第251話 生活魔法らしい特性

 メティスたちは宝箱を探しに行った。俺はアウトドア用のベッドに横になりながら、アースドラゴンとの戦いを思い出した。


「『ダイレクトボム』の威力は、申し分ないんだけど、飛翔するまでに時間が掛かるのが問題だな」


 『パイルショット』のように素早く撃ち出せる魔法に改良する事を考えるか、それとも全く新しい魔法を創り出すかだな。


 魔法について考えていると、コムギが戻ってきた。

『宝箱を発見しました』

 岩の陰に宝箱があったらしい。為五郎が宝箱とタア坊を背中に載せて運んできた。タア坊は宝箱が落ちないように支えているようだ。


 宝箱が地面に下ろされ、為五郎が蓋を開ける。トラップはなかった。確認すると、宝箱の中に三つのアイテムが入っていた。


 一つは武器であり、それを目にして驚いた。魔導銃だったからだ。魔導銃は魔導職人たちが開発した武器で、魔力弾や火炎弾を発射するものがほとんどだった。


 高額な割に威力が弱いので、使う者は少ない。ただ魔導職人たちは研究を続けており、高威力のものが開発されれば、使用者が増えるかもしれないと言われている。


 形は拳銃型のグレネード・ランチャーという感じだ。威力は分からないが、たぶん『パイルショット』などの生活魔法より低いと思う。


 もう一つのアイテムは巻物である。開いてみると、賢者システムで使う特性の魔法陣が描かれたものだった。


 その魔法陣を見た瞬間、賢者システムが自動で立ち上がって情報を読み取り始めた。初めD粒子二次変異の特性かと思ったが、賢者システムを確認して、D粒子一次変異の特性である<殺菌>だと分かった。


『その巻物は魔法だったのですか?』

 メティスが尋ねた。

「いや、D粒子一次変異の特性だった。<殺菌>という特性らしい」


『生活魔法らしい特性ですね。部屋の中を清潔に保つためには、最適な特性です』

「そうだな。『Dクリーン』と組み合わせると面白いかもしれない」


 メティスと<殺菌>を使った魔法について話してから、最後のアイテムを取り出した。秘蹟文字で書かれた本だ。秘蹟文字は『知識の巻物』を使って知識を手に入れたので、問題なく読める。


 タイトルを読むと『干渉力鍛練法』と書かれていた。中身を確認すると、D粒子に対する干渉力を鍛える方法が秘蹟文字で記述されている。


「驚いたな、こんな貴重な本も有るのか」

『何の本なのです?』

 『干渉力鍛練法』について説明すると、メティスも貴重な本だと認めた。


 それから半日ほど中ボス部屋で過ごした。そして、ようやく動けるようになる。動けると言っても、完全に治った訳ではない。


 『治療の指輪』による治療は、あまり骨折に対して効果がない。中級治癒魔法薬は骨折に対して効果があると言われているが、一本飲めば完全に治るというほどの効き目はなかった。


 痛みに耐えながら地上に戻り、そのまま病院へ直行する。肋骨が三本折れていた事が判明した。胸部固定帯トラコバンドというもので肋骨を固定して一日だけ入院する事になった。


 病室で横になっていると、冒険者ギルドの職員が来て怪我をした経緯を尋ねた。

「俺は三十層のアースドラゴンと戦って怪我をしたんです」

「なるほど、アースドラゴンに挑んで、怪我をしたのでエスケープボールで脱出したのですね」


「違う。アースドラゴンを倒して戻ってきた」

 ギルド職員が驚いた顔をする。

「ほ、本当ですか。それなら白魔石とマジックバックを回収したはずです。それを見せてもらえませんか」


「分かった」

 俺は白魔石と巾着袋型マジックバッグを見せた。そのギルド職員は、分析魔法の『アイテム・アナライズ』が使えたので、鑑定して本物のマジックバッグである事を確認した。


 アースドラゴンを倒したという実績は、別の冒険者チームが本当に中ボス部屋にアースドラゴンが居ない事を確認した後、記録されるようだ。


 入院して検査した後、俺は渋紙市に戻って地元の病院に通うようになった。

 屋敷の部屋で休んでいると、アリサたちが見舞いに来た。フルーツ盛り合わせを受け取って、リビングに通して話を始める。


「グリム先生、怪我をしたと聞きましたが、大丈夫なのですか?」

 アリサが心配そうな声で尋ねた。他の三人も心配だという顔をしている。

「ああ、肋骨が折れたが、中級治癒魔法薬を飲んだので、二週間ほどで完治すると医者に言われた」


「何と戦って、怪我をしたんです」

 天音が身を乗り出して質問する。

「アースドラゴンと戦って、その尻尾で弾き飛ばされたんだ」


 それを聞いたアリサたちは驚いた。千佳が真剣な顔になって、

「それでアースドラゴンを倒せたのですか?」

「何とか、倒せた」

 とは言え、ギリギリだったと伝える。アースドラゴンのストーンブレスを巨大亀の甲羅を使って防御した様子も話した。


「へえー、巨大亀の甲羅ですか。そんなものが、ドラゴンとの戦いに役に立つなんて、思ってもみませんでした」

 由香里が目を丸くしている。


「アースドラゴンを倒したのですから、A級になれるのではないですか?」

 千佳が確認した。それを聞いた俺は首を振って否定する。

「昔はアースドラゴンを倒して、A級冒険者になった者も居たらしいけど、今はアースドラゴンを倒しても、それだけではA級にはなれない。厳しくなっているんだ」


「先生はA級冒険者を目指しているのですよね。これからどうするのです?」

 A級冒険者になるために、どういう行動を取るのかという質問らしい。


「怪我が治るまでは休養してから、鳴神ダンジョンの攻略を進める。十層くらいに中ボス部屋が有るんじゃないかと思うんだ。それを狙う」


「凄いな……凄いと言えば、大学の講師として、A級冒険者の長瀬ながせ繁信しげのぶが来るんですよ」

 天音が自慢そうに言った。長瀬は魔装魔法使いで竜殺し剣『バルムンク』を所有している。


 バルムンクはドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に出てくる英雄ジークフリートの愛剣である。その剣の特徴が、黄金の柄に青い宝玉が埋め込まれているというものだった。


 長瀬が手に入れた魔導武器の剣も黄金色の柄に青い宝玉が埋め込まれていたので、『バルムンク』じゃないかと言われ始め、今ではその名前が定着したらしい。


 『アイテム・アナライズ』で鑑定してみると、魔導武器だという事は分かるが名前までは分からないそうだ。


「千佳は、長瀬さんの講義を受けるんでしょ?」

「もちろんよ。でも、羨ましいな。私もバルムンクみたいな剣が欲しい」


 アリサが俺の方へ視線を向けた。

「グリム先生は、武将級の武器を作れる材料を持っていましたよね」

「持っているけど、さすがにプレゼントする訳にはいかないぞ」


「分かっています。代価として釣り合うものを持って来ますから、それと交換してもらう事はできますか?」


「本当に価値の有るものだったら、いいけど」

 鉄心のため用意した特性付き白輝鋼は、まだ二キロほど余っている。使う予定はないので手放しても構わなかった。


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