第284話 アーマーベアとクラッシュランス

 千佳とスケルトンナイトの戦い方を見たシュンは、考えさせられた。自分に足りないものを見せられたように感じたのである。


 千佳の戦いだけでも驚いたシュンだったが、アリサたち四人が一緒に戦いを始めると溜息しか出なかった。遭遇する魔物が瞬殺され、シュンが手を出す暇もなく一掃されたからだ。


 ただグールが出た時だけタイチとシュンに任された。

「先輩、酷い臭いのするグールの時だけ後輩に任すというのは、どうなんです?」

 タイチが文句を言う。


「私たちにも苦手なものは有るのよ。二十メートルも先から臭うなんて、反則だと思わない?」

 天音が目を逸らして言った。


 十一層を抜け十二層に下りると、オーク城が目に入る。このオーク城では馬よりも大きな猛犬のガルムを倒した事がある。


「そう言えば、タイチ君はオーク城の宝物庫を探し当てたの?」

 宝物庫を発見したいとタイチが言っていたのを思い出し、天音が尋ねた。

「残念ながら見付けられませんでした」


 探し出せないのが普通なので、天音は仕方ないと思った。自分たちやグリムは運が良かったのだ。

「僕も宝物庫探しに挑戦しようと思っています」

 シュンが宝物庫の話題に参加する。


「へえー、オークナイトの倒し方を知っているの?」

「カリナ先生から習いました。トリプルサンダーボウルを当てて、麻痺している間にトドメをさせばいいんですよね」


 天音は頷いたが、シュンには早いような気がした。

「それじゃあ、タイチとシュンにオーク狩りをさせてみましょうか?」

 アリサは天音がシュンを心配しているのだと分かった。それで賛成して、シュンの技量を確かめる事にする。


 タイチとシュンが先頭に立って城へと進み、五匹のオークナイトと遭遇。

「タイチが三匹で、シュンが二匹ね」

 天音の指示で戦闘が始まる。アリサたちはいつでも参加できるように準備した。


 タイチが距離が有るうちにクイントジャベリンを発動する。狙った胸には当たらなかったが、足に命中して負傷させた。残りの二匹はロングソードを掲げて走り寄る。右の一匹にクイントオーガプッシュを発動して弾き飛ばし、左のオークナイトにはトリプルサンダーボウルを発動し放電ボウルを飛ばす。


 放電ボウルが命中したオークナイトが感電して動けなくなると、タイチは走り寄ってクイントブレードで首を刎ねる。その後はダメージを与えた二匹を確実に倒した。


 一方、シュンはオークナイトの分断に失敗して苦戦していた。オークナイト戦の基本は、シュンが言った通りなのだが、それは一匹だった場合である。


 複数だった場合は、分断して一匹ずつ倒すのが基本戦術になる。一番簡単なのが、『プッシュ』や『オーガプッシュ』で弾き飛ばし、一匹にする事なのだ。だが、シュンは使い慣れない『オーガプッシュ』を選び狙いを外した。


 そのせいで二匹同時に戦う羽目になったのだ。なんとかオークナイトの攻撃を躱して、一匹のオークナイトにセブンスプッシュを当てる事に成功したシュンは、迫ってくるオークナイトにトリプルサンダーボウルを命中させて、クイントブレードで仕留めた。


 シュンはセブンスプッシュで跳ね飛ばしたオークナイトも倒すと振り返った。

「背伸びして慣れていない『オーガプッシュ』を使ったのは間違いね。まだ宝物庫探しは早いかな」

 天音が厳しい顔をして言った。


 自身も自覚が有ったようで、シュンは肩を落としている。

「これから修業して実力を伸ばせばいいのよ。頑張りなさい」

 由香里が慰めた。


 それからアリサたちは十五層を目指して進んだ。十五層に到着すると徒歩でアーマーベアを探し始める。

「先輩たちは、あれだけ戦えるのにプロの冒険者になろうと思わなかったんですか?」

 歩きながらシュンが質問した。


 天音が首を傾げてから、

「そうね、将来的には冒険者になる道を選ぶかもしれないけど、ダンジョンの探索だけを仕事にする人生というのも、どうかなと思ったのよ。あたしには付与魔法の才能も有ったから、魔道具を作って必要な人たちに喜んでもらうという仕事も有りだな、と思うの」


 そんな話をしていた時、アーマーベアに遭遇する。アリサがアーマーベアを見ながら、

「私から先に試していい?」

「いいよ」

 天音たちが了承した。


 アリサは前に出て、アーマーベアを睨む。それを見たシュンが、アーマーベアの巨体とアリサを比べて不安そうな顔をする。


「結城先輩は一人で大丈夫なの?」

 そう質問されたタイチは肩を竦める。

「アーマーベアくらいなら、何匹も倒しているはずだよ」


 アーマーベアがアリサに向かって走り出した。後ろで見ていたシュンは、その迫力に息を呑む。

「まずは三重起動ね」


 そう言ったアリサがトリプルクラッシュランスを発動した。バドミントンのシャトルに似たD粒子ランスが撃ち出された。ランスと呼ぶには短すぎる。だが、アーマーベアに命中した瞬間、空間振動波という槍の刃を突き出し鱗状の装甲を突き破り十センチほどの穴を穿つ。


「ええっ、アーマーベアの防御力は、かなり高いはずなのに」

 三重起動でも装甲に穴を開けた『クラッシュランス』の貫通力にタイチが驚いた。


 抉られた痛みにアーマーベアが地面を転がって吠える。それを聞いてアリサが頷き、『五重起動』と宣言してからクイントクラッシュランスを発動した。


 アーマーベアの腹に命中したD粒子ランスが三十センチほど筋肉と内臓を抉り、大量の血を流させる。腹に穴を開けられたアーマーベアの動きが鈍くなる。


 それを確認したアリサは、一番防御力が高そうな背中を慎重に狙ってセブンスクラッシュランスを発動し命中させた。空間振動波は装甲など関係なく魔物の背中から心臓を貫き息の根を止めた。


「アリサ、使い勝手はどう?」

 千佳が確認する。

「使っているD粒子の量が少ないから、発動が楽ね。それに間合いをそれほど気にしないで使えるから、戦い方の幅が広がると思う」


 それを聞いたタイチはすぐに魔法陣を購入して習得しなければ、と思った。

 その後、アーマーベアを探して千佳たちも実戦で『クラッシュランス』を使ってみた。その結果に、満足したようだ。


 但し、まだ魔法レベル8で『クラッシュランス』を習得できなかった由香里は不満だったらしく、セブンスハイブレードでアーマーベアやアーマーボアを倒しまくった結果、生活魔法が魔法レベル9となった。


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