第292話 レイドバトル(後書きに、生活魔法一覧)

 地上に戻った長瀬は、冒険者ギルドへ行って支部長に九層の事を報告した。

「ほう、九層にはミノタウロスの要塞があるのですか。単独では攻略できそうにないのですね?」

「ああ、チームでも無理だろう」


「そうなると、レイドバトルになりますな。C級でもミノタウロスなら倒せますから、制限無しでいいでしょう」


 長瀬は渋々という感じで頷いた。

「だが、上位種だとC級は危ないかもしれんぞ」

「そうですね。C級冒険者には、上位種に遭遇したら逃げるように伝えます」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 新しい魔法の改良を終えた翌日、俺は朱鋼をどうやって換金するか考えた。武器に加工して売却するのが一番だが、鍛冶屋の吉祥寺は朱鋼を扱えるだろうか、確認してみよう。


 その日の午後にタイチがシュンという友人を連れて屋敷に来た。エルモアが門まで迎えに行って、入館許可珠を渡して屋敷まで案内する。


 二人が頭を下げて挨拶した後、タイチが声を上げた。

「グリム先生、お邪魔して済みません」


「構わないけど、ここに来るなんて珍しいじゃないか。何かあったのか?」

「結城先輩たちから、グリム先生がバタリオンを設立すると聞いたんですが、本当ですか?」


「本当だよ。資金が調達できたら、メンバーを集めて設立手続きをするつもりだ」

「でしたら、僕たちもバタリオンに入れてください」

 設立するには、十人以上のメンバーが必要となるのでタイチには声を掛けようと考えていたのだが、タイチの方から声を上げたのでホッとした。


 シュンというタイチの友人は、エルモアが気になるようでちらりちらりと見ている。

「エルモアが気になるのか?」

「これは人型のシャドウパペットですか?」

「そうだ。正確にはリザードマン型なんだが、尻尾を除いて人型に変更したんだ」


「凄いです。こんなシャドウパペットも作れるんですね」

「興味があったら、勉強して作ってみたらいい。但し材料を取りに行くには、水月ダンジョンの三十一層まで行かなきゃならないけどな」


 タイチが頷いた。

「結城先輩から聞きました。四人で三十一層まで行って、ダークキャット狩りをしたそうですよ」

「へえー、材料を手に入れたのか」


 材料を手に入れたら、すぐに作製すると思っていたのだが、少し大型のシャドウパペットを作るらしくて、まだダークキャット狩りを続けるらしい。


 たぶん二十キロのシャドウクレイを使って、大型猫のシャドウパペットを作るのだろう。大型猫のシャドウパペットは世界中の金持ちの間で大人気らしい。


 女性や子供の護身用として売れているのだ。それにフランスの付与魔法使いが、シャドウパペットに色を付ける事に成功したらしい。今のところ黒を白に変えただけらしいのだが、方法を教えて欲しいものだ。


「グリム先生、水月ダンジョンのキュクロープスと戦った事がありますか?」

 タイチが尋ねる。

「十七層に居るキュクロープスなら、戦った事がある。あいつらは十八層への階段の前で待ち構えているから、倒さないと下りられなかったんだ」


「そうなんですよ。でも、倒すとなると防御力が高くて大変なんです」

「セブンスハイブレードで首を刎ねるか、クイントクラッシュランスを頭に命中させればいい」


「一匹だけなら、それで倒せるのですが、キュクロープスが複数だと難しくなるんです」

 タイチはチームを組んで探索していたはずだ。どうして複数のキュクロープスを一人で倒す事を前提にしているんだ。その事を質問した。


「卒業したら、一人で探索しようと考えているんです」

「そうなのか。二人で来たからチームを組むんだと思っていたよ」

 シュンは魔法学院の魔装魔法使いや攻撃魔法使いと一緒にチームを組むらしい。ここに来たのはバタリオンに入りたかっただけのようだ。


「複数のキュクロープスと戦う場合か……そうだな、魔法レベル9という事だと、D粒子ウィングで飛びながらというのが一番なんだが、森の中だと木が邪魔で攻撃できない場合もあるし、クイントクラッシュランスの早撃ちで仕留めるというのが確実かな」


