第283話 タイチとシュン

 次の日曜日、アリサたちは水月ダンジョンの前に集合した。アリサ・天音・千佳・由香里の他に、タイチと皆川みながわ駿しゅんも参加する。


「皆川駿です。シュンと呼んでください。よろしくお願いします」

 頭を下げたシュンを、天音が値踏みするように見る。

「君がプロの冒険者を目指しているの? もっと筋肉ムキムキの少年かと思っていたけど細いのね。大丈夫なの?」


 冒険者というよりバレエダンサーのような少年を見て、天音は不安になったようだ。それを聞いたアリサが笑う。


「グリム先生も、昔は細かったじゃない」

 空手の稽古を始めたグリムは全身に筋肉が付き、逞しくなっていた。

「いやいや、こんなに細くはなかったから」


 千佳はタイチとシュンを見て尋ねた。

「シュン君の魔法レベルは、いくつ?」

「魔法レベル7になったばかりです」

「『オーガプッシュ』と『サンダーアロー』は習得した?」


「もちろん、習得済みです」

 シュンは自信が有りそうだった。タイチはチラッとシュンに視線を向け、アリサたちの戦い方を見て自信を失くさなければ良いけどと思う。


 グリムは別格として、アリサたちの生活魔法も凄まじい事をタイチは知っているのだ。

「タイチは魔法レベル9だったよね。新しい魔法を覚えた?」

 千佳の質問にタイチは首を傾げる。


「新しい魔法というのは何ですか? 『オーガプッシュ』と『プロテクシールド』なら覚えましたよ」

 それを聞いた天音がゆっくりと首を振る。

「違う違う。『クラッシュランス』よ。この前、登録されたばかりの新しい魔法なの」


「知りませんでした。どんな魔法なんですか?」

「どんなものでも貫く槍という感じかな。今日は『クラッシュランス』の使い勝手がどうか、試しに来たの。十五層のアーマーベアを相手に試すから急いでね」


 シュンは驚いた顔をする。

「それは無理じゃないですか?」

 天音はシュンを見て頷いた。

「シュン君は魔法レベル7か、『ウィング』を使えないんだった。アリサ、どうする?」


「大丈夫、天音と由香里が使っていた二人乗り用の鞍を持ってきたから、それを使えばいいのよ」

 タイチとシュンが二人乗りする事になった。ダンジョンに入ると、シュン以外の全員が『ウィング』を使い、飛んで二層への階段を目指す。


 アリサたちは七層まで下り、廃墟エリアは徒歩で移動する。

「ここは飛ばないんですか?」

 シュンが質問した。


「ここにはファントムが居るから、用心のために飛ばない。飛行中にファントムに遭遇すると発見する前に接触して、魔力を吸われるかもしれないからね」


 アリサはファントムが半透明な影のような存在なので、高速で飛んでいると発見できない事が有ると教えた。


「そうなんですね」

 シュンはそう言いながら黒鉄製の剣を取り出した。タイチは蒼銀製ロングソードを手に持つ。アリサたちも武器をマジックポーチから取り出してベルトに差す。


 飛んでいる時は邪魔なのでマジックポーチに仕舞っていたが、徒歩での移動の時は抜きやすいようにしているのだ。と言っても、大抵の魔物は生活魔法で倒すので、武器は必要なかった。


「先輩たちの武器は、聖属性付きなんですか?」

 シュンが確認した。千佳が代表して、

「そうよ。ちゃんとファントムを倒せるから、心配無用よ」


「そうだ。二人の実力を見るために、ここで遭遇する魔物は二人に倒してもらいましょう」

 アリサが言い出した。他の三人も頷く。

「分かりました。僕たちで倒します」

 タイチが答えて、視線をシュンに向ける。シュンが頷いた。


 四体のスケルトンに遭遇。タイチとシュンはトリプルブレードで倒した。タイチはカリナから西洋剣術を習っているらしい。戦いの動きがカリナに似ている。


 一方、シュンは我流の動きだ。無駄な動きが多いように感じられる。千佳は渋い顔をして、シュンの戦いを見ていた。


 アリサが千佳の横に立って声を掛ける。

「シュン君を、どう思う?」

「無駄な動きが多い。本格的に鍛えないとプロは難しいかも」

「千佳のところの道場で、鍛えるというのはどうかな?」


「武器を日本刀に変える事になるから、本人次第かな」

「そうね。武器を変えたくないというなら、三橋師範のところで空手を習わせるのもいいかも」


 スケルトンを倒したタイチたちが戻ってきた。

 アリサたちはそのまま進み、七層を通過すると八層からまたD粒子ウィングで飛んだ。そして、今度は十一層の廃墟エリアで徒歩となる。


「もう十一層か、『ウィング』を使うと早いですね」

 シュンが自分も早く『ウィング』を使えるようになりたいと言う。


「シュン君は、水月ダンジョンのどこまで下りた事があるの?」

 アリサが尋ねた。

「実は十一層までです。スケルトンナイトが手強いんですよ」


 スケルトンナイトは、スケイルアーマーを身に纏い槍と円盾を持っている。真正面から『ブレード』で攻撃すると円盾で受け流されてしまうという。


「それなら、千佳にお手本を見せてもらいましょう。千佳、いい?」

「いいけど、私の戦い方が参考になるか分からないよ」

「シュン君の戦い方に合わない時は、天音や私が手本を見せるから」


 千佳は頷いてスケルトンナイトを探し始めた。スケルトンソルジャーと遭遇し、千佳がスタスタと近付いてぎりぎり『ブレード』が届くという間合いでクイントブレードを発動。形成されたD粒子の刃がスケルトンソルジャーの頭蓋骨を断ち切った。


 それを見ていたシュンは、鮮やかな攻撃に驚いた。『ブレード』が届くぎりぎりで仕留めるというのは難しいのだ。どうしても魔物が一歩踏み込んだところで魔法を発動してしまうのが普通である。千佳のような攻撃をするには間合いを正確に測る能力と厳しい修業が必要だ。


 千佳が先頭になって進み、三体のスケルトンナイトと遭遇する。走ってくるスケルトンナイトに対して、千佳が進み出て先頭のスケルトンナイトの頭にクイントジャベリンを叩き込み、次のスケルトンナイトが五メートルの間合いに入った瞬間、クイントブレードで頭蓋骨を斬り捨てる。


 最後のスケルトンナイトが槍を突き出して攻撃してくる。その突きを躱して横からトリプルオーガプッシュを叩き込む。スケルトンナイトがよろけたところにクイントブレードを発動して頭蓋骨を真っ二つにした。


 三体のスケルトンナイトを瞬殺だ。その光景を見たシュンは身体が凍りついたように動かなくなった。自分の戦い方が無様だったように思えて衝撃を受けたのである。その横で見ていたタイチも溜息を漏らす。


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