第245話 魔導武器

 地上に戻った俺は屋敷に向かった。鍵を開けて門の中に入ると、警備用シャドウパペットたちが駆け寄ってくる。俺だと分かると、俺の身体に顔を擦り付けるような挨拶を行う。為五郎の挨拶が他のシャドウパペットたちに広まったようだ。


 挨拶を終えたボクデンたちは見回りに戻った。屋敷の中に入り照明を点ける。為五郎とタア坊、ゲロンタを外に出す。


 コムギが影から出てくる。

『白輝鋼には、どんな特性を付与するのですか?』

「取り敢えず、<貫穿>と<斬剛>を考えている」

『武器にするのですから、当然ですね』


「特性付きの白輝鋼で作る武器は、どれほどの価値が有るんだろう?」

『切れ味や貫通力を強化した魔導武器と同じです。武将級のものになるでしょう』


 魔導武器の等級は、武将級・覇王級・伝説級・神話級となる。武将級は最低ランクの魔導武器になるが、それでも高額で取引される。


『鉄心さんへ武器を贈るなら、本人から希望を聞いた方が、良いのではないですか?』

「突然贈って、驚かしてやろうと思っていたんだけど」


『実際にダンジョンで使うものですから、確かめた方がいいと思います』

 俺は鉄心がメイン武器として使うものを作ろうと思っていた訳ではない。予備の武器として使うものを作ろうとしていたのだ。


「サプライズは諦めるか」

 魔装魔法使いは武器に拘らない傾向が有る。ダンジョン産の強力な武器を手に入れた場合、使い慣れていないからと言って手放す魔装魔法使いは少ない。


 努力して使い熟せるようにするのが、一流の魔装魔法使いなのだ。

 翌日、冒険者ギルドへ行った俺は、待合室で近藤支部長と話をしている鉄心を見付けた。

「何か用なのか? また泥棒役というのは嫌だぞ」


「違いますよ。この前の御礼に武器を作ってプレゼントしようと思ったんです」

「礼なんていいと言ったのに」


 近藤支部長が俺に視線を向けた。

「そうか、鳴神ダンジョンの七層に白輝鋼を取りに行ったのは、鉄心君のためだったのか」

 鉄心が驚いたような顔をする。


「おれのために、態々白輝鋼を取りに行ってくれたのか?」

「まあ、七層の台地を探索するついでです。それより、どんな武器がいいか希望を言ってください」


 支部長が鉄心に顔を向ける。

「遠慮なんて、鉄心君らしくないぞ。グリム君はB級冒険者なんだ。君よりよっぽど稼いでいる」


 鉄心が肩を竦める。

「それじゃあ、魔導武器の剣をメインに使っているから、槍にしよう」

 鉄心は戦う相手によって、使い分けようと考えたようだ。

「分かりました。それで菊池槍でいいですか、それとも別の槍にします?」


「菊池槍にしよう」

 支部長が笑った。菊池槍は槍の中で一番安価な槍だったからだ。

「遠慮せずに、大身槍とかでもいいんじゃないか?」

「大身槍なんて、使った事がない」


 結局、菊池槍に決まった。こんな事なら、サプライズができたのに。

 俺は有料練習場へ向かった。そこで白輝鋼に特性を付与するつもりなのだ。そのために特殊耐火坩堝るつぼを購入していた。鋼鉄なら五キロほどが入る大きさだ。


 その坩堝を取り出して地面に置く。その中に白輝鋼の粒を三キロほど入れる。

『工場の電気炉は借りないのですか?』

「さすがに何回も工場の仕事を止めて電気炉を借りるのは悪い。生活魔法で何とかする事にした」


 俺は賢者システムを立ち上げ、シャドウクレイにD粒子を練り込む魔法『クレイニード』を基に新しい生活魔法を創り始める。


 『クレイニード』に<放熱>の特性を組み込んで、最初に金属を溶融する機能を追加した。何度か調整しながら試してみて、『メタルニード』を完成させた。


 『メタルニード』の完成と同時に、D粒子を練り込んだ白輝鋼が出来上がった。俺は賢者システムを使って<貫穿>と<斬剛>を纏めてどろどろに溶けた白輝鋼に含まれるD粒子に付与する。


 冷えて固まる前に型を用意して、その型に溶融した白輝鋼を坩堝から流し込む。その型には二百グラムほどが入り、全部の白輝鋼をインゴットにするには十五個の型が必要だった。


 型に入れた白輝鋼が冷え固まった後、鑑定モノクルで調べる。『貫穿・斬剛の特性付き白輝鋼』と表示された。

「成功したようだ。後は鍛冶屋の仕事だな」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 完成した白輝鋼の菊池槍が鉄心に贈られた。その菊池槍を冒険者ギルドの訓練場で試してみた鉄心は驚いた。予備の武器として受け取ったのに、魔導武器だったからだ。


 鉄心が菊池槍を見詰めていると、近藤支部長が気付いて近寄る。

「どうしたんだ?」

「この菊池槍が変なんです」


 支部長は槍の刀身である穂の部分が白い金属で作られている槍に目を向けた。

「ああ、グリム君がプレゼントすると言っていた菊池槍だな。立派なものじゃないか」


 鉄心が苦笑いする。

「立派すぎるんです。こいつは魔導武器ですよ」

 支部長が少し驚いた顔をする。

「ほう、グリム君は奮発したようだな。ちょっと私にも試させてくれ」


 支部長は菊池槍を受け取り、空中に向かって突きや払いなどをしてみる。

「中々バランスのいい槍じゃないか。使いやすい」


 訓練場に立っている丸太に向かって突きを放った。菊池槍の穂先が丸太に届き、それがスッと内部に潜り込み反対側から穂先が突き出た。


「はあっ、この丸太は腐っているのか?」

 あまりにも手応えが軽かったので、丸太が腐っていると思ったようだ。

「支部長、普通の丸太です。その菊池槍の貫通力が凄いんです」


 支部長は『アイテム・アナライズ』が使える加藤を呼んだ。そして、菊池槍を鑑定させる。

「この槍は、『白輝鋼製菊池槍:切れ味強化・貫通力強化』です。凄い武器を手に入れたんですね。おめでとうございます」


 加藤が鉄心にお祝いの言葉を言うと、鉄心と支部長の顔が強張る。鉄心が支部長に顔を向けた。

「グリムは予備の武器にしてくださいとか言って、おれにくれたんですよ。おかしくないですか?」


 鉄心が『おかしい』と言ったのも無理はなかった。武将級の魔導武器ならば、切れ味強化か貫通力強化のどちらか一方が強化されているだけのものが普通なのだ。


「グリムは生活魔法使いだから、魔導武器を製造する能力はないはず。そうなると、A級の付与魔法使いに製造を頼んだとしか思えん」


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