第246話 明星ダンジョンのアースドラゴン

「このような魔導武器を製造できる付与魔法使いが居るのなら、冒険者ギルドの者として知っておきたい。グリム君に確認してみよう」


 グリムに確認すると聞いて、鉄心は慌てた。

「グリムが秘密にしている事かもしれねえ。無理に聞き出そうとしないでくれよ」

「分かっている。グリム君はこの支部から初めて選ばれるかもしれないA級冒険者候補だ。大切にサポートするつもりだ」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 次の日、俺は支部長に呼ばれた。冒険者ギルドの支部長室へ入る。挨拶してから、

「支部長、鳴神ダンジョンで何かあったんですか?」

「そうじゃない。グリム君が鉄心君に贈った菊池槍についてなんだが、誰が作ったか知りたかったのだ」


 俺は首を傾げた。あの菊池槍は普通の魔導武器のはずである。

「あれは鍛冶屋の宗像さんから紹介された吉祥寺きちじょうじさんに依頼したものです」

 吉祥寺は朱鋼や白輝鋼を扱える貴重な刀鍛冶だが、魔導武器は作っていなかった。それを知っている支部長は、納得できないという顔をする。


「吉祥寺さんは、最高級の日本刀や槍を作れる人物だが、付与魔法使いではない。魔導武器は作れないはずだ」

 俺は収納アームレットから、貫穿・斬剛の特性付き白輝鋼インゴットを取り出した。


「これを使って菊池槍を作製してもらったからですよ」

 支部長が白輝鋼のインゴットに目を留めた。

「普通の白輝鋼ではないのか?」

「違います。調べてもらっても構いませんよ」


 支部長が加藤を呼んで、調べさせた。

「支部長、『特性付き白輝鋼』です」

 鑑定モノクルの方が『アイテム・アナライズ』より鑑定能力が高いようだ。鑑定モノクルは付与されている特性まで分析したが、分析魔法の『アイテム・アナライズ』は何らかの特性が付いている事しか分からないらしい。


「なるほど、これを材料として菊池槍を作ったので、あのような魔導武器が出来たのか。素晴らしい。これをどこで手に入れたのかね? おっと、これは余計な詮索だったか」


「こいつの入手方法については秘密です。でも、何で調べようと思ったんです。あの菊池槍は武将級の魔導武器ですが、珍しい性能じゃないはずです」


 支部長が俺をジッと見た。そして、本気で言っているのが分かると、溜息を漏らす。

「武将級の魔導武器というのは、切れ味強化だけとか、貫通力強化だけとかが付いている。両方が付いているような魔導武器は、ダンジョン産の高級なものだ」


 知らなかった。どっちか一方だけなんて……メティスも言っていなかったぞ。あっ、メティスの情報源はダンジョンアーカイブからだ。ダンジョン産なら両方という事も有るのか。


「もしかして、高額なものになるんですか?」

「あの菊池槍は、売りに出せば覇王級に近い金額で取引されるだろう」

 つまり億超えという事だ。気軽にプレゼントできる品物ではなかったのだ。受け取った鉄心も困っただろう。だが、一度贈ったものを返してくれとは言えないので、有効に使って欲しい。


 考えてみると金銭感覚がおかしくなっているようだ。とは言え、生活面では屋敷以外の贅沢をしていない。偶に好きな寿司を食べる事くらいだから、慎ましい生活だと言えるだろう。


