第294話 ミノタウロスとの戦い方
ミノタウロスに弾かれたD粒子振動ボールは、ブギャンという音を響かせて消えた。建物の内部なので嫌な音がよく響く。
D粒子振動ボールを弾かれた俺は、三重並列起動を試してみた。以前は横に並べたのだが、今回は縦に二十センチほど間隔を置いて飛ばす。
三つを同時に弾き飛ばす事はできないと考えたのである。それはミノタウロスにも分かったらしく、弾くのではなく横に跳んで躱す。躱されたD粒子振動ボールはミノタウロスの背後にある通路の壁に当たって、壁に三つの穴を開けた。
ミノタウロスが床を蹴って俺に向かって跳躍する。近距離戦に持ち込みたいのだ。ミノタウロスの武器がハルバードなのだから当然なのだが、俺はクイントクラッシュランスで迎え撃つ。
D粒子振動ボールより高速なD粒子ランスがミノタウロスの胸に命中して穴を穿った。『クラッシュランス』は五重起動になると『クラッシュボール』の速度を凌駕する。
ミノタウロスはその速度に対応できず、ダメージを負った。血を吐き出しながら倒れたミノタウロスが、ハルバードを杖代わりにして起き上がり、俺に向かって突き出そうとする。
五重起動のD粒子ランスを立て続けに三発放ち、ミノタウロスを仕留めた。
「ふうっ、ミノタウロスはD粒子がしっかり見えているようだな」
俺はミノタウロスの肉体が消えた後に残った赤魔石<小>を拾い上げて収納アームレットに仕舞った。
外から見た時、この要塞は三階建てのように見えたので階段を探す。ここのボスは三階に居ると思ったのだ。一階を探し回り、またミノタウロスと遭遇する。
今度は戦い方が分かっているので、クイントコールドショットを使った。D粒子振動ボールとは比較にならないほど速度があるD粒子冷却パイルが飛翔し、ミノタウロスの胸に突き刺さる。その瞬間D粒子冷却パイルの終端部分がコスモスの花のように開いて、全運動エネルギーをミノタウロスに叩き込み胸を陥没させる。
ミノタウロスは目が追い付かずD粒子冷却パイルが見えなかったようだ。追加効果の冷却で心臓が凍りついてミノタウロスは死んだ。
「こいつらには、空間振動系ではなくショット系の攻撃が有効なようだな」
ようやく階段を探し当て、俺は二階に上がる。二階の大広間で後藤たちがミノタウロスの集団と戦っているのを見て加勢しようかと思ったが、余計なお世話のようだ。それに大広間の奥には宝箱があった。ここは後藤たちの戦場だと思い他を探す。
通路を奥へと進み、俺は礼拝所のような部屋を見付けた。中に入ると奥に一匹のミノタウロスが座っている。そのミノタウロスはハルバードを持っておらず、普通のミノタウロスとは違うようだった。
武器を持っていないミノタウロスのようで、その代わりに両手に布を巻いていた。ボクサーが拳に巻くバンテージのような感じである。
座っていたミノタウロスがスッと立ち上がる。その姿は修行僧のようで『ミノタウロスモンク』と呼ばれる魔物のようだ。こいつがミノタウロスモンクか、省略するとミノモンク……省略はダメだな。
そいつは俺を睨むと大きな口を開け、叫び声を上げた。それは何らかの力が籠もった叫びだったようで、身体が震える。その時、ミノタウロスモンクが笑ったように見えた。
全身にジーンと痺れるような感覚が広がり身体が麻痺した。俺は動けと必死で念じ、身体を動かそうとする。その時、影の中からエルモアが現れた。
『お任せください』
トリシューラ<偽>を持ったエルモアとミノタウロスモンクの戦いが始まった。パワーはミノタウロスモンクが上だが、スピードはエルモアが速いようだ。
俺は右手の指に嵌めてある指輪を意識する。ダンジョン探索時には『効率倍増の指輪』『俊敏の指輪』『治療の指輪』『状態異常耐性の指輪』を嵌めており、その中の『状態異常耐性の指輪』に意識を集中する。
『状態異常耐性の指輪』は自動的に効果を発動するものなので、意識を集中する必要はない。ただ意識を集中すると効果が大きくなる感じがする。
指輪の効果で麻痺していた身体が動くようになった。エルモアの戦いを見ると、ミノタウロスモンクが狂ったようにパンチを繰り出しており、エルモアは防戦一方となっている。
「エルモア、離れろ」
俺の命令でエルモアが跳び下がる。その瞬間、クイントコールドショットを発動。D粒子冷却パイルがミノタウロスモンクへ向かって飛翔する。
それに気付いたミノタウロスモンクが、何とか躱そうと巨体をねじる。そのせいでD粒子冷却パイルはミノタウロスモンクの肩に命中して骨を粉砕し冷却効果を発揮した。
見ていたエルモアがミノタウロスモンクの首にトリシューラ<偽>の穂先を突き入れる。それがトドメとなってミノタウロスモンクが息絶えた。
残された魔石を拾い上げると赤魔石<中>だった。ミノタウロスモンクはミノタウロスの上位種だったらしい。
『宝箱があります』
メティスの声で、部屋の中を確認する。祭壇の向こう側に小さな宝箱があった。用心しながら宝箱を開けると、中にイヤリングが入っていた。それも一個だけである。
鑑定モノクルを出して確認する。それは『気配消しのイヤリング』というものだった。装着者の姿を認識できなくするとか透明になるという働きではなく、装着者が発生させる音を消してしまう効果が有るらしい。
俺は気配消しのイヤリングを装着してみた。イヤリングを耳に近付けると吸い付くように耳たぶに密着する。暗視ゴーグルのように肌に密着して離れないようになる仕掛けらしい。
俺はちょっと動いてみてメティスに確認すると、動いた時に発生するはずの音が聞こえなかったという。
「……」
俺の口が動いているのに声が聞こえなかったので、エルモアが首を傾げる。
『何か言いましたか? 気配消しのイヤリングは消す音を選べないようです』
俺はイヤリングを外す。
「使えそうだな、と言ったんだ」
『声も聞こえなくなるというのは、少し不便ですね』
「ソロで探索している時は、使えるだろう」
俺は気配消しのイヤリングを仕舞った。メティスと相談しながら進もうと思ったのだ。
「ミノタウロスモンクの叫びをエルモアが聞くと動けなくなると思うか?」
『エルモアは人間のような神経はありませんから、大丈夫だと思います』
それを聞いて安心した俺は、三階に上がる階段を探し回った。そして、要塞の奥にある部屋で階段を発見する。但し、その階段の前には通常のミノタウロスより一回り大きな上位種が立っていた。ミノタウロスジェネラルという化け物のようだ。
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