第307話 鳴神ダンジョンの十層

『ティターンプレートが吸収した衝撃エネルギーは、どういう形で保存されるのですか?』

 エルモアを制御しているメティスが難しい事を聞いてくる。

「詳しくは分からない。アブソーブ力場の中に何らかの形で溜め込まれるらしいけど、賢者システムも万能じゃないから、それ以上は無理」


 <ベクトル制御>はアブソーブ力場に溜め込まれたエネルギーを前方に放出するだけである。もし<ベクトル制御>がなく溜め込むだけだった場合は、魔法が解除された時点でエネルギーはどこかに放出されるのだろう。


『やはり魔法は理解不可能という事ですか?』

 俺は肩を竦めた。

「そういう事だな」

 賢者システムが有るからと言って全てが分かるのなら、学者や研究者は必要なくなるだろう。


 俺は『ティターンプッシュ』の威力がどれほどなのか確かめるために、要塞を一周してミノタウロスを探した。エルモアは周囲をチェックしながら、俺の後ろを付いてくる。


『あれは何でしょう?』

 メティスはエルモアの目を通して石碑を発見した。俺は石碑に近付いて刻まれている文字を読んだ。そこには秘蹟文字で『次の世界を求める者は、闇を目指せ。但し、闇の守護者を倒さねば進めぬだろう』と書かれていた。


 俺はメティスに刻まれている内容を伝える。

『闇とは何でしょう?』

「さあ、見当もつかない。地下室みたいなものがあるのかな」


 まだ発見されていない地下への入り口が有るのかもしれない。俺は『ティターンプッシュ』の確認を中断して、空から発見できないか確かめる事にする。


 エルモアを影に潜らせてから、『ブーメランウィング』を発動し戦闘ウィングを出すと、乗り込んで飛び上がった。要塞の周りをチェックしてから、少しずつ探索の範囲を広げていく。


 要塞から四キロほど離れた場所に、大きな墳墓らしいものを発見した。入り口らしい建物があり、その先にかまぼこ型に盛り上がった地形が見える。通常の地形ではあり得ないので、地下に何かが建設されていると思われる。


 墓か、これは闇になるのかな? 俺は墳墓の近くに着陸して、エルモアを影から出すと一緒に調査を始める。


 地下鉄や地下街への入り口のような建物があり、そこから階段を下りて墓のようなものに行くようだ。

『どうしますか?』

「そうだな……確かめてみよう」

『墓だった場合、アンデッドが居るかもしれません。光剣クラウを用意しておくべきでしょう』


 俺は頷いて、光剣クラウを取り出した。階段を下りると中は真っ暗だった。暗視ゴーグルを出して装着する。


「これは通路なのか? そうだとすると無闇に広い通路だな」

 幅十二メートル、高さ八メートルという大きさで、中の空気は少しカビ臭い。慎重に進んでいくと、ミノタウロスの王か神をかたどったと思われる大きな像があった。


 全長六メートルほどの金属製で、手にはバトルアックスを持っている。

『この像が闇の守護者でしょうか?』

「そうすると、近付くと動き出す仕掛けが有るのか?」


 覚悟を決めて前に進むと、案の定、金属製の像がカタカタと震えだす。

「ここは空気を読んで、こいつが動き出すまで待たないとダメなのかな?」

『待たないで攻撃しても構わないと思いますが……』


 ミノタウロス像に向かって『トーピードウ』を発動した。空中も飛翔できるD粒子魚雷が像に向かって飛ぶ。カタカタと震えていたミノタウロス像が、いきなりバトルアックスを横に薙ぎ払う。


 バトルアックスがD粒子魚雷に命中して弾き飛ばし、衝撃で爆発したD粒子が通路の壁に襲い掛かり大きな穴を開けた。その衝撃は通路全体を震わせる。


 細かい埃が通路の中に舞い上がり、視界を遮る。

「なんだ、変な準備運動なしでも動き出せるんじゃないか」

 ミノタウロス像が俺に向かって走り出した。ちょうど良いと考えながら、五重起動の『ティターンプッシュ』を発動しティターンプレートを迫ってくるミノタウロス像に叩き付ける。


 ミノタウロス像が跳ね飛ばされて凄まじい轟音を響かせて通路に倒れた。さすがにトン単位の重量が有りそうな像なので、派手に宙を舞うというような事はない。


 倒れているミノタウロス像に向かって、連続で『クラッシュボール』を発動する。ミノタウロス像に命中したD粒子振動ボールが空間振動波を放出し、金属製の躯体を穴だらけにした。


 それでもミノタウロス像が起き上がる。ぎこちない動作で、こちらに迫る金属の塊に向かって『クラッシュボールⅡ』を発動し、時間指定なしで投射。


 時間指定なしだと命中した瞬間に空間振動波が放たれる事になる。ミノタウロス像の頭に命中した高速振動ボールが半径二メートルの範囲を包み込むような破壊空間を生み出し、頭から胸を粉々に砕く。


『お見事です』

 メティスが褒める。ミノタウロス像が消え、ドロップ品が残っていた。エルモアが黒魔石<中>を拾い上げ、俺は長さ二メートルほどのハルバードを拾い上げる。


「このハルバードは、魔導武器だろうか?」

『闇の守護者と呼ばれるほどの魔物が残したものですから、魔導武器だと思います』

 俺は鑑定モノクルを取り出して調べた。その結果、『雷撃のハルバード』と呼ばれる覇王級の武器のようだ。このハルバードで攻撃すると雷撃による追加効果が発生するらしい。


 使うとしたらエルモアだが、メティスに確認すると使わないという。エルモアは槍術の練習をしたが、ハルバードは慣れていないので使えないようだ。


「うーん、保留かな。換金してもいいけど、こういう武器は二度と手に入らないからな」

 俺は先に進む事にした。通路の先には小さな部屋がいくつかあり、そこには棺のようなものが置かれている。やはりミノタウロスの墓だったようだ。


 棺が置かれている部屋の入り口には、『死者の眠りを妨げるべからず』と秘蹟文字で書かれていた。

「あの棺を開けて調べるというのは、どうだろう?」

『罠のような気がします』

 棺の中に貴重な埋葬品が入っているという可能性もあるが、罠だった場合には赤城たちのように呪いや毒を受けるかもしれない。


 さすがにソロでそんな危険は冒せなかった。確かめたいという気持ちは有るが、やめる事にして、先に進んだ。通路の末端には十層へ下りる階段があった。


 その階段を下りると、十層に到着する。そこは広大な砂漠で、遠くにピラミッドのようなものが見えた。どうやらピラミッドが中ボス部屋のようだ。


 中ボスがどんな魔物か確かめたかった。それに転送ルームの有無も調べたいので、俺はピラミッドまでD粒子ウィングで飛んだ。


 ピラミッドの近くで着地し、入り口に向かう。入り口は二つ存在していて、一つは転送ルームへ続く通路であり、もう一つが中ボス部屋へ続いていた。


 その中ボス部屋の入り口から中を覗くと、中に居た魔物はシルバーオーガだった。身長が三メートルほどで角が銀色に光っている。印象的なのは、その眼である。半端ではない覇気を放ち、見詰められた者には恐怖を抱かせる。


『出直しましょう』

 メティスもシルバーオーガに脅威を感じたらしい。俺はその提案に従う事にした。


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