第254話 A級のハードル

「その貴重な発見というと、どんなものになるのです?」

 俺は発見したものの中で、何か実績になるかもしれないと思い確認した。


「そうだな……難病を治す薬の製造法とか、新しい素材などの人類全体にとって利益となる発見だな」


 A級となるとハードルが高い。支部長は少し大げさに言っているのだと思うが、大勢の人々の利益になる発見という事だろう。人類全体の利益とか考えもしなかった。


 生活魔法の発展は人類全体の利益になると思うが、新しく開発した生活魔法をそのまま発表したらA級冒険者になる前に、賢者だとバレてしまいそうだ。


「そうだ。アリサたちが埼玉県の冒険者ギルド支部を廻って、生活魔法の巻物を集めて来たんです」

「ああ、うちの支部で行った調査を、埼玉でもやったという事か。でも、彼女たちは大学に入ったばかりだろう。なぜ、そんな事を?」


「俺が持っている特性付き白輝鋼と交換したんです」

 支部長が腕を組んで考え始めた。それが釣り合っているか考えているのだろう。

「その生活魔法は、どんな魔法だったか、教えてもらえるか」


 俺は『コインの数を数える魔法』『小麦を粉にする魔法』『皿洗いの魔法』『アイロンを掛ける魔法』『荷物を運ぶ魔法』だったと伝えた。


 それを聞いた支部長は、『荷物を運ぶ魔法』について詳しく尋ねた。俺は分かっている事を教える。

「ほう、それなら一つのチームを運べる。チームに生活魔法使いを入れるのは必須だという時代が来るかもしれないな」


 『荷物を運ぶ魔法』は将来的に重要になる魔法だと理解してくれたが、その発見だけではA級になる実績として足りないらしい。ちなみに、A級に上がるために評価される実績は、B級になった後に上げたものだけである。


「そう言えば、A級冒険者の長瀬さんが渋紙市に来るそうですね」

 支部長がニヤッと笑った。

「グリム君でも、新しいライバルは気になるようだな」


 俺は頷いた。

「そりゃあ、そうでしょう。A級冒険者に美味しいところを取られたら、泣きたくなりますからね」


「長瀬君は神話級の武器を探しているから、積極的に中ボスを狙うはずだ。そういう意味では、他の冒険者は泣く事になるかもしれんな」


 神話級の武器と聞いて、トリシューラ<偽>が頭に浮かんだ。だが、あれは偽物だ。長瀬が探し求めているものではないだろう。


「長瀬さんは、魔導武器のバルムンクを持っていたはず。あれは神話級の魔導武器じゃないんですか?」

「違うらしい」


「……俺も中ボスを狙っていたんですけど」

「大丈夫だ。十分に長瀬君と競えるだけの実力を持っていると思うぞ」


 長瀬は世界冒険者ランキングで百二十六位だ。魔装魔法使いである長瀬が上を目指そうとすれば、どうしても強力な魔導武器が必要になるのだろう。


 俺は支部長に情報の礼を言ってから、屋敷に戻った。影からシャドウパペットたちを出す。ちょっと疲れたので、タア坊と為五郎のもふもふに癒やされながらボーッとした時間を過ごした。


「メティス、光剣クラウは神話級の武器だと思うか?」

『そうですね。アンデッドに特化した魔導武器だとしても、威力から考えると伝説級でしょう』


「そうだよな。そうすると、神話級の魔導武器が必要になる魔物というのは、どんな化け物なんだろう?」


『エンシェントドラゴンやベヒモス級の魔物でしょう』

「自分がエンシェントドラゴンやベヒモスを相手に、戦うなんて考えられないんだけど、A級冒険者はそんな化け物と戦うんだろうか?」


『ダンジョン攻略を目的とするA級冒険者は、そうだろうと思います。ですが、A級冒険者の中には、趣味に走る者も居るようです』


 A級冒険者には美味しい肉を求めてダンジョンに潜り、ダンジョンエラーが起きるのを期待して、ひたすら肉が美味しい魔物を倒す者も居るらしい。


 俺は自由な状況で賢者として活動したいと思っている。それにはA級冒険者の実力と味方が必要だと考えていた。実力は手が届くところまで来ていると思うが、味方が少ない。


 それは仕方がないと思っている。冒険者として本格的に活動を始めたのは三年くらい前なのだ。これから味方を増やし、生活魔法の発展に努力していこう。


『グリム先生、アリサさんたちから受け取った生活魔法は、ワイズマンが創ったものなんですか?』

 メティスが俺に質問した。


「いや、ダンジョン産だと思う。ダンジョンは構造的に無駄のない魔法を創るけど、あまり人間の使い勝手を考慮していないという欠点が有るんだ」


『思ったのですが、あれがダンジョン産だという事は、ダンジョンは生活魔法がどういうものか分かっていて、創っているという事ですね』


 何か痛いところを突かれた気がする。ダンジョンは生活の向上を目指した魔法を創っているが、俺が創る魔法は魔物を攻撃するものが多い。


 考えてみると、俺が創る魔法の方が生活魔法としては邪道なのだ。だとしても、魔物を攻撃する生活魔法がなければ、魔法レベルを上げられないのも事実である。結局、両方が必要なのだろう。


 メティスがコムギを使って、テレビのスイッチを入れた。コムギの前足だと上手にスイッチなどを扱えないので苦労しているようだ。


「メティス、人型のシャドウパペットが欲しくないか?」

『それは欲しいに決まっています。ダークリザードマンの影魔石を使うのですか?』

「ああ、どういうシャドウパペットにするか、検討しよう」


「まずは大きさだな。シャドウクレイをどれくらい使う?」

『そうですね。魔物と戦えるシャドウパペットにしたいので、百五十キロは必要だと思います』


 シャドウクレイは同じ体積で比較すると人体より重い。なので、百五十キロと言っても人間の場合ほど大きい訳ではない。


「そうすると、武器はトリシューラ<偽>だな」

『しかし、トリシューラ<偽>は使用時に魔力が必要です。手強い魔物以外では使わない方がいいでしょう』


 シャドウパペットも魔力で動いているので魔力は持っている。だが、魔力の蓄積容量が少ないのでトリシューラ<偽>を使うとすぐに魔力切れになりそうなのだ。


「予備の武器として、特性付き白輝鋼で菊池槍でも作るか?」

『そうしてもらえると、ダンジョンで戦力になると思います』

「そうすると、槍を仕舞っておくマジックバッグが必要だな。アースドラゴンから手に入れたマジックバッグを組み込むか」


『それは贅沢過ぎます。ゴブリンメイヤーのマジックポーチで十分です。それより遠距離攻撃ができる魔導銃を使わせてください』


 魔導銃は魔道具であり、銃規制の対象にはなっていない。別に魔道具用の法律があり、その中でダンジョン以外で使う場合の法規が定められている。


「俺は使わないつもりだから、いいだろう」


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