第259話 精霊の泉(影)
付与魔法使いでもある天音に影属性について確認したところ、影属性を付与できる付与魔法使いは数が少ないらしい。残念ながら日本には居なかった。
『骸骨ダンジョンの精霊の泉で、聖属性を付与できるなら、影属性を付与できる精霊の泉はないのでしょうか?』
メティスは面白い事を言いだした。
「影属性を付与できる精霊の泉か、調べる価値が有るかもしれない」
『私が生活魔法を使えれば、良かったのですが』
「贅沢を言い出すと限がない。それより探索を続けよう」
俺たちはジャングルの奥へと進み、ブルーオーガを倒して小さな岩山に辿り着いた。その岩山にはトンネルが掘られており、その入り口が目に入る。
高さ二メートルほどのトンネルで人工的に掘られたものだと分かった。人工的だと思ったのは、穴の大きさが一定で表面が綺麗になっていたからだ。
「ダンジョンにトンネル……誰が掘ったんだ?」
『こういうものは、ダンジョン自身が作ったのだと思います』
「そうすると、何か意味があるという事だな。調べてみよう」
俺たちはトンネルの内部を調べ始める。トンネルの内部は暗かったので暗視ゴーグルを使う。エルモアの眼は暗視機能付きのソーサリーアイなので問題ない。為五郎はダメなので、影に戻ってもらう。
調べながらトンネルを進み、十五分ほどで岩山の反対側に出た。
「おかしいな。何もなかったぞ」
『もう一度慎重に調べてみましょう』
俺たちはチェックしながら戻り始めた。トンネルの中間地点に来た時、D粒子の動きに違和感を感じる。どうやら頭上に何か有るようだ。
上に目を向けると、人が通り抜けられるほどの穴が垂直に開いていた。
『私が調べてみましょう』
メティスがそう言うと、エルモアを真上に跳躍させた。
『上に部屋があります。ロープを持っていますか?』
俺が肯定すると、エルモアが戻って来てロープを受け取り、また真上に跳躍する。少し待っていると、ロープの端が下りてきたので、ロープの端に輪っかを作り片足を入れた。
「引っ張り上げてくれ」
『了解しました』
俺はロープと一緒に引き上げられた。そこは二十畳くらいの部屋で財宝の隠し場所のような空間だ。財宝と言ったのは、目の前に宝箱が三つ置かれていたからである。
「罠が仕掛けられていると思うか?」
『分かりません。私が開けましょう』
エルモアが一番左の宝箱を開けると、中から短い矢が飛び出してエルモアの胸に命中した。鏃が鎧を貫通していたが、エルモアは何でもないように引き抜いた。
「慎重に開けなきゃダメじゃないか。鏃に毒が塗ってあったら、どうするんだ」
『この矢には、毒が塗ってあります。ですが、問題ありません』
シャドウパペットに毒は効かない。ただ刺さった傷を治すためには、影の中で養生する必要がある。
一つ目の宝箱の中身は、千枚以上ありそうなオーク金貨だった。オーク金貨は袋に移して収納アームレットに仕舞った。
俺は『Dクリーン』を使って、毒を取り除いてからエルモアの傷口を調べた。一センチほどの傷が付いていたが、問題はないようだ。
罠に用心しながら、次の宝箱を開けてみる。罠はなく宝箱の中には、オーク銀貨が入っていた。そして、最後の宝箱に入っていたのは九本の魔法薬である。
「鑑定してみよう」
俺は鑑定モノクルを取り出すと、魔法薬が入った瓶を一本ずつ鑑定した。鑑定結果は中級治癒魔法薬が三本、初級治癒魔法薬四本、中級解毒魔法薬二本だ。
「金銭的には大収穫だけど、魔道具か魔法の巻物が欲しかったな」
自分でも贅沢な事を言っているという自覚はあったが、正直な気持ちだった。
『このまま探索を続けますか?』
「いや、夕方が近い戻ろう」
俺たちは地上に戻り、冒険者ギルドへ行った。今回の探索の成果を報告するためである。
受付でマリアに報告すると、
「凄いじゃないですか。八層では一番の発見です」
まだ探索が始まったばかりの八層なので、大した発見もないらしい。俺はオーク銀貨だけ換金する。それだけでも数百万円の金額になった。
支部長に面会したいと頼むと、マリアが支部長に伝えて承諾を得た。支部長室へ行って質問があると伝えた。
「質問というのは、何だね?」
「骸骨ダンジョンにある精霊の泉ですが、あれと同じように様々な属性を付与する精霊の泉が有るのですか?」
「ああ、存在する。火属性や氷属性の精霊の泉は、魔導職人が利用していると聞いている」
「その中に影属性を付与するものはありますか?」
「影属性……闇属性の精霊の泉は聞いた事がある。ちょっと待ってくれ」
支部長が資料棚から、一冊の資料を取り出した。その資料を調べて闇属性を付与すると言われている精霊の泉を教えてくれた。影属性は闇属性の一種だと言われているので、闇属性を付与すると言われる精霊の泉の中に影属性のものが有るかもしれない。
「ありがとうございます。調べてみます」
支部長から教えてもらった精霊の泉は四箇所、上級ダンジョンが一箇所、中級が一箇所、初級が二箇所である。
スティールリザードの皮を鞣して、エルモアの防具の作製を依頼した。
まず初級ダンジョンの精霊の泉から確認する事にする。一つは関東にある迷路型の初級ダンジョンであり、そのボス部屋に闇属性を付与する精霊の泉があった。
茨城にある初級ダンジョンに潜った俺は、ゴブリンやオークを倒しながら、ボス部屋に到達。そこのボスは誰かに倒されて不在だったので、蒼銀製ナイフを泉に入れた。
しばらくして取り出し鑑定モノクルで調べてみる。『闇属性付与付き蒼銀製ナイフ』と分かった。
「ここは違ったか」
『残念です』
そして、もう一つの初級ダンジョンである砂漠ダンジョンへ行った。そのダンジョンは東北にあり一層だけしかないものだ。
「ここは暑いな」
このダンジョンにはメタルスコーピオンという魔物が居る。銅や銀などの金属を含む魔物で、銅や銀をドロップする確率が高く、G級冒険者たちの間で人気が高いらしい。
辺りを見回すと、若い冒険者たちがメタルスコーピオンを追い掛けていた。メタルスコーピオンは全長五十センチほどの大きなサソリで、尻尾の毒にさえ気を付ければG級でも簡単に倒せる魔物だという。
G級冒険者たちの中で二人組のチームにボス部屋がある方向を尋ねた。
「ボス部屋に行くんですか。でも、ボスのキラースコーピオンは復活していないと思いますよ」
「いや、精霊の泉を確認したいだけだからいいんだ」
二人組は首を傾げたが、ボス部屋がある方向を教えてくれた。
「でも、ボス部屋は谷底にあるんで、下りるのが大変です」
「大丈夫、俺は生活魔法使いだから」
そう言っても、二人にはピンと来なかったようだ。俺は『ウィング』を発動して、D粒子ウィングを見せた。これに乗って飛んで行くんだと言うと、やっと思い出したようだ。
「思い出した。生活魔法に空を飛ぶ魔法が見付かったって、週刊冒険者に出てた」
渋紙市では生活魔法の存在が広まっているが、この東北ではまだまだのようだ。身近に生活魔法を使う冒険者が少ないからだろう。
俺はD粒子ウィングに乗ってボス部屋へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます