第301話 アイアンゴーレム狩り

 シャドウパペットを完成させた四人は帰る事にした。アリサたちはシャドウパペットを影に潜らせるとそれぞれの自宅へ向かう。千佳は実家へ戻り、日課である素振りを行うために道場へ行った。


 道場では小学生と中学生たちが木刀を振っていた。ここは冒険者を目指す者が通う剣術道場なので、竹刀ではなく重い木刀を振る。


 千佳は一緒に素振りを始めた。先に始めていた道場生たちが素振りを終え、千佳が指導する事もある美冬という小学生が近付いてきた。


「千佳先生、今日はダンジョンに行ったの?」

 子供たちからは、千佳も先生と呼ばれている。

「いえ、今日はグリム先生のところへ行って、シャドウパペットを作ったの」


 美冬が目を輝かせた。

「シャドウパペット! 見たい、千佳先生見せて」

 美冬が大きな声を上げたので、他の道場生も集まってきた。それどころか、指導していた兄の剣壱も寄って来る。


「千佳、シャドウパペットを手に入れたというのは、本当なのか?」

「ええ、猫型シャドウパペットです」

「シャドウパペットは、高価だと聞いたが、金はどうしたんだ?」


「兄さん、買ったのではなく自分で作ったんです。材料もアリサたちと一緒に取りに行ったので、お金はライセンス料ぐらいです」


「そうか、千佳の生活魔法の師匠が、シャドウパペットの第一人者だったな。それより見せてくれ」

 千佳は影から出て来るようにタイガに命じた。すると、千佳の影からタイガがピョコッと顔を出し、飛び跳ねるようにして地上に姿を現す。


「うわっ、これは虎の子じゃ……違うな、顔が猫だ」

「猫型シャドウパペットを、トラ模様にしてみたの。可愛いでしょ」

「千佳先生、触っていい?」

 美冬が許可を求める。千佳が頷くとゆっくりと手を伸ばしタイガを撫でる。美冬の顔に笑みが浮かんだ。


「ふわふわだぁ。気持ちいい」

 剣壱も手を伸ばして、タイガに触れて納得できないという顔をする。

「そんな顔をして、どうしたんです?」

「これは粘土で作ったものなんだろ。何でこんなにもふもふなんだ?」


 千佳は苦笑した。

「材料はシャドウクレイだけど、魔法で作ったものなんだから、仕上げる時のイメージでもふもふにできるのよ」


 魔法と聞いて、剣壱は頷いた。未だに説明できないものが魔法だからだ。

 タイガは子供たちの人気ものになり、千佳の家族もタイガの存在を受け入れ、家で自由にさせる許可をもらえた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 次の週の金曜日、アリサたち四人は水月ダンジョンへ潜った。『ウィング』と『フロートボックス』を使いながら最短で二十層まで辿り着き、そこの中ボス部屋へ向かう。


 その中ボス部屋には先客が居た。四人のチームで、その中の一人は顔見知りである。

「黒月先輩……もしかして、ファイアドレイク狩りに来たんですか?」

 天音が質問する。


「違う。今回はダークキャット狩りだ。シャドウクレイが高騰しているんで、狩りに来たんだ」

「そうなんですか。騎攻士隊はファイアドレイクを狙わないのですか?」


 黒月が顔をしかめた。

「そういう計画は有るが、僕はまだ早いと言われたよ」

 黒月は騎攻士隊の中で若造に分類されるらしい。プロの冒険者になってから二年も経っていないのだから、仕方ないだろう。


 黒月はベテランの冒険者と組んで勉強中という感じらしい。

「君たちは、何を狩りに来たんだ? まさか、ファイアドレイクじゃないだろうな」


 天音が首を振った。

「あたしたちはアイアンゴーレムですよ」

 アリサたちは野営の準備をして、影からシャドウパペットたちを出した。シャドウパペットたちはまだ訓練中なので素早い動きはできないが、普通に歩く程度はできるようになっている。


 黒月たちが驚いた顔で、シャドウパペットたちを見ていた。黒月がまた近寄ってきて、

「そのシャドウパペットたちはどうしたんだ?」

 アリサが苦笑いする。

「私たちはグリム先生の弟子なんですから、自分たちで作れるんです」


「でも、シャドウパペットは黒色だと聞いたが、何か塗っているのか?」

「フランスで、シャドウパペットの色を白くする方法が発明されたんですよ」

 黒月が羨ましそうな顔をする。


 食事を終えてから、アリサたちは騎攻士隊の冒険者たちと話をした。面白い話や為になる話が聞けたので、有意義な夜だったと思う。


 翌日、二十層の中ボス部屋を出発、千佳が『フロートボックス』を発動する。アリサたちは『フロートボックス』を使って移動する事が多くなっている。魔力の消耗を抑えるためだ。


 四人が『ウィング』を使うより、交代で『フロートボックス』を使う方が魔力の消費を少なくできるのである。


 二十五層までは『フロートボックス』を使い、二十六層の海エリアでは『ウィング』を使って飛ぶ。二十七層はアンデッドのエリアなので、徒歩で通過した。


 三十一層を通過して、三十二層に下りたアリサたちは、岩と小石が散らばる荒野の風景が目に入った。

「殺風景な場所……ここにはアイアンゴーレムとデビルスコーピオン、リッパーバードが居るのね」

 千佳が周りを見回して言った。


「それじゃあ、アイアンゴーレムを探しましょう」

 アリサの声で四人は進み始めた。と言っても、徒歩である。ここのエリアにはリッパーバードが居るので、空を飛ぶと絡まれて攻撃を受ける恐れがあるからだ。


 リッパーバードで無駄な魔力を消耗したくなかったアリサたちは徒歩で進み、三十分ほどでデビルスコーピオンと遭遇し、『クラッシュボール』で瞬殺した。


 それから二十分ほど進んだ場所に、三方を岩山で囲まれた場所があった。その岩山には洞穴のようなものがある。冒険者ギルドの資料には、ここがアイアンゴーレムの群れが居る場所だと書かれていた。


「おかしい。アイアンゴーレムの姿が見えないけど、あの洞穴の中に居るのかな」

 天音が首を傾げる。

「洞穴を攻撃してみれば分かると思う」

 千佳が皆の同意を求めた。三人は頷いて同意する。


 四人で『サンダーアロー』を発動し放電コーンアローを洞穴の中に撃ち込む。落雷のような轟音が響き、洞穴の中から金属音が聞こえてくる。


 洞穴からアイアンゴーレムがぞろぞろと出てきた。その数はアリサたちが予想していたものより多く、三十体を超えている。全長二メートル半ほどのアイアンゴーレムが三十体以上も集まると迫力が違う。


「攻撃よ。危なくなったら、D粒子ウィングで退避するから、そのつもりで」

 アリサの合図で攻撃が始まった。由香里を除いた三人が『クラッシュボール』を連続で発動しD粒子振動ボールをばら撒き始め、由香里は『デスショット』を放つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る