第252話 巻物探し

 グリムの見舞いを終えたアリサたちは、屋敷を出て冒険者ギルドへ向かった。

「なあ、アリサ。グリム先生が持っている武将級の武器を作れる材料というのは何なんだ?」

 千佳が気になったようで尋ねた。


「切れ味と貫通力が強化されている白輝鋼よ。それで武器を作れば、武将級の魔導武器になるそうなの」

「誰からの情報?」


「グリム先生からよ。その白輝鋼で槍を作って、鉄心さんにプレゼントしたら、近藤支部長からチェックが入ったそうなの。気軽にプレゼントするようなものじゃないと言われたみたい」


 天音が頷いた。

「グリム先生は、あまり武器を重要視していないから……鉄心さんが喜ぶだろうとだけ考えて、価値がどれほどかは考えなかったのね」


「ちょっと待って。切れ味と貫通力の強化と言った?」

 千佳が確認する。アリサが頷いた。

「そうよ。切れ味と貫通力の強化する魔導武器と聞いたけど」


「……アリサも武器に対しては関心が薄いからな」

「どういう意味?」

「武将級の魔導武器は、切れ味か、貫通力かの一方だけというのが普通よ。二つ同時という事は、限りなく覇王級に近いと言えるから」


 アリサたちも覇王級の値段は知っていた。由香里が不安そうな視線をアリサに向ける。

「それと同等の価値が有るものと交換すると言っていたけど、大丈夫なの?」

「グリム先生が、一番欲しいと思っているもの。それは生活魔法よ。私たちで生活魔法を見付け出して、先生に渡せばいい」


 他の三人が首を傾げた。どうやって生活魔法を見付けるのか、分からなかったからだ。それをアリサに質問した。


「グリム先生は、以前に冒険者ギルドの倉庫を調べて、保管されている巻物から生活魔法の巻物を探し出した事がある、と言っていた。それを真似て生活魔法の巻物を探し出すの」


 天音が納得していない顔で尋ねる。

「鑑定モノクルがあったから、できた事じゃないの?」

「大丈夫、任せて。分析魔法を調べていて、ほとんど忘れられた魔法を見付け出したから」


「どんな魔法?」

「『デスティンクション』という分析魔法よ。これは巻物を系統別に判別するだけの魔法なの」


 分析魔法のワイズマンが創った魔法らしい。『アイテム・アナライズ』で鑑定できなかった巻物を判別するために創ったという。これを使って活用されていない巻物の中から分析魔法の巻物を選び出し、賢者システムで調査していたようだ。


 死蔵されている巻物を活用しようとした者は、グリムが初めてではなかったという事である。


 千佳が頷いた。

「その魔法で、生活魔法だと判明した巻物を調べるという事?」

「その通り。それと、グリム先生は巻物の軸先に、『水星』と魔法文字で書かれている巻物を探しているみたい」


 その後、アリサたちは休日に埼玉県内の冒険者ギルドを廻って、生活魔法の巻物を探し出す作業を行った。冒険者ギルドの支部長と交渉して、倉庫に保管されている巻物を調査する許可をもらい探すのである。


 倉庫の中で、アリサが『デスティンクション』を発動する。この魔法はアリサの目に新しい能力を追加する。巻物が系統によって様々な色の淡い光を放っているように見えるのだ。


 生活魔法の巻物は淡い青色に光っており、アリサはその色の巻物を選り分けた。ただ生活魔法の巻物だと判明しても、新しい生活魔法だとは限らない。


 それをチェックするのは大変だった。魔法庁に登録されている生活魔法の魔法陣と照らし合わせて、新しいものかどうかをアリサ以外の三人がチェックする。


 埼玉にある最後のギルド支部で巻物を調べていた時、千佳が大声を上げた。

「見付けた。アリサが言っていた『水星』の魔法文字というのは、これでしょ」

 千佳が巻物をアリサに渡した。巻物の軸先に魔法文字が小さく書かれていた。間違いなく『水星』という魔法文字だ。


「やった。これよ」

 アリサたちは全員で喜んだ。ここまでで新しいと思われる生活魔法を五つ発見している。その五つと特性の巻物なら、グリムも納得するだろうと思った。


 アリサたちは六本の巻物を持って、グリム屋敷に行った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺は骨折も治ったようなので、ナンクル流空手の型稽古をしながら、身体の調子を元に戻そうとしていた。そこにアリサたちが来て、特性付き白輝鋼の代価として六本の巻物を渡された。


「これが全部生活魔法の巻物だというのか。特性付き白輝鋼の代価としては過剰じゃないか?」

 特性付き白輝鋼など一日で作れるものなので、俺の中の価値観では低い。だが、これが億超えの魔導武器になるものだと知っているので、六本の巻物を受け取った。


 鑑定モノクルを取り出して左眼に掛け、巻物を調べるふりをして賢者システムを立ち上げる。賢者システムを使って巻物を調べた。


 生活魔法の巻物は、『コインの数を数える魔法』『小麦を粉にする魔法』『皿洗いの魔法』『アイロンを掛ける魔法』『荷物を運ぶ魔法』だった。


 最初の二つは渋紙市の冒険者ギルドで見付けた巻物と同じである。『皿洗いの魔法』と『アイロンを掛ける魔法』は便利そうだが、魔法を使わなくても簡単にできるものなので需要が有るかどうかは分からない。


 『荷物を運ぶ魔法』は『ウィング』の魔法に似ている。ただD粒子ウィングは二人の人間を乗せるのが限界だが、この魔法は六人ほどの人間、または荷物を乗せる事ができた。


 『ウィング』はD粒子を運動エネルギ―に変えて飛翔するが、この魔法は違う原理で飛翔する貴重なものだ。アリサたちの中に強運を持つ者が居るんだろうか? 


 そして、D粒子二次変異の特性らしい巻物。これだけで白輝鋼の十倍以上の値打ちがある。特性が増えるという事は、俺にとって可能性が増えるという事なので最大級に嬉しい。


 俺も神奈川県の冒険者ギルド支部を廻って<分散抑止>の特性を手に入れてから、いくつかの支部で巻物探しをしてみたが、新しい生活魔法や特性の巻物は発見できなかった。


 生活魔法の巻物が見付かりやすい地域があるように感じていた。アリサたちが埼玉県を選んだのは正解だったのだ。


 特性の巻物を調べてみると『反発(地)』というものだった。これは地面に対して反発する力を発揮するものだ。たぶん『荷物を運ぶ魔法』は、この特性を使っているのではないかと思う。


 特性付き白輝鋼の代価としては、やはり過剰なものだった。その事をもう一度アリサたちに言うと、いつも世話になっているから構わないという。


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