第302話 アイアンゴーレムの宝箱
D粒子振動ボールがアイアンゴーレムに命中すると、空間振動波が放射されアイアンゴーレムの体を串刺しにする。命中したアイアンゴーレムは当然だが、その背後に居たアイアンゴーレムの体にも穴が開く。
空間振動波が伸びて占有した空間に存在する物質の全てを空間ごと揺さぶり破壊。その破壊力は凶悪だが、破壊範囲が狭いというのが、『クラッシュボール』の短所だ。
アイアンゴーレムの急所は、胸に埋まっている金属球である。それを破壊しない限り完全に倒す事はできないので、空間振動波が金属球を貫く必要があった。
但し、体に穴を開けられたアイアンゴーレムは、魔力の循環が上手くいかなくなり動きが鈍くなる。そうなれば、胸の中央を狙って金属球を破壊するのは簡単だ。
アリサたちが放つD粒子振動ボールは、アイアンゴーレムの胸に穴を開け動きを鈍くする。偶に金属球に命中してアイアンゴーレムが消える場合もあるが、それは数体だけだった。
アイアンゴーレムの集団は、アリサたちに向かって走り出す。金属の塊が一斉に走り出すと地面が揺れた。それを感じたアリサたちは、顔を強張らせる。
由香里が先頭を走るアイアンゴーレムを狙って『デスショット』を発動。徹甲魔力弾がアイアンゴーレムの胸に突き刺さり大きな穴を開ける。金属球も破壊され、そのアイアンゴーレムは消えた。
連続で攻撃を続けるアリサたちは、精神的に疲れたような表情を浮かべている。実際に魔法の発動間隔が長くなっていた。
「攻撃を続けて!」
アリサが叫ぶ。それに応えるように三人が魔法を発動する。アイアンゴーレムが十数体消えた時、天音は魔法レベルが上がったと声を上げる。その後、アリサ、千佳、由香里の順番で魔法レベルが上がる。但し、由香里が上がったのは攻撃魔法の魔法レベルである。
アイアンゴーレムはまだ迫ってくる。アリサたちは少しずつ後退しながら攻撃を続け、無傷のアイアンゴーレムは居なくなる。動きが緩慢になったアイアンゴーレムにアリサたちがトドメを刺す。
「あっ、また魔法レベルが上がった」
天音が声を上げる。アリサは天音に攻撃をやめて、他の者のサポートをするように指示した。そして、アリサも魔法レベル14になる。
「私も『14』になったから、サポートに回ります。由香里は攻撃魔法じゃなくて生活魔法で倒すようにして」
千佳がゾンビのように近付いてくるアイアンゴーレムの胸にセブンスハイブレードを叩き込んだ。弱点である金属球にD粒子の刃が食い込み破壊する。
「あっ、私も魔法レベル14になった」
アリサが頷き由香里に視線を向ける。
「後は由香里だけね。魔力が続く限りトドメを刺して」
由香里は頷きセブンスクラッシュランスを発動し、アイアンゴーレムの胸の中央に撃ち込んだ。残りのアイアンゴーレムは四体、その中の二体が同時に由香里を襲おうとする。
アリサが由香里を襲おうとするアイアンゴーレムにセブンスオーガプッシュを叩き付けて転ばす。その間に由香里がもう一体のアイアンゴーレムにトドメを刺す。
アリサと天音と千佳は、由香里がトドメを刺しやすいようにできるだけのサポートを行った。そして、残り二体のアイアンゴーレムの一体にトドメを刺した時、由香里の生活魔法の魔法レベルが上がる。
「上がったよ。皆、ありがとう」
それを聞いたアリサが、最後の一体にトドメを刺した。アリサたちはドサッと地面に座り込む。
「これで目標達成ね」
アリサの言葉に満足そうに三人が頷いた。
「疲れた。そうだ、ハンクたちに魔石を拾ってもらおうよ」
アリサたちは影からシャドウパペットを出して魔石を持ってくるように命じる。シャドウパペットたちは、時々転んだりしながらも黒魔石<小>を集めて持ってきた。
最後の魔石をモヒカンが持ってくると、アリサは嬉しそうに笑ってモヒカンの頭を撫でる。魔石は全部で三十四個だった。
やっと立ち上がる元気が出てきたアリサたちは、立ち上がってドロップ品を探し始める。
「アイアンゴーレムのドロップ品というと、朱鋼製細剣や魔導装備の指輪じゃないの?」
由香里がグリムに聞いた話を思いだして言う。
アリサは否定した。
「あれはボスドロップだから、参考にならないと思う」
「じゃあ、何だろう?」
その問いには答えられず、アリサたちは探し回り、アイアンゴーレムのドロップ品五個を発見する。それは『ゴーレムコア』と呼ばれているもので、アイアンゴーレムの胸にある金属球を直径三センチほどに小さくしたものだ。
そのゴーレムコアからゴーレムを作れる訳ではないが、様々な魔道具の部品となるので高額で換金される。収入的には素晴らしいと分かったが、期待した魔導装備ではなかったので、アリサたちの顔は渋い。
「あの洞穴に宝箱が有りそうだと思わない?」
由香里が洞穴に目を向けて言った。
アリサたちは話し合って洞穴を調べる事にした。但し、その前に魔力の残量を魔力カウンターでチェックする。
「残り三割という感じね。ちょっと不安」
由香里が声を上げる。それを聞いて千佳が、
「危険と判断したら、すぐ逃げられる準備をして調べよう」
四人はシャドウパペットたちを影に戻して洞穴の中に入った。中は薄暗く懐中電灯を取り出して点灯する。
幅七メートル、高さ五メートルほどある洞穴で丈夫そうだ。奥に進むと洞穴が二つに分かれており、アリサたちは右を選んで進む。そして、行き止まりで宝箱を発見。全員がワクワクしながら、中を調べると五つの指輪が入っているのを目にして、天音などは跳び上がって喜んだ。
「アリサ、何の指輪か調べて」
天音が頼むとアリサが指輪を手に取って『アイテム・アナライズ』を発動する。五つの指輪は『効率倍増の指輪』だった。
アリサから結果を聞いた天音が嬉しそうに笑う。
「これって、グリム先生が使っている魔力消費を半分にする指輪でしょ」
三人がうんうんと頷く。その顔は嬉しそうな顔になっている。以前から全員が『効率倍増の指輪』を欲しいと思っていたらしい。
「さて、一つずつ分配しても一つ余るけど、どうしようか?」
アリサが皆の顔を見回して言う。
「中々手に入らない魔導装備だから、予備として保管しておくのがいいと思う」
千佳が意見を述べると、全員が賛成した。
分岐点まで洞穴を戻って、今度は左の方へ向かう。だが、途中から暑くなり耐えられないほどの熱気を前方から感じるようになった。
「ねえ、前の方には溶鉱炉みたいなものがあるのかな?」
天音の言葉に、アリサは苦笑いする。アイアンゴーレムの巣だったので、そんな事を思ったのだろうが、溶鉱炉ではなく溶岩のようなものがあるのではないかとアリサは推測した。
これ以上は近付けないようなので引き返す。洞穴の外に出た四人は、このまま地上に戻る事にした。
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