第250話 アースドラゴンとの戦い2

 中級治癒魔法薬を飲み干した俺は、アースドラゴンの動きを確認した。尻尾を振り回した拍子に倒れたアースドラゴンが立ち上がろうとしていた。


 セブンスグレイブは、アースドラゴンの足に大きなダメージを与えていたようだ。尻尾を振り回した反動を、傷を負った足では受け止められずに倒れたのだろう。


 『痛覚低減の指輪』を取り出して嵌める。痛みが半分ほどに減少した。この事は危険だと分かっているが、ここで死ぬ訳にはいかない。


 俺が『ダイレクトボム』を発動しようとした時、アースドラゴンが立ち上がって、口を開けた。『カタパルト』に耐えられないと思った俺は、『マグネティックバリア』を発動する。


 D粒子磁気コアが形成され、それを首に掛けてドーム状の磁気バリアを展開した。その瞬間、アースドラゴンのストーンブレスが吐き出される。


 強烈な威力を持つブレスが、展開した磁気バリアにぶつかり跳ね返される。だが、その代償として首に掛けたD粒子磁気コアがみるみる小さくなっていく。


『どうしますか? あまり長く磁気バリアがもちそうにありません』

「そう言われても……そうだ」

 俺は収納アームレットから、巨大亀の甲羅を取り出して自分の上に被せた。甲羅にガツンガツンと魔力が圧縮された塊がぶつかる音がする。


『ストーンブレスで良かったですね。これがファイアブレスだったら、蒸し焼きになります』

「そうだけど、大丈夫かな」

 俺は甲羅が壊れるのではないか、と心配した。だが、思っていた以上に頑丈だった。


 ううっ、巨大亀の甲羅は大丈夫そうだけど、ガンガンと五月蝿い。これは一種の拷問だ。しばらくして、その音がやんだ。素早く甲羅を収納アームレットに仕舞う。


 アースドラゴンが頭をふらふらしている。ストーンブレスを吐き過ぎて魔力切れになったようだ。


『チャンスです』

 俺はD粒子収集器を取り出し手に持つと走り出した。ちょうど良い間合いまで近付いた俺は、D粒子収集器の中身を振り撒いて九重起動の『ブローアップグレイブ』を発動する。


 巨大な武器が形成されると、それが凄まじい速さで振り抜かれた。D粒子グレイブの刀身部分が音速の数倍に達して、アースドラゴンの分厚い胸に叩き込まれる。


 巨大なD粒子の刃は、強靭な筋肉を切り裂き巨竜の心臓まで到達、そこで爆発した。凄まじいパワーの源であった臓器が消滅する。


 大量の血を吐き出したアースドラゴンが地面に倒れた。まだ安心できない。アースドラゴンの肉体が分解しないのだ。足の先がピクピクと痙攣している。


 俺はセブンスダイレクトボムを発動した。D粒子爆轟シェルをアースドラゴンの頭部に叩き込む。この一撃が致命傷となって、巨体が空中に消えた。体内でドクンと音がする。生活魔法の魔法レベルが上がったのだ。


「はあっ、倒した」

 ホッとした俺は、気分が悪くなった。折りたたみベッドを取り出すとその上に横たわる。影からコムギが出て来て、俺の様子をジッと見る。

『グリム先生、『治療の指輪』を使いましょう』


「そうだな」

 俺は『治療の指輪』を取り出して、胸に押し当てると発動させた。温かいものが胸に広がり、少し気分が良くなった。


『今回は危なかったですね』

「アースドラゴンが猪突猛進型だったので助かった」

『ええ、ストーンブレスが効果ないと分かったら、すぐに攻撃を切り替える知恵があったら、危険でした』


「いや、あれは知恵がなかったのではなく、性格だな。力押しするタイプだったんだ」

『知恵を持っていたとしても、使わなかったら同じです。ところで、アースドラゴン戦で一番役に立ったのは、巨大亀の甲羅でしたね』


 俺は苦笑いする。その瞬間、痛みが走った。

「痛っ、笑っただけで痛い。重傷だな」

『『痛覚低減の指輪』の指輪を使っていても、それほど痛むのなら、かなりの傷です』


「回復するまで、ここで休むしかないか」

『グリム先生は寝ていてください。タア坊と為五郎に手伝ってもらって魔石とドロップ品を回収します』

「頼む」


 俺は影からタア坊と為五郎を出し、メティスの指示に従うように命じる。

 最初に白魔石<中>が発見された。次にアースドラゴンのドロップ品らしいものが発見される。見付けたのはタア坊だ。


 小さな口に咥えて持ってきたものを見た俺は驚いた。巾着袋型バッグだったからだ。ドラゴンのドロップ品でバッグとなれば、マジックバッグに間違いない。


 鑑定モノクルで調べてみると、やはりマジックバッグだった。容量は収納アームレットの八倍ほどだという。これほど大容量だと、小さなビルくらい入りそうだ。

 但し、内部の時間経過は同じなので、傷みやすい食料などの保存という点からは役に立たない。


 その後、為五郎もドロップ品を持って来る。為五郎が咥えてきたのは、三叉槍さんさそうだった。俺は折りたたみベッドに横たわったまま槍を鑑定した。


「こいつは『トリシューラ<偽>』だそうだ」

『トリシューラというと、ヒンドゥー教の神であるシヴァが持つ三叉槍ですね。でも、偽物ですか……本物だったら凄いのですが』


 このトリシューラ<偽>は、敵に穂先を突き刺した瞬間、強力な衝撃波を発するようだ。その衝撃波で敵を粉々にする武器だという。


『破壊神でもあるシヴァが持つのに相応しい武器です。ただ偽物なので威力は限定的なのでしょう』

「どれほどの威力か試したいけど、今は無理だな」

『ええ、絶対にやめてください』


 俺は溜息を漏らして、トリシューラ<偽>を収納アームレットに仕舞った。

 前回、『治療の指輪』を使ってから三十分ほど経ったので、もう一度指輪を使って治療した。これを何回か繰り返せば、動けるようになるだろう。


『ドロップ品は、これだけのようです。次は宝箱がないか探します。中ボス部屋が広いので時間が掛かるかもしれませんが、待っていてください』


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