心地を確かめてみよう」
名前は『サンダーバードプッシュ』で、形成されるD粒子の形成物は『稲妻プレート』にした。
夕食を食べて風呂に入った後、最近の日課になっている『干渉力鍛練法』の二段目の鍛練法であるD粒子を動かす鍛練を始める。
最初はデコピンのようにD粒子を弾くだけだったが、D粒子の流れを作れる段階にまで上達していた。その夜もD粒子を集め無限の記号のような流れを作り上げる。
この鍛練を続ける事で、D粒子への干渉力が強くなるようだ。そして、目に見えるほどD粒子を集められるようになれば、次の三段目に鍛練を進められるらしい。
「ふうっ、この鍛練は精神力と集中力も鍛えられるみたいだ」
疲れたので寝る。翌日起きると、庭に霜が降りている。今日から執事の金剛寺が来るはずだ。八時五分前に金剛寺が屋敷に来た。
「おはようございます」
「おはよう。自宅が遠いのなら、出勤時間を遅らせようか?」
「いえ、それほど遠くではないので、八時で構いません」
俺はリビングへ行って、屋敷の改装について説明した。
「バタリオンを設立するので、屋敷を改装なさるのでございますね」
「そうなんだ。これから大きな工事が始まると思うので、五月蝿くなるが我慢してくれ」
「分かりました。私にお手伝いできる事はありませんか?」
「そうだな……あっ、金剛寺さんは、生活魔法の才能が有ると支部長から聞いたんだけど、本当?」
金剛寺が苦笑いする。
「グリム様、私の事は呼び捨てでお願いします。それと生活魔法の才能は『D』ですが、その魔法レベルは『3』ですので、大した事はできません」
「最近、生活魔法の種類が増えたんだ。屋敷の管理に使える魔法も有るので、習得してくれないか。費用はこちらで出すから」
「分かりました。具体的にはどのような魔法を習得すれば良いのでしょう?」
俺は必要になりそうな『Dクリーン』や『クリーン』などの掃除関係を中心に八個ほどの魔法を指定した。
「金剛寺は、今でもダンジョンへ行く事が有る?」
「最近はほとんど行きません。ダンジョンへ行く必要が有るのでしょうか?」
「ないけど、ダンジョンへ行くのなら『プッシュ』や『コーンアロー』も習得するリストに加えようかと思ったんだ」
「『プッシュ』は習得しております。ただ『コーンアロー』という魔法は存じません」
「たぶん金剛寺が、イギリスへ行っている間に、登録されたものだからだろう」
俺は生活魔法について知っておいてもらうために、カリナと一緒に纏めた教科書を金剛寺に贈った。
金剛寺は作者の名前を見て、驚いた顔をする。
「グリム様は、生活魔法の教科書も書かれたのですか。素晴らしい」
「自慢するためにプレゼントした訳じゃないんだ。生活魔法の基礎が書かれているので、読んでおいて欲しいんだ」
「承知しました」
屋敷の内部を案内してから、一つの提案をした。それを聞いた金剛寺が首を傾げる。
「シャドウパペットを、私の助手として仕込めないか、という事ですか?」
「初めての事なので失敗するかもしれないが、試してみてくれないか」
「分かりました」
それから金剛寺が朝食を用意してくれたので食べてから出掛けた。目的地は三橋師範の道場である。バスでナンクル流空手道場まで行くと、三橋師範がタイチを教えているのを発見してびっくりした。
「あれっ、タイチはいつから空手を習い始めたんだ?」
「おはようございます。先月からですよ」
俺は師範とタイチに挨拶した。
「久しぶりだな。身体が鈍っているんじゃないか?」
「そうかもしれません。今日は師範に相談があってきたんです」
俺は道場に上がって、タイチの練習が終わるのを待つ事にした。倒れるまでしごかれたタイチが、道場の床に横になって起き上がれなくなると、三橋師範が俺の傍に来て座った。
「相談というのは何だ?」
「鳴神ダンジョンの十層にある中ボス部屋を発見したのですが、そこの中ボスがシルバーオーガなんです」
「ほう、シルバーオーガか。厄介な魔物だな」
三橋師範もシルバーオーガの事は知っているらしい。
「シルバーオーガについての知識が有るなら、話が早い。シルバーオーガを倒せるのは、A級の魔装魔法使いくらいだと支部長に言われたのです」
「なるほど、スピードが速い魔物を倒すには、どうしたらいいかという相談か?」
「そうです。今回のシルバーオーガを倒すには間に合わないかもしれませんが、高速戦闘する魔物への対策だけは用意しておきたいんです」
「ナンクル流空手にも、スピードがある相手に対する戦い方がある」
「それは、どういう戦い方か教えてください」
「魔物との戦いに役に立つか分からんが、まあいいだろう。それは最小限の動きだけで戦うやり方だ。試してみるか?」
俺と三橋師範が組手をする事になり、俺はヘッドガードと鎧を装着。三橋師範は総合格闘技用グローブとレッグガードだけを装着する。
組手が始まり、前に出てジャブを出すと俺のジャブが師範の腕で弾かれた。次の瞬間、俺は道場の床に倒れていた。あれっ、何が起きたんだ?
「師範、何をしたんです?」
「カウンター攻撃だ。続けるぞ」
俺は師範の周りをステップしながら移動し攻撃を繰り出した。だが、その攻撃が最小限の動きで弾かれ受け流されて、カウンター攻撃を食らう。
師範の防御する動きとカウンター攻撃は凄まじく素早かった。気付いた時には床に倒れているという始末で、俺にとって衝撃的で、この技術を習おうと思った。
また倒れると、その拍子にタイチの姿が目に入る。目を輝かせて師範の姿を見ていた。
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