第297話 レイドバトルの終了

 魔石を拾い上げると黒魔石<中>だった。つまりミノタウロスジェネラルと同クラスの魔物だったという事だ。と言っても、魔石の種類で魔物の強さを正確に評価できる訳ではない。ただ同じ種族の上位種だと正確に差が出るようなのでミノタウロスロードではないと思われる。


『早くドロップ品を探し出して、地上に戻りましょう』

 メティスは時間を気にしているようだ。そう言えば、タイムリミットの四時間まで時間がない。


 コムギも手伝ってドロップ品か宝箱を探す。すると、壁に突き刺さった剣を発見した。なんとなく見覚えのある剣だ。壁から引き抜いて確かめると、これは西條が持っていたデュランダルに似ている。


 俺は鑑定モノクルで確かめ、デュランダルである事が判明した。

「ここで戦ったのは、西條さんだったのか。死体がないからエスケープボールで逃げたんだな」

『おかしいですね。デュランダルほど強力な剣を持つ西條さんなら、あのミノタウロスの巨人を倒せたと思います』


「あいつは何か切り札を持っていたのかもしれない。だが、不慮の事故で出せなかったのだろう」

『不慮の事故ですか? そうとも言えますね』

「仕方ない。持っていってやるとするか」

 俺はデュランダルを収納アームレットに仕舞った。


 それから部屋の隅から隅まで探し『生命の木の実』を発見した。これは万能薬エリクサーを作る材料の一つである。これをオークションに掛ければ、十五億円ほどの値段になるだろう。


『これでバタリオン設立の資金は出来ましたね』

「ああ、レイドバトルに参加した甲斐かいがあった」

 俺は精神的にも肉体的にも疲れていた。もう一つの部屋を確認せずに要塞の外へと向かう。要塞の外に出ると何人かの冒険者が草原で座り込んでいる。


 魔力を消耗して外に出たのだろう。見回すと長瀬と西條が居る。西條は負傷したようで、草原の上に横たわっている。


「西條さんは大丈夫なんですか?」

 俺は長瀬に尋ねた。

「三階の部屋から出てきた時、外に倒れていたので担いできたんだが、たぶん大丈夫だろう」


 中級治癒魔法薬を飲ませたせいで寝ているだけらしい。中級治癒魔法薬を飲ませると猛烈な眠気が襲い掛かり、気絶したように眠る事がある。それは脳に衝撃を受けた時らしいのだが、西條の状態がそれで有るという。


 長瀬が時計を見て要塞の方へ歩き出した。四時間が経過したので、共鳴弾で終了の合図するのだ。少しすると半鐘の音のようなカンカンという音が鳴り響いた。


 それを合図に冒険者たちが戻り始め、三十分ほどすると全員が戻ってきた。今回のレイドバトルで死んだ者は居なかったようだ。


 後藤たちも戻り、にこやかな顔でチーム内で話している。

「いい収穫があったようですね」

 俺が後藤に話し掛けた。


「ああ、ミノタウロスの集団を全滅させて、宝箱を見付けたんだ」

 宝箱の中に何が入っていたのか教えてくれなかったが、顔の表情からかなりのお宝を手に入れたらしいと分かった。


「グリム君も、お宝を見付けたんじゃないか?」

「ええ、ミノタウロスジェネラルを倒して宝箱を見付けました」

「やるじゃないか」


 そんな話をしていると、長瀬が声を上げた。レイドバトルの終了宣言である。それを聞いた冒険者たちは、地上へ向けて戻り始めた。


 俺も帰ろうとすると、長瀬が呼び止めた。

「済まないが、西條を運んでくれないか。生活魔法には便利な魔法が有ると聞いている」


 生活魔法は役に立つという事を広める良い機会だし、今回のレイドバトルでは一緒に戦った仲間と言えるかもしれない。俺は承諾して『フロートボックス』の魔法を発動した。それを見て、後藤たちが乗せてくれというので頷いた。


 こいつは一応六人乗りなので問題ないが、六人も乗ると窮屈だ。俺は五メートルまで上昇すると、先に出発した冒険者たちを追い越して階段まで飛んだ。


 階段の入り口前で全員を下ろすと、今度はD粒子ウィングを出して担架を括り付けて西條を運ぶという方法を使う事にした。


「へえー、そういう使い方もできるのか。便利だな」

 後藤が感心して言う。西條には俺の保温マントを着せてあるので、温度変化は大丈夫だろう。


 後藤たちと別れ八層と七層はD粒子ウィングで西條を運び、D粒子ウィングを使えないアンデッドエリアの六層はどうするか考えた。


 仕方ないので西條はD粒子ウィングで運び、俺と為五郎で守りながら進む事になった。近付いてくるアンデッドたちは、光剣クラウで薙ぎ払い始末する。


「アンデッドエリアでも飛べるようにならないかな」

『それには聖属性のバリアみたいなものが必要になると思います』

「聖属性バリアか……ちょっと待て、バリアが必要か?」


『どういう事でしょう?』

「いや、聖属性の服が有ればいいんじゃないかと思ったんだ」

『なるほど。そうですね』


 こういう事もバタリオンのメンバーになった者には教えよう。

 今回は仕方ないので、俺と為五郎で西條を守りながらアンデッドエリアを突破して五層へ上がり、転送ルームから一層へ移動し地上へ戻った。


 地上では冒険者ギルドの職員が待ち構えていた。俺は西條をギルド職員に任せる。この時、保温マントを回収し、デュランダルをギルド職員に渡す。それから冒険者ギルドへ向かう。ここでは支部長が待っていた。


 支部長室へ案内された俺は、要塞で起きた出来事を説明。支部長は興味深そうに頷きながら聞いている。

「ほう、ミノタウロスモンクとジェネラル、上位種を続けて倒したのか。凄いな」

 近藤支部長はミノタウロスジェネラルが装備していた『身躱しの鎧』に興味を持った。


「それは厄介な代物だな。どうやって倒したのか聞いてもいいかな?」

「『プロテクシールド』などの防御系の魔法と敵に命中したら爆発などを起こす魔法を組み合わせる方法です」

「なるほど、近接信管付きの対空砲弾のような攻撃方法を、二つの魔法を組み合わせる事で実現したのか。いいアイデアだ」


「五年ルールがなければ、秘密にしておきたかったんですけど」

「冒険者の命を守るためのルールだからな。そこは我慢してくれ」


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