「早撃ちですか。一発撃ったら、他のキュクロープスに気付かれて乱戦になると思います」

「それは早撃ちが遅いからじゃないか。そうだな練習場へ行って、見せてくれないか」


 俺たちは有料練習場へ向かった。小さな練習場を借りて中に入る。

「クイントクラッシュランスの早撃ちを見せてくれ」

「分かりました」


 タイチがコンクリートブロックを標的として、クイントクラッシュランスの三連射を行った。平均的な生活魔法使いよりは早いのだが、アリサたちにも及ばないものだった。


「遅いな。何が悪いのだろう」

 遅いと言われたタイチはガックリと肩を落とした。それを見たシュンが、

「僕には早かったように見えたんですが、グリム先生なら、どれほどの早撃ちができるんですか?」


 反論という事ではなく、好奇心で尋ねたらしい。俺は早撃ちの見本を見せる事にした。コンクリートブロックに狙いを定めて深呼吸する。

「はっ!」

 左の拳をジャブのように突き、その動きを切っ掛けにクイントクラッシュランスを発動する。その拳を引く反動を利用して右の正拳突きを放ち、二発目のクイントクラッシュランスが発動。そして、もう一度ジャブを放ち、同時に三発目のクイントクラッシュランスを発動させた。


 三連続で放たれたD粒子ランスは、続けざまにコンクリートブロックに命中して穴を穿つ。

「そ、そんな……早すぎる」

 シュンが目を丸くして驚き、掠れた声を上げる。


「グリム先生、どうしたらそんな早撃ちができるようになるのです?」

 俺はもう一度タイチに早撃ちをさせて、原因を探った。

「タイチは、D粒子に干渉して集める作業が遅いな。たぶんD粒子干渉力が弱いんだ」


「それを鍛える事はできるんですか?」

「早撃ちの練習を続ける事と、『センシングゾーン』を何度も使って、D粒子への感応力を磨く事だな。感応力がしっかりしたものになると干渉力が強くなるようだ」


 この事はダンジョンで手に入れた『干渉力鍛練法』の本に書かれていた事である。

「分かりました」

 俺がいくつかのアドバイスをした後、タイチが冒険者ギルドで仕入れた情報を知らせてくれた。


「鳴神ダンジョンの九層に下りる階段が発見されて、そこにミノタウロスの要塞があったそうです。今度、その要塞攻略のためにレイドバトルが始まるみたいですよ」


「レイドバトルというと、複数のチームや個人が参加して、一つの目標を攻略するというものだったよな」

「はい、レイドバトルで手に入れられるアイテムには、凄いものが有るという噂です」


 そういう事なら参加したい。俺は冒険者ギルドで詳しい話を聞く事にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【設定資料:生活魔法一覧(著作時の参考資料として作ったものなので分かり難いかも)】


D粒子一次変異:<発光><放熱><放電><冷却><磁気制御><爆轟><殺菌><空間振動>

D粒子二次変異:<貫穿><堅牢><手順制御><斬剛><ベクトル制御><編成><分散抑止><反発(地)><反発(水)><ベクトル加速>


●●最初の数字は習得可能な魔法レベル●●

1『ライト』……………明かり

1『イグニッション』…発火

1『ホール』……………穴掘り

1『ウォーター』………出水

1『ムービング』………草刈り

1『ブリーズ』…………送風

1『クリーン』…………浄化清掃

1『ロール』……………回転

1『エングレーブ』……刻印

1『プッシュ』…………押す、射程5m

1『リペア』……………修復

1『ピュア』……………純化

1『Dクリーン(廉価版)』……掃除魔法(劣化版)

1『サーモメーター』…液体の温度を計る魔法

1『コーンアロー』……D粒子コーン型の矢を投射、底の直径5cm、長さ30cmの円錐形、射程5m

2『スイング』…………D粒子の警策プレートを振る、射程2m

2『タンニング』………鞣す

2『プロップ』…………空中に物を固定する。五秒ほど固定

2『ノーズクリーン』…鼻水を除去する魔法

2『イヤークリーン』…耳掃除をする魔法

3『Dクリーン』………掃除魔法(正規版)

3『Dジャッキ』………荷物を持ち上げる魔法

3『マジックストーン』…魔石を収集する魔法

3『パペットウォッシュ』…シャドウパペットを洗う魔法(人間も可)

