第300話 三十層の中ボス復活

 『クラッシュボール』や『デスショット』の試し撃ちを終えたアリサたちは、三十一層へ行ってダークキャットを次々に倒し影魔石とシャドウクレイを手に入れる。


 その帰りに三十層を飛んでいる時、

「ねえ、あれは何だと思う?」

 千佳が三十層の空中を飛んでいる大きな鳥を見付けた。


「もしかして、ファイアドレイクじゃないの」

 天音が言うと、他の三人が驚く。

「復活した……このままじゃ見付かりそうだから、着陸しましょう」

 アリサが冷静に指示を出す。四人は着陸して、鞍を仕舞った。


「『ブーメランウィング』と『マグネティックバリア』を習得していたら、戦えたのに」

 千佳が悔しそうに言う。アリサが首を傾げ、

「『サンダーソード』か『ドレイクアタック』も必要だと思う」


「アリサは『クラッシュボール』じゃ命中させられない、と思うの?」

「ファイアドレイクは、素早いと聞いているから、空中で命中させるのは難しいんじゃないかな」


「んー無理か……空中で近くまで迫れば『クラッシュボール』を当てられそうな気がするけど」

「そんな状況だと、ファイアドレイクのブレスをもらう事になるんじゃない」

「そっかぁ、でも、D粒子振動ボールにブレスが命中すると、どうなるんだろう?」


 アリサが首を傾げる。

「衝撃で空間振動波が放射されるか、D粒子振動ボールが分解されるかだと思う」

 それを聞いた天音が目を丸くする。

「魔法が分解するんだ」


 千佳が残念そうな顔をする。

「これってチャンスじゃないかと思ったのに」

 千佳が好戦的になっている。もしかすると、ファイアドレイクを倒して、C級昇級試験を受ける資格を手に入れたいと思っているのかもしれない、アリサはそう思った。


「でも、準備が出来ていないのに、戦うのは無謀よ」

「そうか……そうなると、どうやったら、短時間で魔法レベルを上げるかだけど……アリサはアイデアがある?」


 アリサが頷いた。

「一つだけある。三十二層にアイアンゴーレムの群れが居るの。それを狩れば、魔法レベルは上がると思う」

「アイアンゴーレム……面白いじゃない。天音と由香里はどう思う?」


 天音はニコッと笑い、賛成だと伝える。

「あたしたちがアイアンゴーレム狩りをしている間に、他の誰かがファイアドレイクを倒さないかな?」

 由香里は別の事を心配したようだ。


 アリサは渋い顔をする。

「水月ダンジョンで活動している冒険者の中で、トップは黒月先輩が居るバタリオンの騎攻士隊か、私たちだと思う」


 アリサはファイアドレイクを倒す可能性が有るのは、石橋が設立した騎攻士隊の冒険者たちだけだろうと言った。石橋がバタリオンを設立した効果が出て、騎攻士隊では優秀な攻撃魔法使いが育っているらしい。


 アリサたちは用心しながら三十層を進み、地上を目指した。翌日の夜に地上に戻ったアリサたちは、冒険者ギルドへ行って、ファイアドレイクの事を報告する。これは冒険者としての義務なのだ。


「ファイアドレイクが復活したというのは、本当なのか?」

 アリサたちが受付で報告しているのを聞いて、鉄心が後ろから声を掛けた。

「うわっ、びっくりした。鉄心さん、驚かさないでください。……ファイアドレイクの件は、ちゃんと見ましたから確かです」

 天音が答える。


「もしかして、ファイアドレイクを狙うのか?」

 鉄心の問いに、アリサが渋い顔をする。

「倒したいとは思うのですが、すぐには無理です」


 鉄心は頷いた。

「そうだろうな。ファイアドレイクは強敵だ。一人で倒したグリムが、異常なんだよ」

 それを聞いたアリサは苦笑する。

「普通じゃないのは認めますが、グリム先生は努力家ですから、その結果だと思います」


 鉄心と少し話をしてから、アリサたちは冒険者ギルドの資料室に向かう。ファイアドレイクの資料を読んで打ち合わせ部屋に移り、今後の予定を話し合った。


 アリサたちがプロの冒険者なら、休養を取った後にアイアンゴーレム狩りに行くところなのだが、学生であるアリサたちには授業がある。


「シャドウパペットはどうしようか?」

 天音が三人に尋ねた。

「三十二層には、すぐに行けそうにないから、来週の土曜にグリム先生の屋敷を借りて、作るというのはどう?」


 由香里の提案に他の皆は賛成する。グリムからは屋敷の作業部屋をいつでも使っていいと言われているのだ。


 次の土曜日にグリム屋敷に集まった四人は、作業部屋でシャドウパペットの作製を始める。アリサたちが用意したソーサリーシリーズは、暗視機能付きのソーサリーアイと高性能なソーサリーイヤー、それとソーサリーボイスである。


 ダンジョンで野営する時の見張り番にする予定なので、高性能なものにしたのだ。四人で協力してシャドウクレイにD粒子を練り込み、それぞれが二十キロのシャドウクレイを使って猫型を作製する。


 形が整いソーサリーシリーズと魔導コアを埋め込んだ後、最後の仕上げの段階になって、アリサがスプレー缶とマスキングテープを取り出した。


「見て、これがフランスから取り寄せたシャドウパペットの色を白にするスプレー缶よ」

 アリサは苦労して手に入れたスプレー缶を自慢そうに見せた。このスプレー缶の中には付与魔法で加工された塗料が入っており、その塗料を吹き付けてから最後の仕上げを行うと色が変わるという。


 アリサは頭の部分にモヒカンのようになる感じでマスキングしてから塗料を吹付け、尻尾にも吹き付けた。天音は鼻から下の顔と胸から腹の部分が白くなるようにする。


 由香里は全体的に白くして、大きな斑の黒い部分が所々に残るようにした。そして、千佳は白と黒の虎のような模様にする。


 最後の仕上げをすると個性的な猫型シャドウパペットが出来上がる。アリサは『モヒカン』、天音は半分が黒ということで『ハンク』、由香里は『ブチ』、千佳は『タイガ』と名付けた。


「へえー、千佳のシャドウパペットは『タイガー』じゃなくて『タイガ』にするんだ」

「虎の子供みたいだけど、虎じゃないから『タイガ』にしたの」


 アリサたちの猫型シャドウパペットは、体重が二十キロしかないが、平均的成人男性の二倍ほどのパワーを持っている。ゴブリン程度なら倒せる戦闘力を持っていた。


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