第293話 ミノタウロスの要塞

 タイチたちと別れた俺は、冒険者ギルドへ行く。すぐに支部長が会う事になり支部長室へ向かった。支部長室では、近藤支部長とA級冒険者の長瀬が話をしていた。


 俺が挨拶すると、笑って挨拶を返し、

「用件は分かっている。レイドバトルに参加すると言うのだろう」

「ええ、冒険者にとってはお祭りみたいなものですから、参加しないと損です」


 支部長が苦笑いする。

「相手がミノタウロスだというのに、さすがA級。しかし、今回はミノタウロスロードも居るかもしれんと長瀬君が言っている」

 ミノタウロスロードは、危険な魔導武器を所有している場合が多いと言われているのだ。


「手に負えないような相手なら、逃げますよ」

「それがいい」

 支部長からは心配されているようだ。俺が若いからだろう。


 今回のレイドバトルは、鳴神ダンジョンで活動している冒険者の多くが参加するようだ。総勢で三十人ほどになるという。


 要塞の中に居るミノタウロスの数は二百を超えているというのが、長瀬の予想である。

「神話級の魔導武器が有れば、私一人で始末したのだが……残念だ」


 長瀬の言葉を聞いた俺は、興味を持った。

「竜殺し剣『バルムンク』を所有しているのですよね。バルムンクは神話級じゃないのですか?」


 長瀬が不機嫌そうな顔になり、

「私が持つバルムンクは、中級ダンジョンで手に入れたものだ。神話級ではない」


 メティスのような魔導知能が成長して、『ダンジョンブレイン』または『ダンジョンコア』と呼ばれるダンジョンの頭脳となるのだが、そのダンジョンブレインにも優劣が有るらしい。


 優れたものは上級ダンジョンのダンジョンブレインになり、そこまで力がないものが中級や初級のダンジョンブレインになるとメティスから聞いている。


 なので、中級ダンジョンのダンジョンブレインが創り出した魔導武器は、同じ名前を付けても上級ダンジョン産のものより劣るという。


 とは言え、長瀬が所有するバルムンクは相当な威力を持つ魔導武器なので、A級の長瀬も使い続けているそうだ。


 俺が正式にレイドバトルに参加すると告げると、支部長が三日後の午後一時に鳴神ダンジョンの九層へ下りる階段の出口に集合するように指示した。


 俺は屋敷に戻って、タイチが干渉力不足で早撃ちが遅かった件を考えた。生活魔法使いにとって、D粒子への干渉力は重要だと再認識したのである。


「『干渉力鍛練法』にある鍛練を試してみるか」

 自分のD粒子への干渉力は十分だと思っていたのだが、もしかすると十分ではないのかもしれないと思い始めたのだ。


 『干渉力鍛練法』によると、鍛練は三段階に分かれるという。一段目は広い範囲のD粒子の存在を感じ取る鍛練である。これは『センシングゾーン』を使う事によって効率的に鍛えられたので問題ない。


 そして、二段目は魔法を使わずにD粒子に干渉する鍛練法である。魔法を使わずにD粒子を感じ取れるようになった者は、少しだが干渉力も生まれているという。


 感じ取ったD粒子をデコピンのように弾いて飛ばすという鍛練をするようだ。これにはイメージとコツが有り、それが『干渉力鍛練法』に書かれていた。


 俺は試しにD粒子を弾く鍛練をやってみた。最初は上手くいかなかったが、一時間ほど続けた頃にD粒子がポンと弾かれたように移動したのを感じる。


「うわっ、成功した」

 本当に成功した事に驚いてしまった。俺は鍛練を続けて確実にD粒子を弾けるようになる。魔法を使わずにD粒子の操作が可能になるという事は何を意味するのだろう?


 俺はちょっとワクワクしてきた。そのまま暇な時間の全てを使って鍛練を続け昼夜が過ぎ、レイドバトルに出発する時間になった。


 朝早くに準備をして鳴神ダンジョンへ向かう。一層の転送ルームから五層へ移動し、六層から八層を最短で通過。


 八層から九層へ下りる階段を初めて進んで九層の草原に出る。そこには大勢の冒険者たちが準備している姿があった。


 その中の一人である後藤が近付いてきて、

「やっぱり参加していたんだな」

「もちろんですよ。要塞のボスが、どんな奴か興味があるし、ここで手に入れられるアイテムや財宝に期待していますから」


「レイドバトルでは早い者勝ちだから、魔装魔法使いに有利なんだ」

 筋肉を強化した魔装魔法使いの行動は素早いので、魔装魔法使いが先行する事が多いらしい。


「魔装魔法使いというと、長瀬さんや西條さんですか。でも、ミノタウロスと接近戦をするんですよね。接近戦で倒すのは時間が掛かりそうですけど」


「そうなのだが、ああいう要塞の内部で戦う場合、爆発系や広い場所でないと使えない魔法を得意とする攻撃魔法使いも手子摺るのさ」


 生活魔法使いも『ハイブレード』や『ブローアップグレイブ』などは使えないだろう。その辺はオーク城で戦った時に経験しているので、よく分かる。


 そんな話をしていると、長瀬が大きな声で話し始めた。

「これからレイドバトルを開始する前に、説明する」

 いくつかの注意点の説明を聞き、四時間経過するか、共鳴弾という魔道具の使用で終了の合図とする事が伝えられた。共鳴弾というのは建物全体に共鳴するような音を発する魔道具で、カンカンという半鐘を叩くような音が鳴るという。


「準備はいいな。よし、スタートだ」

 西條が一番最初に飛び出し、さすが魔装魔法使いというところを見せる。それを見た後藤が笑う。

「元気がいいな。さて、我々も行こうか」


 俺も出発した。目的は要塞のボスを倒して、ドロップ品や宝箱の中身を手に入れる事なので、慌てない事にする。途中にある宝箱は狙わない事にしたのだ。


 但し、見付けたなら確実に手に入れるつもりだった。要塞の門に近付くと、魔装魔法使いたちが警備のミノタウロスたちを倒したようで、無防備になっている。


 後藤たちは入り口から左に行ったので、俺は逆の右に向かう。広い要塞の中でミノタウロスと冒険者の戦う気配がいくつも感じられる。それを避けるように進むと、階段の前にある通路でミノタウロスと遭遇した。


 遭遇した瞬間、ハルバードを構えたミノタウロスが突撃してきた。俺は慌ててクイントオーガプッシュをぶちかます。高速回転するオーガプレートがハルバードの穂先に当たり跳ね上げて、胸に命中した。


 その衝撃でミノタウロスの突撃が止まり、俺を睨む。身長三メートルで分厚い筋肉に覆われた全身から、プレッシャーが襲い掛かる。『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールを飛ばすとミノタウロスが気付いたらしい。


 ハルバードの穂先でD粒子振動ボールを横から弾いた。D粒子振動ボールは比較的遅い部類の魔法なのだが、それでも時速百七十キロで飛ぶ。それを武器で弾いて逸らすというのは、厄介な相手である。


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