第244話 七層の台地

 その日は客室に鉄心を泊める事にした。

「こんな大きな屋敷に一人というのは、寂しいな。住み込みで働いてくれる人を雇えばいい」

「もしかして、執事とかメイドとかですか?」


「執事は無理だろう。あれは桁違いの金持ちが雇うもんだ。執事を雇っているA級冒険者を知っているけど、月収として数百万円を払っていると聞いたぞ」


 年収ではなく月収が数百万となると、ちょっとした金持ちでは執事を雇えない。鉄心は住み込みで働く、管理人みたいな者を雇う事を勧めた。屋敷の管理をするだけの者だ。


「近藤支部長は、顔が広いから頼んでみたらいい」

「そうですね。一度相談してみます。ところで、鉄心さんは冒険者になってから、ずっと剣で戦ってきたんですか?」


「いや、槍を使っていた事も有るし、戦斧で戦っていた時もある。一番長く使ったのは菊池槍だな。冒険者を始めた頃に、安かったので使っていた」


 菊池槍というのは、長い柄に短刀のような片刃の刀身を付けた槍である。鉄心に贈り物をするとしたら、菊池槍が良いかもしれない。


 鉄心と一緒に夜遅くまで話して寝た。翌日鉄心が帰った後に、どんな金属で鉄心への贈り物を作るか考えた。


 現在持っている金属で作るとなると、黒鉄か蒼銀になる。C級になろうとする冒険者に、黒鉄はないだろう。そうすると蒼銀? でも、魔導武器を使う魔物も居るからな。朱鋼にするか。


