第304話 新たなC級冒険者
巨大な口が開き、またブレスが吐き出された。今度は千佳が展開する磁気バリアに命中して弾かれる。千佳は顔を歪めて凄まじい炎から急いで脱出する。
やっと攻撃のタイミングを掴んだ天音が、もう一度『サンダーソード』を発動しD粒子サンダーソードをファイアドレイクに向けて放つ。
D粒子サンダーソードの感知機能が魔物の巨体を感知した瞬間、先端からD粒子が自由電子に変換され放出される。それは強力な稲妻となって巨体の翼に襲い掛かり、ダメージを与える。
翼が麻痺したファイアドレイクがきりもみしながら落下し、もう少しで地面に叩き付けられるという時に回復して急上昇を始める。
「ええーっ、命中したのに」
天音は声を上げてから急上昇してくる敵に向かって急降下、ファイアドレイクとすれ違う瞬間にD粒子振動ボールを放った。
D粒子振動ボールがファイアドレイクに命中し、空間振動波が巨体の腹部を貫く。だが、それくらいで倒れるようなら三十層の中ボスではない。
激痛を感じたファイアドレイクは叫び声を上げた。耳が痛くなるような叫び、それを聞きながら天音は戦闘ウィングを急上昇させる。
空中でバサッと翼を広げたファイアドレイクが、天音を睨み後を追う。その後ろにはアリサと千佳が居る。
二人はスピードを上げた。そして、追い付くと『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを放つ。千佳のD粒子振動ボールは尻尾の付け根に命中し空間振動波が下腹を貫通した。
アリサが放ったD粒子振動ボールは翼に命中して翼を支えている骨を、空間振動波が削り取る。翼が折れ曲がったファイアドレイクが落下を始めた。
地面に激突したファイアドレイクがのた打ち回る。そこに由香里が駆け付け『ソードフォース』を発動。巨大な魔力の刃が高速で撃ち出され、ファイアドレイクの胸を切り裂く。
大量の血が噴き出したファイアドレイクの動きが鈍くなる。そこにアリサたちが飛んで来てD粒子振動ボールを放った。それは頭・胸・腹部に命中しトドメとなる。
ファイアドレイクの動きが止まり、最後には消えた。アリサたちは戦闘ウィングから降りて集まり、由香里も合流する。
アリサたちは子供のようにはしゃぎながら勝利を喜んだ。
「やったー、これでC級の昇級試験を受けられるのね」
由香里が嬉しそうに言った。天音が頷き、
「ブルーオーガを倒せば、C級になれると聞いてるけど、今も同じなのかな?」
「変えようという意見は多いらしいけど、他に適切な課題が見付からないそうよ。それより魔石とドロップ品を探そう」
アリサの言葉でドロップ品探しが始まった。最初に黒魔石<大>が見付かり、次にファイアドレイクの牙が発見される。
これだけじゃないだろうと探し回り、天音が巻物を発見した。その巻物の軸には魔法文字で水星を意味する文字が刻まれていた。
「アリサ、これ見てよ。もしかして、グリム先生が探している巻物じゃない?」
天音に呼ばれたアリサが、巻物を確認する。
「間違いないみたい。D粒子二次変異の巻物よ」
それを聞いた天音が嬉しそうに笑う。グリムが喜ぶ姿を想像したのだ。
「こっちも発見したよ」
千佳が発見したのは『収納ペンダント』だった。チェーンの部分が朱鋼製でペンダントトップがコインとなっているものだ。
アリサに詳しく調べてもらうと、縦・横・高さが全て八メートルの空間と等しい容量があると分かった。その収納ペンダントは、発見者の千佳が管理する事になった。
ドロップ品はそれだけのようだ。アリサたちは休憩してから地上に向かった。
「大物を倒したのに、魔法レベルは上がらなかったね」
由香里が残念そうに言う。それを聞いたアリサが肩を竦める。
「この前上がったばかりだからかな」
地上に戻ったアリサたちは、冒険者ギルドへ行って支部長と会いファイアドレイクの牙を見せた。支部長がジッと見詰めてから、その牙の正体が分かったらしく驚いた顔になる。
「グリム君に続いて、君たちもか。おめでとう、C級の昇級試験を受ける資格が与えられるだろう」
アリサが支部長に視線を向けて口を開いた。
「C級昇級試験の課題は、まだブルーオーガなんですか?」
「ああ、まだ変わってはおらんよ」
アリサたちは頷いた。グリムからブルーオーガとの戦い方について聞いており、倒す自信があったからだ。
生活魔法を使う四人がファイアドレイクを倒したという情報が冒険者ギルドに広まると、生活魔法に興味を持つ者が増えた。C級以上がグリムだけだった時は、グリム本人が凄いのだという認識だったが、さらにグリムの弟子であるアリサたちもファイアドレイクを倒すと生活魔法が凄いのかもしれないと評判になったらしい。
次の週、アリサたちは鳴神ダンジョンでブルーオーガを倒した。セブンスオーガプッシュとセブンスクラッシュランスを組み合わせた戦術で戦い勝利を得たのである。
その後、四人がC級冒険者となった事を祝って祝賀会が開かれた。出席者はカリナやタイチなどの魔法学院の関係者や知り合いの冒険者である。
カリナが嬉しそうな顔で四人に近付くと祝いの言葉を贈った。
「本当に良かった。卒業生から、こんな優秀な者が出てくると本当に嬉しい」
「グリム先生やカリナ先生の御蔭です」
アリサが代表して答えると、カリナが笑う。
「ほとんどグリム先生の御蔭ね」
グリムの方に視線を向けると、酒を飲んだ鉄心に絡まれていた。
カリナはアリサに顔を向ける。
「C級冒険者になったのを機会に、プロの冒険者になるつもりなの?」
「いえ、まだ学生を続けます。私たちは活動範囲を広げただけで、何も成し遂げていませんから」
カリナが頷いた。アリサたちの謙虚な学ぶ姿勢に感心したようだ。
「ジービック魔法学院は、どうなんです?」
「生活魔法に力を入れている我が校に、入学志願者が殺到しそうなの」
「カリナ先生一人で、大丈夫なんですか?」
「とてもじゃないけど無理。そこで強力な助っ人を雇う事にしたのよ」
「まさかグリム先生じゃないでしょうね。バタリオンの設立とかで、時間がないと思いますけど」
「グリム先生じゃないから大丈夫。なんと鉄心さんとタイチ君なのよ」
アリサがグリムに絡んでいる鉄心に目を向ける。
「大丈夫なんですか?」
「知識や技術は問題ないと思う。ただ私を含めて魔法レベル10に達していない者ばかりだから、評判になっている『クラッシュボール』を教えられないというのが問題ね」
アリサはカリナたちの魔法レベルを上げる手伝いができるだろうと考えた。レベル上げにはアイアンゴーレムが最適だと思ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます