第295話 ミノタウロス上位種
俺とミノタウロスジェネラルは同時に相手に気付いた。動いたのはミノタウロスジェネラルが先である。これは魔装魔法使いのように本格的に武術などを修業していない生活魔法使いの弱点で、戦闘態勢に入るのが遅いのだ。
それに生活魔法は射程が短い魔法が多いので、相手が攻撃してくるのを待って間合いに入ったらカウンターで攻撃するというパターンが多い。
ミノタウロスジェネラルの武器は大剣で、銀色に輝くスケイルアーマーを装備していた。巨体の魔物は一歩で四メートルほどを移動する。十歩ほど走れば俺に体当りできるほどなので、攻撃するタイミングが難しい。
ぎりぎり間合いに入るというタイミングでクイントコールドショットを発動する。D粒子冷却パイルが十五メートルほど飛翔し、もう少しでミノタウロスジェネラルに命中するというところで、軌道がぐにゃりと曲がり外れた。
どういう事? 何で軌道が曲がった。
ミノタウロスジェネラルが大剣を振り上げて、凄まじい勢いで振り下ろした。俺は横に跳んで躱すと、床を転がりながら、D粒子振動ボールを飛ばす。
振り下ろされた大剣は、石で出来た床を切り裂いた。同時にD粒子振動ボールがミノタウロスジェネラルの膝に向かって飛ぶ。
そのD粒子振動ボールに気付いたミノタウロスジェネラルが、大剣を横から払った。弾かれたD粒子振動ボールは空間振動波を放射したが、命中しない。
俺はクイントカタパルトで後ろに飛んで、ミノタウロスジェネラルと距離を取る。そして、もう一度クイントコールドショットをミノタウロスジェネラルの胸に向かって発動した。
またも命中する直前に軌道がぐにゃりと曲がって外れた。エルモアが俺が預けた魔導銃を取り出して、ミノタウロスジェネラルの頭・胴体・足を狙って引き金を引く。
魔導銃から発射された魔力圧縮弾は、ミノタウロスジェネラルの頭と足に命中して軽いダメージを与えたが、胴体を狙って発射された魔力圧縮弾は、クイントコールドショットと同じように外れた。
『あの銀色の鎧です。あれが軌道を逸らしています』
厄介なものを装備しやがって、と考えているところに大剣が襲ってきた。その大剣に向かってセブンスオーガプッシュを放つ。
大剣とオーガプレートが衝突し、大剣が部屋の隅へ飛んだ。素手になったミノタウロスジェネラルは俺に向かって拳を突き出す。
俺の前に跳び込んだエルモアがトリシューラ<偽>の柄で受け止めたが、トラックに撥ねられたかのように吹き飛んだ。エルモアが防いだ間に、俺はクイントクラッシュランスを連続して、頭と足に向かって飛ばす。
ミノタウロスジェネラルは頭に飛んだD粒子ランスを避けたが、足に飛んだD粒子ランスは避けられなかったようだ。D粒子ランスよって足に穴を開けられたミノタウロスジェネラルが吠えた。
ダメージを負ったミノタウロスジェネラルから距離を取る。その時、階段を登っていく西條と長瀬の姿が目に入る。先を越されたと思ったが、ここは確実にミノタウロスジェネラルを倒さねば、と気持ちを入れ替える。
ミノタウロスジェネラルの足の傷は骨まで削ったらしい。ほとんど動かない足を引き摺りながら、ミノタウロスジェネラルが近付いてくる。
『プロテクシールド』を発動し、俺とミノタウロスジェネラルの間にD粒子堅牢シールドを発生させる。その直後、『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールをD粒子堅牢シールドに向かって発射した。
D粒子振動ボールはD粒子堅牢シールドに当たって、空間振動波を放射。その空間振動波はミノタウロスジェネラルに向かって伸び分厚い胸板を貫いた。
ミノタウロスジェネラルのスケイルアーマーは、空間振動波までは軌道を曲げられなかったのだ。崩れ落ちるように床に倒れたミノタウロスジェネラルの頭にトドメのD粒子振動ボール撃ち込んだ。次の瞬間に身体の内部でドクンという音がした。魔法レベルが上がって『19』になったようだ。
ミノタウロスジェネラルが消えるとホッとする。あのスケイルアーマーで軌道を曲げられる前に、D粒子堅牢シールドに当てて空間振動波を放射させるというアイデアが閃かなかったら、もっと戦いが長引いたかもしれない。
エルモアの様子を確認する。部屋の隅で動かなくなっていた。
「メティス、エルモアは大丈夫なのか?」
『魔導コアに衝撃を受けて、私の制御が届かなくなっています。回復するまで影に潜らせましょう』
俺の影が倒れているエルモアの身体と重なるように移動すると、エルモアの身体が自動的に影に潜る。どういう仕掛けかは分からないが、シャドウパペットがダメージを受けた時は、影に潜ろうとする本能みたいなものが働くようだ。
ドロップ品を探した。黒魔石<中>が見付かり、その他に盾を発見する。鑑定モノクルで確認すると『逸らしの盾』というものだった。ミノタウロスジェネラルが装着していたスケイルアーマーと同じ機能を持つ盾のようだ。
長さ九十センチほどで幅が五十センチ、重さが二十キロほど有るだろう。俺が使うには重すぎるので、エルモアが使えばいいだろう。
『西條さんと長瀬さんに先を越されたようですね』
「まあ、仕方ないさ。運がなかっただけだ」
俺は結果を確かめるために、三階に上がる。階段を上がった三階には、大きな扉が三つ並んでいた。
「どういう事だ?」
『まだチャンスが有るという事ではないでしょうか。選択肢が三つあり、そのどれかが正解なのです。西條さんと長瀬さんは、左の扉と真ん中の扉を選んだようです』
その二つの扉は閉まっているが、右側の扉は開いている。これは未使用の扉だという事だろう。俺が開いている扉から中に入ると、俺の背後で扉が閉まる。
長い通路が続き、その先に体育館より広い部屋が待っていた。部屋に入った俺は、普通のミノタウロスと変わらない体格の上位種と遭遇する。
その上位種はミノタウロスジェネラルと同じスケイルアーマーを装着していた。しかも頭や足にも同じような防具を装備している。
武器は三国志演義の張飛が使っていた
ミノタウロス上位種は俺を見て笑った。俺は五重並列起動の『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを三十センチ間隔で縦に並べて放った。
D粒子振動ボールはミノタウロス上位種に近付くと軌道が曲がり外れた。
「やっぱりジェネラルと同じものか。全身だから始末が悪い」
敵は余裕で待ち構えており、カウンターを狙っているようでもない。俺は『デスクレセント』を発動しD粒子ブーメランを飛ばす。
飛翔したD粒子ブーメランはミノタウロス上位種の直前で軌道を曲げ、背後の壁に衝突する。そこで空間振動波を放射しながら回転を始めた。壁に大きな穴が開き、空間振動波の先端がミノタウロス上位種の背中を掠めた。
笑っていた顔が初めて苦痛で歪む。ミノタウロス上位種が吠えて、かなり離れた距離から蛇矛を振り上げ俺に向かって振り下ろす。その切っ先が届くような距離ではなかったのだが、蛇矛の切っ先から魔力を感じた俺は飛び退いた。
近くを何かが通り過ぎ、背後の壁に当たって二メートルほどの傷を刻んだ。あの蛇矛みたいな武器も魔導装備だったらしい。俺の背中を冷や汗が流れ落ちる。
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