第306話 D粒子の糸と新魔法

「<衝撃吸収>か、どんな原理で衝撃を吸収するんだろう?」

『そういう事は、深く考えない方が良いかもしれませんよ。なにせ魔法ですから』

 メティスが身も蓋もない事を言う。そうなんだろうけど、全部を魔法だからと片付けたら進歩がない。


 賢者システムを使って詳しく調べてみると、<衝撃吸収>の特性はアブソーブ力場というものを発生させ、近くのものを包み込むらしい。


 そのアブソーブ力場だが、外から加えられる衝撃や慣性力も吸収するようだ。慣性力というのは、電車に乗っていて急ブレーキが掛かった時に、前に投げ出されそうになる力の事である。


 <衝撃吸収>の特性となると、まずは防御系の魔法だろう。防御系の魔法は『プッシュ』『オーガプッシュ』『オートシールド』『プロテクシールド』『マグネティックバリア』がある。


 この中で『オーガプッシュ』が面白そうだと思い、特性の組み合わせを考えながら調べていると、面白い事が分かった。


 <衝撃吸収>と<ベクトル制御>の組み合わせで、吸収した衝撃エネルギーを前方に放出できる事が分かったのだ。


『なるほど、受けた衝撃が強いほど、大きな力で敵を弾き飛ばす事ができるのですね』

「そうみたいだ。理想的な防御兼カウンター攻撃になると思わないか?」

『突進してくる魔物には、有効な防御手段となりますね』


 俺は新しいプッシュ系の魔法を創り始めた。まず『オーガプッシュ』を基にして、大きさを直径一メートルほどに拡大する。そして、D粒子二次変異の特性である<ベクトル制御>と<衝撃吸収>を<編成>で纏めて付与した。この時、吸収した衝撃エネルギーを前方に放出するように構築する。


 さらにD粒子一次変異の特性である<爆轟>を付与して<ベクトル制御>の効果で前方にだけ爆発するようにしようとしたが上手くいかなかった。<ベクトル制御>は一つのものしか扱えないみたいである。


 この魔法は防御用なので魔物に接近された時に使う場合もある。そうなると、爆発の方向を制御していない<爆轟>は危険だ。仕方ないので<爆轟>の付与は諦めた。


 ちなみに<爆轟>と<ベクトル制御>の組み合わせは『トーピードウ』があるので、近くに居る魔物を<爆轟>で攻撃する場合、『トーピードウ』を使えば良い。


 その後、調整してから新しい防御系の魔法を賢者システムに仮登録した。

『一段落したようなので、夕食にしたらどうですか?』

「そうしよう。何だか腹が減った」


 ふと横を見るとタア坊が、為五郎を相手に相撲のような遊びをしている。体格が全く違うので勝負にならないのだが、何度転がされても挑んでゆく。転がされるのが面白いのかもしれない。


 夕食は屋敷の近くにある食堂で済ませて屋敷に戻ってくると、二階のルーフバルコニーへ行く。このルーフバルコニーは八畳ほどの広さがあり、洗濯物を干すのに使っている。


 そこで収納アームレットからD粒子繊維製造装置を取り出し床に設置。この装置を動かしてD粒子の糸を紡ぐ作業を始めようとしているのだ。


 スイッチを入れると装置が空中のD粒子を吸引しているのが分かった。そして、D粒子の糸を紡ぎ吐き出す。この糸は太さを自在に調節できるようになっている。


 装置の動力源は黄魔石で、コーヒーカップ一杯くらいの黄魔石を入れると二十四時間ほど動くようだ。音はほとんどせずD粒子の糸を作り続ける。


 俺はD粒子繊維製造装置を手に入れてから何度も動かし、白いD粒子の糸の束を作り出していた。D粒子の糸は木綿糸に似ているが、少し絹糸のような光沢がある。そろそろ服が作れるほどの糸が溜まったので、織物工場に持ち込み布を織ってもらおう。


 翌日、新しい魔法の使い心地を試すために水月ダンジョンへ向かった。二層に居るアタックボアを相手に試してから、もっと手強い魔物で試そうと計画している。


 水月ダンジョンの二層まで下りて、入り口から少し離れたところにある大きめの木が多い場所へ行く。まずは魔物ではなく木に向かって試す。


 五メートルほど離れている木に向かって、多重起動していない新しい魔法を放つ。直径一メートルの円形で表面に瘤のようなものがあるD粒子プレートが回転しながら空中を進む。