「メティス、朱鋼が採掘できるダンジョンを知っているか?」

『水月ダンジョンの三十五層です』

「時間が掛かりそうだな。もっと短時間で採掘できる場所はないのか?」


『それだと上級ダンジョンになります。私では調べられません』

 メティスは上級ダンジョンについては調べられないのだった。冒険者ギルドへ行って調べてみよう。


 冒険者ギルドへ行って、一番物知りの近藤支部長に尋ねてみた。

「低い階層で朱鋼が採掘できるダンジョンとなると、九州の開聞ダンジョンか、北海道の羊蹄ダンジョンになる」


「遠いですね。もっと近い場所にはないんですか?」

「そんな都合のいい話はない。朱鋼というと、武器でも作るのか?」

「そうなんです」

「だったら、白輝鋼びゃっきこうじゃダメか?」


 白輝鋼は朱鋼より少しだけ強度が落ちるが、蒼銀より頑丈な金属である。

「その白輝鋼が近くのダンジョンで採掘できるのですか?」


「鳴神ダンジョンの最新情報を見ていないのか? 七層の右奥にある台地で、白輝鋼の鉱脈が発見された。但し、あそこにはスノーベアとフォグジャイアントが居るそうだ」


 フォグジャイアントというのは初耳だ。『霧の巨人』という意味だが、身長八メートルもある化け物らしい。この巨人の巣穴に白輝鋼の鉱脈が有るという。


「フォグジャイアントは倒されていないんですか?」

「いや、後藤君たちが倒した。だが、別のフォグジャイアントが巣穴にしたようだ」

 霧の巨人は一匹ではないらしい。


 俺は礼を言って資料室へ向かった。七層の資料を探して調べると、白輝鋼の鉱脈とフォグジャイアントについて書かれたものが出てきた。


「後藤さんは『ソードフォース』でフォグジャイアントの首を刎ね飛ばしたのか。さすがと言うしかないな」

『朱鋼ではなく、白輝鋼で鉄心さんへの贈り物を作る事にしたのですか?』


「そうだ。白輝鋼は朱鋼より軽いので、刀身を厚くする事ができる。その方が頑丈になると思う」

 俺は白輝鋼を採掘するために鳴神ダンジョンの七層へ行く事にした。


 翌日、鳴神ダンジョンに入って転送ルームから五層へ移動した。五層から六層へ下りて、アンデッドを倒しながら奥へと向かう。


 為五郎の支援と光剣クラウの力で六層は問題なく進み、大量の黄魔石を手に入れた。七層へ下りると、冷たい空気を感じて防寒着を着る。


 今日は風もなく雪も降っていない。俺は戦闘ウィングを出して、台地に飛んだ。二十メートルほど土地が隆起している地形が見えてきた。


 概ね楕円形をしており、長さが三キロほどある。台地の上にも針葉樹の森があり、雪で白く化粧していた。


 俺は上空から台地をチェックしてフォグジャイアントの巣穴を探したが見付からなかった。上からだと見えないのかもしれない。


 この辺だと思われる場所に着地して、歩いて探す事にする。

『フォグジャイアントの巣穴には、白輝鋼の鉱脈しかなかったのでしょうか?』

 メティスが質問してきた。


「宝箱があったと書かれていたけど、何が入っていたかは記述がなかった。転送ゲートキーのように、後続の冒険者たちの探索に影響するようなものじゃなかったんだろう」


 新しいダンジョンが生まれて五年間は報告する義務が有るが、宝箱に何が入っていたかなどは報告の対象外である。ただ自分たちの成功を誇りたい冒険者は報告する。


 吐いた息が白くなるのを見て、熱々の鍋が食べたくなった。

『左前方にある丘みたいなものが、巣穴だと思われます』

「入り口なんて見えないぞ」

『雪で隠れているのです』


 メティスには魔力を感じ取れる能力がある。その能力で魔物の魔力を感じ取ったようだ。俺は多重起動なしの『バーストショットガン』を雪で覆われた丘に放った。多重起動なしなのは、爆発で穴が崩れるのを防ぐためだ。


 丘全体を覆うように『小型爆轟パイル』が命中し爆発する。その影響で雪が吹き飛び、穴が姿を現した。やはりフォグジャイアントが中に居たらしく、吠えながら巣穴から飛び出してきた。


 俺を睨んだフォグジャイアントが巨大な棍棒を振り上げる。その瞬間、セブンスバーニングショットを巨人の胸を狙って発動。D粒子放熱パイルが高速で飛翔し命中した。


 その衝撃は凄まじく、巨人の胸が陥没。そして、追加効果である超高温の熱が放出される。命中箇所から煙が上がり、巨人の絶叫が響き渡り耳が痛くなった。


 だが、その一撃ではフォグジャイアントを仕留める事はできなかった。また吠えた巨人が棍棒を振り回す。それを避けるためにクイントカタパルトを発動。身体を後方へ投げ飛ばす。


 空中を移動しながら『エアバッグ』を発動して着地。それを追ってフォグジャイアントが足を踏み出した。近付かれるのを嫌った俺は、セブンスオーガプッシュを発動して巨人にぶつける。


 高速回転するオーガプレートが巨人の胸を抉りながら押す。巨人は大きな手でオーガプレートを殴りつけ、その衝撃でオーガプレートが崩壊。


「うわっ、酷い力技で止めやがった」

 俺は五重起動の『ブローアップグレイブ』を発動。巨大なD粒子の武器が形成され、真上から振り下ろされる。大きな剣鉈のようなD粒子の刃が、巨人の頭蓋骨を切り裂き胸で止まった。


 その後に爆発が起きた。爆発で巨人が粉々になり消える。赤魔石<中>が残り、それを拾い上げて仕舞う。俺は巣穴に入った。


 巣穴の中には、空の宝箱があった。影からコムギが出て来て周りを見回す。

『鉱脈は、あそこですね』

 コムギがトコトコと歩き出し、壁の一部がへこんでいる場所で止まった。その場所の地層を見ると白い金属らしいものが混じった層がある。


 俺は三時間ほど採掘して、大量の鉱石を手に入れた。その鉱石を収納アームレットに入れ、五層の中ボス部屋まで戻った。


 中ボス部屋で『ピュア』を使って鉱石から白輝鋼を取り出す。長時間の抽出作業で十六キロの白輝鋼を手に入れる事ができた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る