「しかし、白輝鋼を鳴神ダンジョンの七層から採掘するのではなかったのか?」

「ちゃんと採掘しましたよ。特性付き白輝鋼は別の場所で入手したものです」


 俺は『ピュア』で抽出した白輝鋼の粒が入った袋を取り出して見せた。特性付き白輝鋼は有料練習場で作り手に入れたものだから嘘ではない。


「こんな事で、わざわざ呼び出して済まなかった」

「構いませんよ」

「ああ、そうだ。特性付き白輝鋼で別の武器を作る予定は有るのか?」

「必要になるまで、仕舞っておきます」


 資料室へ行って鳴神ダンジョンの資料をチェックした。それほど進展はないようだ。

「くっ、七層の崖で宝箱が発見されただと」

 俺が探索していた崖だ。先を越されたらしい。


 資料のチェックが終わり、屋敷に戻った。シャドウパペットたちを影から出して、リビングのソファーに座る。リラックスしながら、この先の事を考えた。


「A級冒険者になるためには、何をすべきか?」

 それを聞いたメティスが、

『まず実力を示すために、五大ドラゴンを倒しましょう』


 A級冒険者になるためには、実力を示し実績を上げなければならない。実力を示す相手として、五大ドラゴンが考えられる。


「そうだな。五大ドラゴンの中で倒しやすいのは、アースドラゴンか」

『ええ、アースドラゴンは空を飛びませんから』

「だけど、非常識なほど頑丈だと聞いた。『デスショット』や『ソードフォース』を弾き返し、『スーパーノヴァ』にも耐えきったらしい」


 生活魔法の中で通用しそうなのは、『ブローアップグレイブ』と『ダイレクトボム』だろう。実際に戦ってみないとどうなるか分からないところが怖い。

 問題はどこのアースドラゴンを倒すかである。


 鳴神ダンジョンではアースドラゴンは発見されていないが、他のダンジョンでは発見されている。しかも、中ボスとして存在するものも居る。


 その一匹が明星あかほしダンジョンの三十層で中ボスをしているアースドラゴンである。

 明星ダンジョンの中ボスであるアースドラゴンが倒されないで生き残っているのには理由がある。そこの三十層にある中ボス部屋は、一人しか入れないという制約が有るのだ。


 アースドラゴンを一人で倒さねばならず、冒険者からは嫌がられている。やはり一人でアースドラゴンを倒すというのは、難しいのである。


『グリム先生は、元々ソロですから、問題ないでしょう』

 好きでソロになっている訳ではない。秘密が多すぎてチームを組めないのだ。それに『ウィング』などを使って空中移動する俺に付いてこれる冒険者が居ないという事もある。


 俺は明星ダンジョンのアースドラゴンを倒す事に決めた。

「三十層か。何度か野営するとなると、新しい装備が必要か?」


『今までの装備で大丈夫なのではありませんか?』

「明星ダンジョンの三十層では、中ボス部屋の外で野営する事になる。中級ダンジョンとは言え、三十層だから手強い魔物が巣食っているんじゃないかと思うんだ」


『なるほど、中ボス戦前に十分な休息を取るため、必要な装備を揃えるという事ですね』

「まず、明星ダンジョンを調べてから決めよう」


 翌日、俺は明星ダンジョンの近くにある冒険者ギルドへ行った。そこの資料室で調べようと考えたのだ。


 資料室には先客が居た。三十前後の冒険者らしい男女のペアだ。

「生活魔法は上達したの?」

「やっと魔法レベル5になって、『ブレード』や『ジャベリン』を使えるようになった」


「カリナが言っていた早撃ちの練習はしているの?」

「ああ、慣れてくると発動が速くなるのが分かった。生活魔法は面白い」


 カリナという名前を聞いて、俺はカリナ先生の事を連想した。カリナ先生の知り合いなのだろうか?


 そんな事を考えていると、先客二人は資料室から出て行った。

「声を掛ければ良かったかな。まあいい、それより調査だ」

 俺は明星ダンジョンを調べ始めた。二十層までは、それほど変わった魔物も居ないようだ。だが、二十層から下は、爬虫類に属する魔物が多くなっている。


「おっ、ダークリザードマンというのが居る」

『ダークリザードマンは、シャドウ種です』

 それを聞いて驚いた。人型のシャドウ種は居ないのかと思っていたのだ。それに資料にはダークリザードマンがシャドウ種とは書かれていない。


「人型のシャドウパペットを作成できるかもしれない」

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