 小さなブンという空気を押し退ける音が聞こえ、木の幹に叩き付けられる。D粒子プレートの瘤で木の幹に傷が刻まれ、当たって衝撃を受けた木がミシッと鳴って小刻みに揺れる。


 エルモアは影から出てきて見物していたのだが、その様子を見ていて首を傾げる。

『おかしいですね。予想よりも威力が大きいように思えます』

 俺も同じように感じた。それに『オーガプッシュ』より速くなっているようだ。


 何度か試して『オーガプッシュ』と比較してみた。確かに速くなっている。その結果をメティスと検討し、一つの仮説が出た。飛んでいる途中の空気抵抗も衝撃として吸収しているのではないかという事だ。


『今度は、射程ギリギリの二十メートルの距離で、放ってみましょう』

「いいだろう」

 俺は木から二十メートル離れて、新しい魔法を放った。D粒子プレートが木に命中した瞬間、木が大きく揺れる。威力が上がっていると分かり、空気抵抗も衝撃として吸収していると判断した。


 それから魔物で試そうと思い、アタックボアを探す。森を探し回っていると見付けた。相手は重さが百キロほど有りそうだ。


 アタックボアも気付いて、後ろ足で地面を引っ掻く動作をしてから突進を始める。新しい魔法で迎え撃ち、十五メートルほど飛翔した地点でアタックボアに命中。


 アタックボアは時速五十キロ以上で走っていたように見えたので、衝突した時に跳ね返って受けた衝撃は凄まじかったはずだ。


 <ベクトル制御>で跳ね返った衝撃を受けたアタックボアは宙を舞った。クルクルと回転したアタックボアが地面に激突する。それだけでふらふらになっているアタックボアに『コーンアロー』でトドメを刺す。


『魔法は問題ないようですね』

「次は鳴神ダンジョンの魔物で確かめよう。突進してくるような魔物というと、ミノタウロスか」

 地上に戻ると鳴神ダンジョンへ移動した。試す相手がミノタウロスなので、九層へ行かなければならない。一層の転送ルームから五層へ転移し、廃墟エリアをエルモアと為五郎を出して通過する。


 途中でスケルトンナイトと遭遇したので、新しい魔法を三重起動でぶつけてみた。命中した衝撃で骨がバラバラになり頭蓋骨も粉砕されて消える。


「あれっ、手応えがなさ過ぎて、威力がよく分からないな」

『この魔法は、ドラゴンの突進も止められるような魔法です。スケルトンナイト相手だと、こうなるのは当然ですよ』


 メティスは新しい魔法がドラゴンにも通用すると思っているようだ。アースドラゴンの尻尾の一撃で、大怪我した経験を思い出す。あの一撃を受け止められるとしたら、防御力がかなり向上した事になる。


 六層を通過して七層と八層を戦闘ウィングで飛んで通過。九層に下りてミノタウロスの要塞へ向かう。


 要塞の周りにミノタウロスの巡回兵が復活している。この巡回兵を相手に新しい魔法の威力を試す事にした。要塞に近付くとすぐに発見されて、ミノタウロスが向かってくる。


 ドスドスと地響きを立てて迫るミノタウロスに向け、新しい魔法を三重起動で発動する。その魔法がミノタウロスと衝突した時、三メートルもある巨体が飛んだ。


 五メートルほど宙を舞った巨体が激しく地面に叩き付けられた。これくらいで死ぬようなミノタウロスではないので、起き上がってハルバードを振り上げ襲い掛かってくる。


 そのミノタウロスに同じ魔法を叩き込む。もう一度地面に叩き付けられたミノタウロスは、よろよろしながら起き上がる。突進する体力もなくなったようなので、トリプルコールドショットでトドメを刺した。


「問題ないみたいだな。この魔法を『ティターンプッシュ』としよう」

 メティスも異論はないようだ。この魔法で形成されるD粒子の形成物は『ティターンプレート』と名付けた。


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