第258話 鳴神ダンジョンのエルモア

 長瀬が手本を見せたので、今度は学生たちが自分たちの実力を見せる番になった。全員が魔装魔法で強化してから、丸太を的に攻撃するのだ。その動きを見て長瀬がアドバイスするという。


 学生たちが順番に丸太を攻撃する。『パワータンク』を使う者が多く、丸太まで走って丸太に剣を振り下ろす者や槍で突きを放つ者が多い。長瀬は鋭い指摘を学生たちに告げる。


 魔物を攻撃するために作られた武器は頑丈に出来ており、これくらいで傷むような武器はない。だが、どの攻撃も丸太の中心に届かなかった。


 ただ丸太を下から攻撃する者は居なかった。アーマーベアを仮想敵として攻撃するはずだったので、防御力が高い背中より腹の部分を攻撃するべきなのだ。


 剣の魔導武器を持つ学生も『パワータンク』を発動して駆け出すと、思い切り上から振り下ろす。丸太の三分の二を切断したところで刃が止まり、悔しそうな顔をする。


「踏み込みが甘い、武器の威力に頼りすぎだ。全身の動きを統一しろ」

 長瀬の鋭い指摘に指摘された学生の顔が青くなる。


 千佳の番になり、雪刃丸を抜いて構え『パワータンク』を発動する。長瀬が見せてくれた動きを思い出しながら、丸太に向かって跳躍。一歩で丸太まで到達した千佳は、下段から擦り上げるように丸太を斬り付ける。


 丸太がスパンと真っ二つに切断され、それを見ていた長瀬がちょっと驚いた顔をする。学生が自分と同じ動きをしたからだ。但し、動きにまだまだ無駄が有る事にも気付いた。


 一方、学生たちは丸太が綺麗に切断された事に驚いていた。

「おい、長瀬さんの指摘がなかったぞ」

「あの真っ白な魔導武器……武将級じゃなくて覇王級なんじゃないか」

 ガヤガヤと騒ぎが広がった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺はエルモアがどれほど戦力になるか確かめたくて、鳴神ダンジョンへ向かった。五層までは転送ゲートを使って移動し、六層の廃墟エリアに入る。


 トリシューラ<偽>を持つエルモアは、ちゃんと防具も付けている。既製品を買って尻尾が出るように改造してもらったのだ。


 廃墟の町でスケルトンナイトやファントムなどを相手に戦っていた時、面白い事を発見した。エルモアが使うトリシューラ<偽>でファントムが倒せたのである。


 トリシューラ<偽>が発する衝撃波は、ファントムにも有効だったのだ。

『面白い、トリシューラ<偽>が放つ衝撃波は、霊的波動を含んでいるようです』


 霊的波動というのは、どんなものなのだろう? メティスに尋ねても、日本語に語彙がないので説明できないと言う。精神に直接話し掛けていても、相手の頭に概念が存在しないと伝え難いらしい。


「まあいい。それよりエルモアの体内に組み込んだ魔力バッテリーは、正常に働いているか?」

『はい、エルモア体内のD粒子から発生した魔力を、蓄積できているようです。その魔力をトリシューラ<偽>で使うのも問題ありません』


「トリシューラ<偽>で攻撃した時に、衝撃波を出さないようにできないのか?」

『残念ながら、ダメなようです』

 やはり雑魚用の武器も必要らしい。雑魚用と言っても特性付きの白輝鋼で作成するつもりなので、今までに遭遇した魔物の大半は、その武器で仕留められるはずだ。


 廃墟エリアを通過して七層に下りた。俺は荷物を運ぶ魔法『フロートボックス』を発動。目の前に箱型の荷台が現れ、俺とエルモアはそれに乗る。


 エルモアを影に潜らせてD粒子ウィングで飛んだ方が魔力の節約になるのだが、エルモアの防具を脱がせるなどの時間が掛かるので、『フロートボックス』を使う事にした。


 八層へ下りる階段は、左奥にある崖に開いた穴の一つと繋がっていた。崖まで飛んで穴に入り、階段を探す。螺旋階段のようなものが見付かり、その階段を下りると八層へ到達。


 八層はジャングルのような森が広がるエリアだった。八層で見付かっている魔物は、アサシンマンティスとブルーオーガ、ハイゴブリンである。


「そう言えば、エルモアにはソーサリーボイスを組み込んだけど、喋れないのか?」

「……ごりゃば、でんしゅがひつりょだす」

 メティスは懸命にソーサリーボイスを使い熟そうとしたが、難しいようだ。メティスも万能ではないらしい。


 このジャングルは、空から何かを見付けようというのが難しいようだ。そこでジャングルを歩いて探索する。そのために為五郎を影から出した。


 為五郎に道を切り開かせて進もうというのだ。為五郎は雑草を押し倒し、低木や蔓を聖爪手で切りながら前進を開始する。


 先頭を進んでいた為五郎が、何かを発見して停止した。

「何か居るのか?」

 俺が声を上げた瞬間、前方の木陰からスティールリザードが現れる。ここにはスティールリザードも居るのか、厄介だな。


 スティールリザードは防御力の高い魔物である。その皮は高級な革鎧に使われるほどなので、セブンスハイブレード以上の威力を持つ魔法でないとダメージを与えられないだろう。


『私に任せてください』

 メティスが進み出た。トリシューラ<偽>の威力がどれほどなのか試してみるつもりなのだ。俺と為五郎は後ろに下がった。


 シャドウパペットの筋力は人の三倍から五倍ほど有るようだ。これは魔装魔法使いが『パワータンク』の魔法で強化している状態と同等である。その力で攻撃を受ければ、大抵の魔物は大ダメージを受けるか死ぬ。


 エルモアはトリシューラ<偽>を両手に構え、ジリジリとスティールリザードに近付いた。突進してくるのを横に跳んで躱したエルモアは、スティールリザードの横腹にトリシューラ<偽>の穂先を突き出す。


 普通の槍なら頑丈な皮で弾き返されるのだが、シヴァ神の槍を模倣した武器は皮を貫通し魔物の体内に潜り込んだ。そして、エルモアが意図的に魔力を槍の柄に流し込むと強力な衝撃波が発生し爆発音のような音が響く。その一撃は内臓に致命的な傷を負わせたらしい。


『一撃で倒せましたので威力は十分だと思います。ただ槍の技術がないので素早い敵を相手にすると苦戦するでしょう』

「槍術か、誰か師匠を見付けた方がいいかな」


 スティールリザードが消えた場所に黒魔石<中>と皮が残った。

「へえー、皮をドロップしたのか、八層で最初に仕留められたスティールリザードだったのかな」

 最初の一匹というのはドロップ率が高いと言われている。


 魔石と皮を拾い上げ、収納アームレットに入れる。この皮で防具を作ればエルモアの防御力は上がるだろう。問題は作った防具に影属性を付与する方法だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る