第253話 トリシューラ<偽>の威力
俺は特性付きの白輝鋼と特性付きの黒鉄をアリサたちに渡した。<貫穿>の特性付きの黒鉄はオマケである。
アリサたちが帰った後、コムギが影から出てきた。
『凄いものを手に入れましたね』
「ん、<反発(地)>の事?」
『そうです。あれは使い方次第で面白い魔法が創れると思うのです』
「そうかもしれないけど、まずはアースドラゴンを倒して手に入れたものを確認しよう」
俺は有料練習場へ向かった。
大きな有料練習場を借りると、丸太が竹林のように立っている一画に歩み寄る。この丸太を標的にして、トリシューラ<偽>の威力を試そうと思ったのだ。
俺の後をコムギが付いてくる。
「本物のシヴァ神が持つ三叉槍トリシューラだったら、どれほどの威力があったんだろう?」
『イギリスの冒険者が書いた『世界の神話伝説』という本に書かれていたのですが、本物のトリシューラは、巨大種のヒュドラを一撃で仕留めたとありました』
『世界の神話伝説』という本は、『知識の巻物』を使ってダンジョンアーカイブの神話・伝説区画に接続した冒険者が書いたものである。
その本に書かれている神話や伝説、あるいは伝承を基にダンジョンの魔物や魔導武器が創られる事が有るらしい。メティスの仲間がダンジョンアーカイブの神話・伝説区画から情報を引き出して、魔物やダンジョン産の武器を創るからだろう。
それにより同じ聖剣エクスカリバーが複数存在するという事も起こるのだ。
俺が不思議に思うのは、ダンジョンアーカイブにある情報が誰によって集められ編集されたのかという事だ。D粒子が広がる宇宙には、神が存在するのだろうか?
『但し、トリシューラ<偽>には、そこまでの威力はないと思います』
変な事を考えていた俺は、メティスの声で現実に引き戻された。
「そうだろうな。でも、用心のために完全装備に着替えてから、試してみよう」
俺は黒鱗鎧などを身に着けてから、トリシューラ<偽>を手に持った。構えてから三叉槍の穂先を丸太に向かって突き入れた。
三つに分かれた穂先が丸太に吸い込まれる。豆腐に箸を突き刺すほどの抵抗しかない。そして、槍の刃の部分が丸太に埋まった瞬間、槍の穂先から凄まじい衝撃波が放たれた。
直径三十センチほどの丸太が、衝撃波で粉々になり前方に破片が飛び散る。残った丸太の上部が地面に落ちて騒がしい音を立てた。
衝撃波が撃ち出された時、俺は魔力が吸われるのを感じた。衝撃波のエネルギー源は、俺の魔力らしい。
「なるほど、偽物でもシヴァ神の武器という名前が付けられるだけの威力を持っている、という事か」
『コンクリートブロックで試してみましょう』
俺はコンクリートブロックがある場所まで行って、トリシューラ<偽>をコンクリートブロックに突き刺した。この時、意図的に魔力を三叉槍の柄に流し込む。
槍の穂先がコンクリートに沈んだ。土嚢を槍で突いている程度の手応えがあり、その後衝撃波が発生する。その衝撃波が凄まじかった。
厚みが一メートルあるコンクリートブロックの半分を粉々に砕いたのである。
「これは本当に偽物なのか?」
『本物が想像以上に凄いという事でしょう。普段使う武器を、これに替えますか?』
凄い威力なのだが、俺が槍の扱いに慣れていないという点が問題になる。光剣クラウの時のように槍を練習する事も考えたが、似たような威力を持つ生活魔法も有るので、人型シャドウパペットを作った時に、そいつの武器にしようと考えた。
『次は魔導銃を試してみましょう』
「アースドラゴンの宝箱から出てきたものだからな。どれほどの威力があるか楽しみだ」
俺はトリシューラ<偽>を仕舞って、魔導銃を取り出した。ズシリと重く本物の武器だという手応えが有る。その銃を十メートルの距離からコンクリートブロックに向けた。
慎重に狙って引き金を引く。何も起こらない。
『魔導銃のエネルギー源は黄魔石だと聞いています。空なのでは?』
「知らなかった。トリシューラ<偽>のように勝手に魔力を吸い取って、撃ち出すのかと思っていた」
魔導銃のグリップに弾倉に似た充填倉が組み込まれており、それを引き出して中に黄魔石を入れる仕組みらしい。
俺は魔石リアクター用として確保していた黄魔石を、充填倉に詰めてグリップに戻した。改めてコンクリートブロックを狙って引き金を引く。
魔導銃からブンという音がして、魔力の塊らしいものが発射された。一瞬でコンクリートブロックまで到達した魔力の塊が、コンクリートに穴を穿つ。その深さは三十センチほどもあった。
「これって、アースドラゴンのストーンブレスを真似ているんじゃないか?」
アースドラゴンのストーンブレスは、魔力を圧縮した塊が雨のように襲ってくるが、その一発だけを再現したのが、この魔導銃のようだ。
『そうですね。魔力圧縮弾という感じです。続けて撃てますか?』
試してみると黄魔石がなくなるまで撃てた。黄魔石を再び充填してから、丸太に向かって撃ってみる。
魔力圧縮弾は木の幹を貫通するほどの威力があり、アースドラゴンとの戦いで見たストーンブレスを思い出させる。射程も五十メートルほどあるので、使い勝手の良い武器だ。
但し、この魔導銃でアースドラゴンを倒せるかというと、無理だろう。
アリサたちから白輝鋼の代金として渡された生活魔法も習得して、『荷物を運ぶ魔法』を試して見た。新しい魔法を発動すると、長さ二メートル・幅一メートル半・高さ二十センチほどもある蓋のない箱のようなものが形成され、魔力でコーティングされた。
その浮遊ボックスに荷物などを載せて運ぶ魔法のようだ。この浮遊ボックスは高さ五メートルほどまでしか上昇できなかった。<反発(地)>の特性を使った魔法なので、地面が近くにないと反発が発生しないらしい。
また速度も遅かった。最高時速が三十五キロほどだ。その代わりに航続距離が長く五十キロほど飛べるらしい。
この魔法を取得できるのは、魔法レベル9のようだ。習得したいと思う生活魔法使いは、多いのではないだろうか。
夕方になったので冒険者ギルドへ寄ってから帰る事にする。冒険者ギルドへ行くと、支部長室へ呼ばれた。
支部長室へ入って挨拶すると、用件を尋ねた。
「おめでとう。アースドラゴンを倒した事が確認された。冒険者ギルドから発表され新聞にも記事が載るだろう」
遅いように感じたが、確認してくれる冒険者チームを用意するのに時間が掛かったらしい。
「ありがとうございます。しかし、A級冒険者にはなれないんですよね?」
「昔ならA級になれたのだが、今は無理だ。もう一匹五大ドラゴンを倒すか、何か貴重なものを発見するという実績がないとダメだろう」
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