4『ファイアワークアロー』…虹色に輝く矢が飛翔し花火のように飛び散る

4『サンダーボウル』…<放電>を付与した放電ボウルを投射、直径4cm、射程10m

4『エアバッグ』………発動者の移動方向にD粒子エアバッグを空中に形成、発動者を受け止める魔法

5『ブレード』…………D粒子のV字プレートを振る、射程5m

5『ジャベリン』………D粒子コーン型の槍を投射、底の直径10cm、長さ1mの円錐形、射程19m

5『ステリライズクリーン』……殺菌効果付き掃除魔法、<殺菌>

5『エアクリーン』……<殺菌>周囲の空気から埃・雑菌などを取り除く魔法

6『ヒートアロー』……<放熱>を付与した放熱コーンアローを投射、射程10m

7『サンダーアロー』…<放電>を付与した放電コーンアローを投射、射程10m

7『オーガプッシュ』…オーガプレートを高速回転させながら撃ち出す、射程8m、時速100キロ

7『クレイニード』……シャドウクレイにD粒子を練り込む魔法

7『スターピクチャー(廉価版)』……多数の星のような小さな光を操作し空中に絵を描く魔法

8『センシングゾーン』空気中に漂うD粒子を感知して、敵の動きを感じ取る

8『オートシールド』…直径二十センチの円盾形九枚のD粒子シールドが展開し自動的に術者を守る

8『ハイブレード』……D粒子の大型V字プレートを振る。七重起動で音速、射程10m

8『ウィング』…………D粒子ウィング、時速30kmで30分、時速80kmで5分飛べる

9『カタパルト』………数百ものD粒子リーフ葉っぱを形成し術者の身体を包み込んで高速で空中移動、10m

9『ヒートシェル』……金属入りのD粒子シェルを撃ち出しメタルジェットで敵を貫通、射程15m

9『プロテクシールド』…D粒子堅牢シールドを形成し、攻撃を防ぐ魔法、~Pシールド、維持は15秒

9『フロートボックス』…D粒子フロートボックス、6人乗り、長さ2m・幅1.5m・高さ20cm、最高35km、航続距離50km

9『クラッシュランス』…<空間振動><ベクトル制御>『D粒子ランス』射程15m、速度140km、

10『クラッシュボール』…<空間振動><ベクトル制御><分散抑止>『D粒子振動ボール』、射程200m、速度170km、空間振動12m

11『パイルショット』…<貫穿>の特性が付与されたD粒子パイルを投射、、射程20m

12『リモートプレート』思考制御できる赤く輝くD粒子プレートを形成する。回線で繋ぐ

12『マルチプルアタック』…<貫穿>を付与した小型D粒子パイル30本を撃ち出す魔法、長さ20cm

12『メタルニード』……<放熱>金属にD粒子を練り込む魔法

13『フライングブレード』…<斬剛>魔力コーティング、長さを5mまで伸ばす事が可能、飛翔する剣

13『コールドショット』…<貫穿><冷却>の特性が付与されたD粒子パイルを投射、、射程20m

13『バーニングショット』…<貫穿><放熱>の特性が付与されたD粒子パイルを投射、、射程20m

13『ライトニングショット』…<貫穿><放電>の特性が付与されたD粒子パイルを投射、、射程20m

13『サンダーソード』…<放電>の特性が付与されたD粒子サンダーソードを投射、射程80m

13『ブローアップグレイブ』…<爆轟><ベクトル制御><斬剛>グレイブのような射程10m

14『チェーンソー』……電動ノコギリのような魔法

14『ブーメランウィング』…高速で飛行する戦闘ウィングを作り出す魔法、最高速度180km、航続距離50km

14『マグネティックバリア』…<磁気制御><堅牢>任意の形状をした磁気バリアを展開

14『バーストショットガン』…<爆轟><貫穿><分散抑止>30本の小型爆轟パイルを撃つ魔法

16『ダイレクトボム』…<爆轟><ベクトル制御>粘着榴弾、射程20m

17『スターピクチャー』……多数の星のような小さな光を操作し空中に絵を描く魔法

17『トーピードウ』:<爆轟><ベクトル制御><分散抑止>D粒子魚雷、射程300m、速度360km

18『デスクレセント』:<空間振動><分散抑止><ベクトル加速>を付与した三日月型のD粒子ブーメラン、射程500m、速度800km


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