第261話 A級の実績

 影属性を付与できる精霊の泉を発見したので、それを冒険者ギルドへ報告する事にした。ボス部屋からG級冒険者三人と一緒に地上に戻り、冒険者ギルドへ行く。


 ここの冒険者ギルド支部長は久留間という人物で、優秀な人物だと聞いている。俺は三人と別れて、支部長室へ向かった。


 ノックして返事があったのでドアを開ける。中には支部長らしい五十代の男性と三十代の女性が居た。挨拶をして自己紹介を行う。


 やはり五十代の男性が久留間支部長で、女性は朱雀すざくひよりというB級冒険者だという。

「お話中でしたら、出直しますが?」

「いや、彼女の用件は終わった」


 支部長が視線を向けると、朱雀が頷いた。だが、彼女は出て行こうとせず、

「私も同席していいかな。生活魔法使いのB級冒険者に興味が有るんだ」


 俺は肩を竦めて、承諾した。

「それで用件は何かな?」

 久留間支部長が尋ねた。


「今日、砂漠ダンジョンに潜って、新しい発見があったので、報告に来ました」

 朱雀が鋭い視線を俺に向けた。

「砂漠ダンジョンで、新しい発見があっただって……冗談だろ。あそこは何十年も新しい発見なんてなかったんだぞ」


 女性なのに男性のような言葉使いをする人だった。久留間支部長が冷静な顔で問う。

「グリム君は、B級だったね。その発見はA級になるために実績になりそうなのかね?」


 俺は苦笑いした。

「これだけでA級になるほどの実績ではありませんが、重要な発見だと思っています」

 支部長がゆっくりと頷いて、その発見が何か尋ねた。


「砂漠ダンジョンにあるボス部屋の精霊の泉が、影属性を付与するものだったのです」

 朱雀と支部長が腑に落ちないという顔をしている。影属性を付与するという意味が理解できなかったようだ。


「お二人は、シャドウパペットを知っていますか?」

「もちろん、知っている。だが、現物を見た事はないんだ」

 支部長が渋い顔で言った。


 俺は現物を見てもらってからの方が良いかと思い、影から為五郎を出そうとしてG級冒険者三人の反応を思い出した。


「今からシャドウパペットを出します」

「ほう、私も初めて見る。ここに残って正解だな」

 朱雀の言葉を聞いて、俺は影から為五郎を出した。支部長室に大きな黒い熊が現れると、座っていた二人が立ち上がる。支部長は身構えて防御の体勢を取り、朱雀は大きな盾を取り出して構えている。


 俺は苦笑いして二人を見た。

「シャドウパペットを出すと言ったはずですが」

 それを聞いた二人が防御の体勢から元に戻った。為五郎が甘えるように俺の身体に顔を擦り付けるのを見たのも、警戒を解く一因になったようだ。


「済まない。シャドウパペットはもう少し小さなものだと思っていたのだ」

 支部長がちょっと恥ずかしそうに言った。朱雀は苦笑いしている。


「この熊型シャドウパペットは、ダンジョンで俺の背後を守ってくれる相棒です。ですが、この相棒に防具や武器を持たせたまま影に潜らせる事はできません」


 俺は聖属性付きの聖銀短剣を為五郎に咥えさせ、影に潜らせようとした。だが、首から下は影に潜ったのだが、聖銀短剣を咥えた口から上が影に潜れなかった。


「この様になるのです。そこで影属性を付与したナイフです」

 為五郎を影から出して、聖銀短剣の代わりに影属性付きナイフを咥えさせて影に潜らせた。今度は完全に影の中に消えた。


「なるほど、影属性を付与した装備なら、影に一緒に潜れるという事か。シャドウパペットは欲しがるものが多いと聞いた。その装備となると利用価値が高いな」


 砂漠ダンジョンの精霊の泉が影属性を付与してくれるという発見は、俺の実績として記録される事になった。


 俺は渋紙市の屋敷に一度戻って、エルモアの鎧などの装備が完成するのを待ちながら、何か必要なものはないかと考える。


「そうだ。エルモアの予備の武器も作らなければ」

 俺は残っている白輝鋼を五キロほど出して、貫穿・斬剛の特性付き白輝鋼のインゴット五キロを作製した。その中の一キロほどを使って、菊池槍を作成するように依頼する。


 メティスが槍術の本が欲しいというので、書店で注文した。必要なものを注文した後、俺は新しい魔法を創る事にした。


『どんな魔法を創るのですか?』

「まずは、<殺菌>の特性を使った生活魔法を創ろう」

『そう言えば、『Dクリーン』に<殺菌>の特性を組み込んだ魔法というアイデアを言っていましたね』


「そうだ。試してみないと確かめられないが、カビの除去に大きな効果を発揮すると思っている」

『今までの『Dクリーン』でもカビを除去できたと思いますが?』


 確かに『Dクリーン』を使うと、カビがなくなり綺麗になったように見える。だが、時間が経つとまたカビが出てくるのだ。『Dクリーン』ではカビ菌を完全に取り除けずに残してしまうらしい。


 これは普通の掃除のやり方でもカビ菌は残ってしまうので仕方ない。カビ菌を取り除くには薬剤を使って殺菌するしかないのだ。


 賢者システムを立ち上げて、『Dクリーン』に<殺菌>を組み込んだ魔法を創る。これは『ステリライズクリーン』と呼ぶ事にした。


 屋敷の中は『Dクリーン』を使って掃除したので綺麗である。そこで庭にある使っていない小さな物置小屋で実験する事にした。壁の一部が湿気を吸って黒カビが発生しているのだ。


 この物置は取り壊そうと思っていたのだが、忙しくて放置していた。中に入って黒カビがある部分を除いて、『Dクリーン』で掃除する。


 この魔法は消火器のようにD粒子を噴き出して、チリや埃を浮かしD粒子が回収するので、ちょっと楽しい。みるみるうちに薄汚れていた物置の壁が綺麗になる。


 黒カビが発生した壁の部分だけ残し掃除が終了。まず右側半分の黒カビを『Dクリーン』を使って除去する。その後、左側半分を『ステリライズクリーン』を使って掃除した。ちなみに『ステリライズクリーン』は魔法レベル5で習得できる魔法となった。


『これで結果を待つのですね?』

「そういう事。右側から黒カビが発生して、左側から発生しなければ成功という事になる。時間が掛かりそうだから、もう一つの魔法の開発を始めよう」


 その魔法というのは、『Dクリーン』を開発した時に、一緒に創った空気清浄機のような魔法である。空気中を漂う埃を除去する魔法だったが、その効果が今ひとつはっきりしなかったので放置していたものだ。


 この空気清浄魔法で使用するD粒子を増やし、<殺菌>を組み込んだ生活魔法を創った。ただ、この魔法の結果をどうやって検証しようかと悩み始めた。


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