第305話 執事
昨日は酔った鉄心に絡まれて大変だった。鉄心もアリサたちがC級になったという事は喜んでいるのだが、それに比べて自分は、と考えたのだろう。だからと言って、俺に絡まないで欲しい。
エルモアが紅茶を淹れてくれた。影の中で養生していた御蔭で、完全に回復したようだ。
『アリサさんたちが手に入れた巻物を、調べないのですか?』
メティスの声に、俺は頷いた。アリサたちから預けられた巻物は、まだ収納アームレットの中に仕舞われたままなのだ。
「新しい特性が追加されると、新しい魔法を創りたくなるから、ちょっと保留かな」
『何か優先すべきものがあるのですね』
「屋敷をどう改装するか考えて、庭の地下に造る練習場もどうするか考えなきゃいけないと思っているんだ。メティスも一緒に考えてくれ」
それから三時間ほど考えて疲れたので、息抜きに冒険者ギルドへ行ってから外食しようと思った。冒険者ギルドに到着して資料室で鳴神ダンジョンの攻略具合をチェックしてから、外に出ようとして支部長に呼び止められる。
支部長室に行って用件を尋ねた。
「以前に屋敷を管理する者に心当たりがないか聞いた時があっただろ。あの管理人はもう決まったのかね?」
屋敷を管理する者を支部長に紹介してもらおうと思ったのだが、その時は心当たりがないと言われたのだ。
「もしかして、管理人が見付かったんですか?」
「管理人というより、執事だな」
「……執事は高いんじゃないですか?」
「払えるくらい稼いでいるはずだぞ」
確かに払えるほどの収入は有る。だが、執事なんて偉い人が雇うものじゃないのか、という感じがしてためらってしまう。支部長に執事の給与について相場を尋ねると手取りで月収三十万円くらいから数百万円まで様々らしい。何をやらせるかによっても変わるそうだ。
どういう人物か聞くと、冒険者を引退して執事となるためにイギリスへ行って学んで来た人物のようだ。経験も浅いので給金もそこまで高くなくて良いらしい。
「冒険者だった頃は、地道にコツコツ頑張る男だった」
ここの支部に所属して、水月ダンジョンで活動していた冒険者だったようだ。名前は
バタリオンを設立するとなると、屋敷を管理する者が必要だ。俺が留守の時に屋敷を訪れる者も増えるだろうし、大勢の人間が屋敷を使うなら、家政婦も雇わないといけないかもしれない。
今まで一ヶ月に一度、専門の業者に頼んで屋敷の掃除や庭の手入れなどをしていたのだが、このままではダメだろう。
「一度会わせてください。その上で決めます」
「そうだな。面接してみるか」
その金剛寺という執事を面接する事になった。
その数日後、屋敷に金剛寺が訪れたので、俺は自分で出迎える。金剛寺は背の高い紳士という感じの人物だった。
「
警備用シャドウパペットのボクデンが走ってきたので、俺は金剛寺に入館許可珠を渡した。その入館許可珠を見たボクデンは、金剛寺の顔を見てから見回りに戻る。
「あれは何でございますか?」
「警備用のシャドウパペットです。俺が正式に紹介した人物か、その入館許可珠を持つ者しか屋敷に入る事を許さないように命じてあります」
俺は建物の中には熊型の警備用シャドウパペットも居ると伝えた。
「厳重な警備をしているのでございますね」
「庭の倉庫には、貴重なものも仕舞ってあるんですよ」
屋敷の中に入ると玄関のところに熊型シャドウパペットのクレスが居た。金剛寺はクレスを見てビクッと反応したが、俺からクレスたちの事は聞いていたので、すぐに落ち着いたようだ。
リビングに案内するとエルモアがコーヒーを運んできた。
「彼もシャドウパペットなのですか?」
「そうです。尻尾は有りますが、人型シャドウパペットです」
ここで働くようになれば、シャドウパペットたちに慣れる必要がある。その点、元冒険者だった金剛寺は度胸もあり、大丈夫なようだ。
冒険者時代やイギリスでの事を聞いて、信用できそうだと感じた。金剛寺を雇おうと決めて、屋敷内で見聞きした事は秘密という条件で給与などの交渉をする。安い金額ではなかったが、執事としては妥当な給与で決着した。
俺は警備用シャドウパペットや為五郎たちを集めて、執事となる金剛寺を紹介した。警備用シャドウパペットには彼の指示に従うように命じる。
金剛寺には家族が居るというので、住み込みではなく通いという事になった。仕事は屋敷の維持管理と屋敷を訪れる者の応対がメインとなる。
面接が終わり金剛寺が帰ると、俺はソファーに座って伸びをした。
「ふうっ、これで何とかなりそうだな」
『金剛寺さんが休みの時や夜間はどうするのですか?』
どうする? 執事を増やし三交代で勤務させるというのは可能だが、それは金が掛かり過ぎるように思える。そうだ、もう一体人型シャドウパペットを作り執事の仕事を覚えさせるというのはどうだろう。
メティスに相談すると、簡単な仕事しかできないという。
『ただ訪問者が来たら門まで行って、迎え入れるような事はできるでしょう』
どれほどの事ができるか分からないが、金剛寺に執事シャドウパペットを教育させるのも面白いかもしれない。
屋敷の改装案や地下練習場の構造も纏まったので、建設会社に頼もう。これでやっと新しい特性を確認する余裕ができた。俺は特性の巻物を取り出し広げる。
賢者システムが自動的に立ち上がり巻物から情報を取り込む。使用済みとなった巻物から魔法陣が消えてから、賢者システムを確認した。
そのD粒子二次変異の欄に<衝撃吸収>の特性が追加されていた。
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