第303話 ファイアドレイクと四人

 地上に戻った四人は、冒険者ギルドへ行って魔石を換金した。その代金は銀行口座に振り込むように手続きをして資料室に向かう。


 三十二層のアイアンゴーレムについて調べ直し、あの洞穴の奥にある熱気の原因について確認したのだ。

「ダメね。誰も調べた事がないらしい」

 アリサが溜息を漏らす。


「あのまま温度が上がるのだとすると、耐熱服でも耐えられそうにないからかな」

 天音がそう言うと、アリサが頷いた。

「そんな状況で、火に強い魔物と遭遇したら、かなり危険だからだと思う」

 アリサたちは気になるが諦めた。


「ところで、ゴーレムコアは換金しないの?」

 由香里がアリサに尋ねた。

「あれが何か分かってから換金しようと思ったのよ。天音は何に使われるものなのか分かる?」


 アリサが付与魔法使いでもある天音に尋ねた。

「ゴーレムコアは、魔力を操作する時の核になる部品なのよ。ゴーレムコアに魔力操路というのを刻み込んで、作るみたい」


 それを聞いたアリサは、ゴーレムコアを売らないという提案をする。

「もしかして、あたしのためならいいよ」

「天音のためじゃなくて、シャドウパペットを強化する時に使えそうな気がするの」


 天音は首を傾げた。ゴーレムコアとシャドウパペットの関係が分からなかったからだ。

「まだ、勘の段階だけど、グリム先生が持っている魔導吸蔵合金と組み合わせると何か出来そうな気がする」

 アリサの言葉に、他の三人は頷きゴーレムコアはアリサに任せる事にした。


 千佳がこれからの予定をどうするか尋ねた。

「ファイアドレイクを倒すための準備という事になるかな。まずは必要な魔法を習得しないと」

 アリサが言うと千佳が周りを見回して誰も居ない事を確認してから小声で言う。、

「でも、必要な魔法の中には、グリム先生が魔法庁に登録していないものもあるじゃない。それはどうするの?」


 アリサが頷いた。

「それについては、グリム先生から直接購入する事になっているの。未登録の魔法だから、習得しても人前では使わないで」

「それは、グリム先生が魔法庁に登録するまでという事?」


 千佳の質問に、アリサが頷いた。

「グリム先生は、生活魔法のラインナップを、攻撃魔法や魔装魔法と比べて見劣りしないものにしたい、と言っていたから、いずれは登録する予定でいるみたい」


 いっぺんに登録すると、新しい日本の賢者が生活魔法使いだとバレるから、登録を抑えているのだと伝える。


「あたしだったら、賢者だと公表するのになあ」

 天音が言うと、アリサが苦笑した。

「賢者だと公表したら、大勢の人々がこういう魔法を創ってくれ、と押し掛ける事があるみたい。外国で実際にあったそうよ」


 攻撃魔法の賢者なら、こういう魔物を倒す魔法を創ってくれ、生命魔法の賢者なら、難病を治す魔法を創ってくれと頼む者が居るはずだ。


「でも、いずれはバレると思うんだけど」

 天音が言った。アリサは同意するように頷く。

「そうね。でも、それまでは自由に行動できる」

 アリサの言葉を聞いて、皆が頷いた。


 必要な魔法の魔法陣はグリムから購入する事が決まり、習得した後の練習をどうするかという件に話が移る。


「はあっ、大学の授業が終わった後に魔法を覚えて、週末には覚えた魔法の練習か、ハードな日が続きそう」

 天音が愚痴を零す。アリサは由香里に顔を向ける。


「由香里は、『クラッシュボール』と『ソードフォース』、『ウォール』を覚えて、練習しておいて、私たちがファイアドレイクを落とすから、トドメを刺して欲しいの」


「了解、他に使えそうな攻撃魔法があったら、習得する」

 そこまで話し合ってから、四人は別れて自宅に戻った。


 タイチたちとのダンジョン修業は一ヶ月ほど中止にしてもらい、二週間ほどは新しい魔法の習得と練習を行った。三週間後、アリサたちはファイアドレイクに挑戦する事にした。


「黒月先輩が所属する騎攻士隊が、ファイアドレイクに挑戦したのだけれど、ダメだったみたい」

 由香里が冒険者ギルドで仕入れた情報を披露した。


「騎攻士隊の人たちに犠牲者が出たの?」

 アリサが確認した。由香里は首を振って否定する。

「『ドレイクアタック』をバンバン撃ったから、ファイアドレイクが逃げたそうよ」


 『ドレイクアタック』は必ず命中するという魔法ではない。マジック砲弾が命中するまで、ファイアドレイクがどこまで飛ぶか予想して発射しないとダメなので、慣れていない者は命中しないものらしい。


 ちなみに、ファイアドレイク狩りでC級以上の冒険者が参加していた場合、C級の昇級試験を受ける資格はもらえない。それに五人より多いチームで倒した場合もダメという事になっている。


 アリサたちは水月ダンジョンへ潜り、三十層を目指した。途中一泊して三十層に到着したアリサたちは、D粒子ウィングでファイアドレイクを探す。


 二十分ほど探した頃、ファイアドレイクを発見して気付かれる前に着陸する。D粒子ウィングでファイアドレイクと空中戦を行うのは無理だからだ。


「大丈夫なの?」

 由香里がアリサたちに尋ねると、千佳が頷く。

「グリム先生が一人で倒したファイアドレイクを、私たち四人で倒すのだから、大丈夫よ」


 アリサと天音、千佳は『ブーメランウィング』を発動して戦闘ウィングを出し、それに乗ると飛び上がった。


 三人がファイアドレイクを目指して飛んでいくのを見送った由香里は、D粒子ウィングでファイアドレイクの真下へ移動し、戦いが始まるのを待つ。


 空中でファイアドレイクを包囲したアリサたちは、『マグネティックバリア』を発動し磁気バリアを展開していた。


 包囲を嫌がったファイアドレイクが、凶悪な牙が並ぶ口を開けて火炎ブレスを放つ。

「わっ!」

 狙われたアリサは、磁気バリアで守りながらブレスの炎から脱出する。グリムの体験を聞いて大丈夫だと分かっていても、心臓がバクバクして指先が震えた。


 アリサが攻撃されたのを見た天音が慌てて『サンダーソード』を発動しD粒子サンダーソードをファイアドレイクに向けて放つ。


 だが、ファイアドレイクが急旋回したので、D粒子サンダーソードは外れてしまう。後を追い掛けるアリサたちの顔は青褪めていた。


 ファイアドレイクが複雑な軌道を描き飛んだからだ。身体に掛かるGに耐えて飛行するアリサたちは、攻撃するタイミングを捉える事ができず焦りを覚えた。長時間の空中戦は体力的に無理だと思ったのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る