第296話 悲劇の巨人

 あの魔導武器から放たれたものは何だったんだ? 魔力を感じたから魔力の斬撃か? 魔装魔法に似たような魔法が有ると聞いた事がある。


 ミノタウロス上位種が持つ蛇矛の動きに注意を向ける。少しでもダメージを受けた事が気に入らないミノタウロス上位種は、目を吊り上げて迫ってくる。


 蛇矛が振り上げられるのを見て、俺は『ファイアワークアロー』を発動してミノタウロス上位種を狙って虹色に輝く矢であるレインボーアローを放つと同時に横に跳んだ。


 蛇矛から放たれた何かが五十センチも離れていない場所を通り過ぎて、背後の壁に命中して大きな傷を付けた。近くで感じて分かったが、蛇矛から放たれたのは魔力の斬撃に間違いないようだった。


 一方、俺が放ったレインボーアローは軌道を曲げられ外れた。ただ背後の壁に当たって花火のように光を放つ。その光を浴びたミノタウロス上位種は、何かの攻撃だと思い横に跳んだ。


 『ファイアワークアロー』の攻撃は単なる時間稼ぎでしかなかったが、その間に連続で『プロテクシールド』を発動し三つのD粒子堅牢シールドを前方に形成する。


 花火のような光が攻撃ではなかったと気付いたミノタウロス上位種は、激怒して突進してきた。俺はD粒子堅牢シールドとミノタウロス上位種が一直線に並ぶ位置に移動し、D粒子振動ボールを放った。


 D粒子堅牢シールドに衝突したD粒子振動ボールは、空間振動波を前方に放射してミノタウロス上位種の脇腹を貫く。この一撃で俺が何をしたか気付いたミノタウロス上位種は血を流しながら蛇矛の魔力斬撃を放ち始めた。


 俺は逃げ回り、間に合わないと判断した時に咄嗟に『逸らしの盾』を取り出して、その後ろに隠れた。魔力斬撃は『逸らしの盾』で防いだ。


 ミノタウロス上位種は狂ったように魔力斬撃を放ち続けるが、『逸らしの盾』はその全ての軌道を逸らして俺を守ってくれた。


 俺は魔力斬撃を防いでいる間に、『マグネティックバリア』を発動。俺の首にD粒子磁気コアが現れ、いつでも磁気バリアを展開できるようになる。


 一方、魔力斬撃で倒れない俺を見て、ミノタウロス上位種は少しずつ近付いてきた。魔力斬撃の攻撃が止まった瞬間、ミノタウロス上位種の前面に磁気バリアを展開した。


 素早く五重並列起動で『クラッシュボール』を発動し、D粒子を横一直線に並べて磁気バリアの向こうに居るミノタウロス上位種に向けて飛ばす。


 D粒子振動ボールを感じたミノタウロス上位種は避けようとしたが、脇腹の傷のせいで行動が遅れた。磁気バリアにD粒子振動ボールが命中して、空間振動波が放射されミノタウロス上位種の胸を貫いた。


 分厚い胸を貫いた三つの空間振動波と大量に吐き出された血。それを目にした俺は、磁気バリアを利用してトドメを刺した。


『事前に盾を手に入れていなかったら、危なかったです』

「ミノタウロスの上位種が、あんな防具を持っていると分かっていたら、対策を立てられたんだが、レイドバトルだからな」


『ドロップ品を探しましょう』

 影からコムギが出て来て探し始める。最初にスケイルアーマーが見付かった。

「これってミノタウロスジェネラルが装備していたものに似ているな」


 俺は鑑定モノクルを取り出して確認する。このスケイルアーマーは『イベイドアーマー』と表示された。日本語だと『身躱しアーマー』みたいな感じだろうか。


『グリム先生、宝箱です』

 部屋の奥に宝箱を発見したメティスが声を上げた。用心しながら宝箱を開けると、中に巻物と剣が入っていた。剣は朱鋼製だと思われるもので、ショートソードに分類される剣である。


「この巻物はD粒子二次変異の魔法陣か、期待できそうだな。だが、ここで確かめるのはやめておこう。剣はどういうものだ」


 俺は鑑定モノクルを取り出して確かめる。その結果『パワーソード』と呼ばれるものだった。これはパワーソードに魔力を流し込むと使用者の筋肉が五倍ほど強化されるというものらしい。


「使えそうな魔導武器だけど、使った翌日は筋肉痛で動けなくなるのか?」

『その場合は、『治療の指輪』を使えばいいのではありませんか』

「なるほど」


 使ってみて確かめるしかないだろう。戦力アップに繋がる魔導武器を手に入れて喜んでいた俺に、コムギが魔石を持ってきた。


「ありがとう」

 黒魔石<大>の魔石を仕舞ってから、魔力を補給するために不変ボトルの万能回復薬を飲んだ。時計を見るとレイドバトルが始まってから三時間が経過している。


「長瀬さんと西條さんは大丈夫だったんだろうか?」

『外に出て確かめましょう』

 俺は部屋の外に出て、左の扉と真ん中の扉を確認する。その二つの扉は開いていた。


「あれっ、二人とも魔物を倒して帰ったのか」

 俺は用心しながら、左の扉に入った。その瞬間、扉がバタリと閉まる。

『用心を』


 部屋の中を見回すと、先ほど戦ったミノタウロス上位種より巨大な上位種が居た。

「二人のうち、どちらかが死んだのか、それともエスケープボール?」


 巨大なミノタウロスは、身長が五メートルほどあるだろう。ここまで大きいとミノタウロスというより、巨人だった。


 その巨体に装備している鎧などの防具には、いくつかの傷がある。やはり西條か長瀬のどちらかと戦ったようだ。武器は巨大な戦鎚であり、鎧は戦車の装甲板のように分厚く頑丈そうに見えるが、特殊な効果はなさそうだった。


 俺は『クラッシュボール』を連続で発動し、D粒子振動ボールをばら撒いた。D粒子振動ボールに感づいた巨大ミノタウロスは戦鎚を振り回して弾き飛ばそうとする。


 D粒子振動ボールの中の一個が戦鎚に叩かれた拍子に空間振動波を放射する。その空間振動波により直径十センチほどの戦鎚の柄が九割以上切断され折れ曲がった。折れた戦鎚の先端が、変な軌道を描き巨大ミノタウロスの股間に向かう。


 喜劇? いや悲劇が起きた。折れた戦鎚が持ち主の股間を直撃したのだ。それを見た俺は思わず、

「チン撃の巨……いやいや、戦闘中に馬鹿な事を考えると油断に繋がる」


 巨大なミノタウロスは、床に倒れて苦しんでいる。俺は七重起動の『ダイレクトボム』を発動してD粒子爆轟シェルを放ちトドメを刺した。


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