第298話 新しい特性
近藤支部長が俺に視線を向ける。
「ギルドで換金するものは有るかね?」
「魔石を換金したいですね。それとこれをオークションに出す手続きをお願いします」
俺が取り出したのは『生命の木の実』である。それを見た瞬間、近藤支部長の目が丸くなる。
「そ、それは『生命の木の実』ではないのか?」
「支部長は知っているんですか?」
「以前に、一度だけ見た事がある。その時は、大騒ぎになったものだ」
『生命の木の実』は万能薬エリクサーの材料である。エリクサーの材料の中で長期保存が効かない唯一のものなので、『生命の木の実』が発見されると同時にエリクサーが作られると言われている。
他の材料である『賢者の石』などは保存が効くので、国家や世界的な大金持ちが大金を出して確保しているようだ。そして、『生命の木の実』がオークションに出されるたびに、エリクサーが作られ使用される。
『生命の木の実』を手に入れた冒険者は、世界的にも評価されるらしい。ランキングのポイントにもなるので最下位脱出は確実だという。
「ところで、俺が倒したミノタウロスの上位種が何だったのか、調べられませんか?」
「魔石を鑑定すれば、判明するかもしれんな」
支部長は加藤を呼んで魔石の鑑定を頼んだ。
「この黒魔石<中>は、ミノタウロスティターンのもので、黒魔石<大>はミノタウロスマーシャルのものです」
「マーシャル……連邦保安官?」
俺が首を傾げると、支部長が苦笑いする。
「違うだろう。元帥の方のマーシャルじゃないか。ジェネラルより上だという事だ」
蛇矛を持っていたのがミノタウロスマーシャルで、ミノタウロスの巨人がミノタウロスティターンだったようだ。要塞のボスだと思われるミノタウロスロードは長瀬が倒したのだろう。
『生命の木の実』をオークションに出す手続きをしてから、俺は屋敷に戻った。エルモア以外のシャドウパペットたちを影から出すと、リビングでぼんやりする。
コムギが俺の傍に来て、メティスの声が頭に響く。
『疲れたのですか?』
「まあね。身躱しアーマーのせいで、生活魔法使いらしい戦いをさせてもらえなかったからな」
要塞という建物の内部で戦ってみて思ったのだが、『デスクレセント』より『クラッシュボール』の方が使いやすかった。
『疲れているなら、お休みになられてはどうですか?』
「寝るには早すぎる。それに腹が空いて寝れそうにないよ」
俺は冷蔵庫から冷凍ピザを取り出して、オーブンレンジで温め始めた。
ピザが焼き上がるのを待っている間に、手に入れた巻物が何か確かめようと思い収納アームレットから取り出した。
その巻物を開くと、賢者システムが自動的に立ち上がり巻物に描かれている魔法陣から情報を読み取り始めた。そして、何の魔法陣だったか判明する。
「こいつは、<タイマー>というD粒子二次変異の特性だ」
この特性はミノタウロスマーシャルと戦っていた時に欲しいと考えていた特性だった。あの戦いを見ていた誰かが、俺の考えを読み取ったのだろうか?
ピザが焼き上がったので、オレンジジュースと一緒に食べる。腹が膨れると眠くなったが、アイデアが浮かんだので、このまま魔法を創る事にした。
もう一度賢者システムを立ち上げる。
『魔法を創るのですか?』
「あれっ、俺が賢者システムを立ち上げたのが分かったのか?」
『そんな顔をしていました』
どんな顔だよ。まあいい、それより浮かんだアイデアを形にしよう。
「『クラッシュボール』を改良したものを創ろうと考えたんだが、どう思う?」
『身躱しの鎧を装備している魔物が、他に居るかどうかは分かりませんが、用意しておくのは賛成です』
メティスも賛成してくれたので『クラッシュボール』を基に新しい魔法の開発を始めた。まずは飛翔速度を上げよう。時速百七十キロだったものを時速四百キロに上げる。
『クラッシュボール』には<ベクトル制御>と<分散抑止>というD粒子二次変異の特性が付与されているが、二つまでという制約が有るので、新しい<タイマー>という特性を付与するには、どちらかを切り捨てる必要がある。
「<ベクトル制御>と<分散抑止>か……射程は絶対に必要だから<ベクトル制御>を切り捨てるしかないな」
<タイマー>を中核とした仕組みを組み上げ、発動時に指定した時間で<空間振動>が効果を発揮するように構築する。その指定する時間というのは千分の一秒単位の時間になる。
但し、<ベクトル制御>を切り捨てたので自爆する可能性が出てきた。そこで新しい魔法で形成される高速振動ボールが五メートル以上飛翔した後でないと<空間振動>が機能しないように制限を掛ける。
ちなみに『クラッシュボール』と同じ量のD粒子を使って、<ベクトル制御>なしで全方位に空間振動波が放射すると、直径一メートル半ほどの球形の破壊空間を形成する事になる。
身躱しの鎧は大きく軌道を曲げる事はできず、鎧の七十センチほど横を通過するような感じだったので、もう少し破壊空間を拡大しなければならない。そこで直径三メートルほどの球形破壊空間を形成するように変更し、消費魔力を抑えるために空間振動波の振動数を下げる事にした。
振動数を下げると威力が落ちる。コンクリートを砂粒のようになるまで粉々に粉砕していた威力が、小石程度までにしか砕けないようになるだろう。まあ、それで十分だと俺は思っているが、実際に試して確かめないとダメだろう。
これ以上は有料練習場で試しながらでないと仕上げられない。俺は明日に持ち越す事にする。
翌日、有料練習場へ行って大きな練習場を借りた。
コンクリートブロックを標的として新しい魔法を試してみる。時間指定しないで試すとコンクリートブロックに命中して、粉砕音を響かせてから砕いた。
『『クラッシュボール』の時はブギャンという音が響くくらいで、こんな大きな粉砕音はしませんでした』
「振動数を変えたせいかな」
コンクリートブロックは小石の山のようになっている。確かに威力は落ちたようだ。残った小石を見て、この威力で良いのかと不安になる。
威力範囲を今のままで、空間振動波の振動数を元に戻す。但し、魔力消費が大きくなり過ぎるので、球形破壊空間を形成する時間を半分にして魔力を抑えた。
その結果、威力が元に戻った。空間振動波の威力は、放射している時間ではなく振動数で決まるようだ。
その後も実験を続ける。<タイマー>の特性は上手く働き指定した時間が来ると<空間振動>の特性が機能した。但し、指定した時間が早すぎた場合、空振りする事になる。
この空振りがどこまで近付いて作動したのか分かり難いと感じた。そこでD粒子一次変異として、<発光>も追加する。これは<空間振動>の特性が機能したと同時に光を放って位置を知らせるものだ。合図としての光なので、新しい魔法の威力は変わらない。
但し、習得できる魔法レベルは『14』になった。
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