第299話 バタリオンの準備

 俺は新しい魔法の飛翔速度を正確に測り、十ミリ秒で進む距離を計算した。一メートルちょっとという距離だったので、魔物との距離が分かれば時間の指定は割り出せるようにした。


「さて、こいつの名前だけど、『クラッシュボールⅡ』という事でいいか」

 コムギが俺の傍に来た。メティスは魔法の名前には興味がないようで、気のない返事で『いいと思います』と答える。


『それより、『パワーソード』を使ってみませんか』

「そうだな。試してみよう」

 収納アームレットからパワーソードを取り出し、魔力を注ぎ込む。すると、体中にパワーが漲るのを感じた。


「凄いな。何でもできそうな感じがする」

 俺は真上にジャンプしてみた。普段なら六十センチほどしか飛べないのに、今は軽く飛んだのに一メートルほどジャンプしていた。


 有り余るパワーを感じて嬉しくなり、練習場を走り回り、コンクリートブロックの上に跳び上がったりして、漲るパワーを試した。十五分くらい試しただろうか。


『その辺でやめた方がいいようです。パワーに振り回されているように見えます』

「慣れていないんだから仕方ないさ」


 俺はパワーソードを仕舞ってから、冒険者ギルドへ行った。昨日のレイドバトルの成果が纏まる頃だと思ったのだ。資料室へ行くと要塞のマップが出来ていた。


 大きな模造紙に一階ごとにマップを描いて壁に貼られている。それを数人の冒険者が見ており、その中に西條が居た。


「もう身体はいいんですか?」

「ああ、昨日は世話になったようだな。ありがとう」

 職員から俺が運んだ事を聞いたようだ。


「倒れている西條さんを発見して、要塞の外まで運んだのは、長瀬さんです。俺はそこから地上まで運んだんです」


 西條は無表情のまま聞いていたが、最後にもう一度礼を言ってから資料室を出て行った。

 その様子を鉄心が見ていた。ニヤッと笑って俺に近付いてくる。

「西條にしてみれば、面白くないんだろうな」

「何が面白くないんです?」


「ライバルだと思っている二人に助けられたからさ」

「勝手にライバルにされてもな」

「まあ、C級冒険者がA級冒険者二人をライバル視するのも、どうかと思うんだが、西條は北海道で魔装魔法使いの天才と呼ばれていたらしいからな。すぐにA級になれると思っているんだろう」


 西條の魔法才能は『S』なのかな?

「そう言えば、鉄心さんはC級冒険者を目指しているんですよね。どうですか?」

 鉄心が肩を竦める。

「今は地道に実績を積み上げているところだ。二、三年掛かるかもしれんが、C級になってみせる」


 鉄心なりに頑張っているようだ。

「そうだ、鉄心さんは、魔法レベル9で習得できる『クラッシュランス』という生活魔法を知っています?」

「いや、魔法庁に登録されたばかりの魔法か?」


 俺は頷いて肯定する。

「大上佐平次という人が登録した生活魔法なんですが、今までの生活魔法とは違い、防御力の高い魔物にも効果的な魔法なんです」


「ほう、グリムのお勧めという事か。魔法レベル9になったら、習得するよ。ところで、バタリオンを設立すると言っていたが、計画は進んでいるのか?」


「ええ、資金も確保したので、メンバーが揃ったら設立します」

「そのメンバーに、おれも入れてくれ」

「それは歓迎しますけど、鉄心さんは魔装魔法使いなのに、俺のバタリオンでいいんですか?」


「おれはどこのバタリオンにも入っていないから、問題ない」

 これでアリサたち四人とタイチとシュン、鉄心の七人になった。バタリオンの設立に必要なのは十人なので、後三人という事になる。


 数日後、オークションでキメラクリスタルと『生命の木の実』が売れたという連絡が入り、俺の銀行口座に大金が振り込まれた。但し、税金が有るので口座の全額を使える訳ではない。


 俺は千佳の祖母と交渉して屋敷を買い取った。手続きは面倒だったが、屋敷は俺のものになり改装を加える事になる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 グリムが大上佐平次の名前で『クラッシュボール』、グリム先生の名前で『カタパルト』を魔法庁に登録した事を、魔法庁で生活魔法の一覧を調べてアリサたちは知った。


「この『クラッシュボール』で、グリム先生はアクアドラゴンを倒したんだよね」

 由香里が目を輝かせて言った。それを聞いた千佳が、

「当然、『クラッシュボール』の魔法陣を買うでしょ」


 千佳の提案に全員が頷いた。

「悔しいな。皆はすぐに習得できるのに、あたしだけ魔法レベル10になるまで待たなきゃならない」

 由香里が本当に悔しそうに言う。


「由香里なら、魔法レベル10なんてすぐよ。それより攻撃魔法の魔法レベルが『12』になったんでしょ。『デスショット』を覚えられるんじゃない」

 アリサが慰めるように言った。


「由香里は凄いよ。生活魔法に攻撃魔法、それに生命魔法も頑張っているんだから」

 天音が由香里を褒めた。それを聞いた由香里が嬉しそうな顔をする。


 由香里は『クラッシュボール』の魔法陣の他に『デスショット』の魔法陣も購入した。


 それから数日後、『クラッシュボール』と『デスショット』の使い心地を試すために四人で水月ダンジョンに潜った。目標は三十一層のダークキャット狩りだが、途中の二十三層でアーマーベアを相手に『クラッシュボール』と『デスショット』を試す予定である。


 二十層の中ボス部屋で一泊して、二十三層を目指す。途中はD粒子ウィングで飛んで二十三層に下りた。このエリアにはパニッシュライノやアーマーベアが巣食っており、最初に遭遇したのはパニッシュライノだった。


 パニッシュライノは雷装アタックという電気を纏った体当たりという攻撃手段を持っているので、用心しなければならない。


 アリサたちが風上に居たせいで、パニッシュライノが匂いで先に気付く。アリサたちがパニッシュライノに気付いたのは、電気を纏い突進してくる足音を耳にしてだった。


「『クラッシュボール』を試そう」

 天音が声を上げる。最初に言い出した天音が試す事になり、注意深く狙って『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを放つ。


 D粒子振動ボールはパニッシュライノの頭に命中して空間振動波を放射する。頭・首・胸・腹・尻を貫通し致命傷を与えた。倒れたパニッシュライノは魔石を残して消える。


「凄い、一撃よ」

「パニッシュライノは、それなりに防御力が高かったはずなのに」

 天音と由香里が声を上げる。その後、アーマーベアに対して『クラッシュボール』を試し、威力が異質である事を感じた。由香里だけは『デスショット』の威力を確かめたのだが、満足するだけの威力を感じたようだ。


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