第233話 大学合格祝い

 アリサたちは修業を続け、魔法レベル10を達成した。その後は生活魔法のレベル上げと魔法修業を始める。由香里は魔法レベルを限界の『10』まで上げる事を目指し、アリサは魔法レベル13を目指す。


 アリサと由香里が修業をしている間も、天音と千佳は受験勉強を続けていた。

「ああ、由香里が羨ましい」

 過去問題集を解いていた天音が愚痴り始めた。


「もう少しだから頑張って」

 由香里が励ます。天音は頷いたが、顔色は冴えないようだ。

「そう言えば、大学に合格したら、グリム先生が合格祝いのプレゼントをすると言ってたよ」


「ほ、本当に、何をプレゼントするって?」

「まだ決めていないみたい」

「何だろうなあー、楽しみだけど、その前に合格しないと……」


 天音と千佳は一生懸命に受験勉強を続け、なんとか志望大学に合格した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 天音と千佳の合格が分かった数日後、合格祝いの食事会が開かれた。出席者は俺とタイチ、亜美と合格した四人である。アリサと由香里は早い時期に合格していたのだが、合格祝いの食事会は四人全員が合格してから、という事になっていたのだ。


「合格おめでとう」

 俺の言葉で食事会が始まった。場所は寿司屋の個室である。個室がある寿司屋と言っても、それほど高級な場所ではない。コース料理もあったので『おまかせコース』というのを選んだ。


 但し、俺以外は未成年なので、酒は無しである。前菜と刺し身を食べながら、千佳と天音がどれだけ勉強したかを話し始めた。


「そう言えば、合格祝いのプレゼントをすると聞きましたけど、何ですか?」

 天音が無邪気に確認した。それを楽しみに勉強していたようだ。やっと合格したので、我慢できなくなったらしい。


 俺はタイチと亜美に目で合図した。

「合格祝いのプレゼントは、タイチと亜美に相談して決めたんだ」

 タイチと亜美は相談に乗って、少しだけお金を出しただけだと言う。


 俺は収納アームレットから色違いの四つのポシェットを取り出した。ポシェットというのは、細長い肩紐がついた小さなバッグの事である。


 四人が目をパチクリさせた。ポシェットというプレゼントは意外だったようだ。

「ありがとうございます。嬉しいです。……ん、これはお財布ポシェットですね。でも、革が何か違う」

 アリサが分析するように言った。


 天音や由香里、千佳も感謝の言葉を言い、どの色が良いかと話し始める。

「その革は、ワイバーンの革なんです。グリム先生がワイバーンを倒して、今度は皮がドロップしたんです」

 亜美が自慢そうに言った。ワイバーン革でポシェットを作ろうと提案したのは、亜美なのだ。


 ワイバーン革は非常に丈夫で高級感が有る。バッグに使う革としては最高級品だと言われている。アリサたちが驚いた顔をする。


「驚くのは早いぞ。ポシェットはオマケなんだ。本当のプレゼントはポシェットの中に入っている」

 黒のポシェットを選んだ千佳が、フラップを上げて中に何が有るか確かめる。そこにベルトポーチのようなものが入っていた。


「ベルトポーチが、ゴム製のベルトのようなもので固定されています」

 千佳が声を上げると、アリサたちもポシェットの中を開けて確かめた。

「グリム先生、もしかしてマジックポーチですか?」


 最初にアリサが言い当てた。

「正解。ゴブリンの町で西洋剣術の修業をしていたら、何個もマジックポーチを手に入れたんだ」


 ゴブリンを見るのも嫌になるほど、西洋剣術の修業をした副産物だった。

「ありがとうございます」

 四人がもう一度礼を言った。


 亜美が羨ましそうに見ていた。

「いいなあ。小さいと言っても、五十リットルの容量が有るんですよね」

 それだけの容量が有れば、日常で使う場合は重宝する。買い物に行く時や、ダンジョンへ行く時に鎧や武器を入れて行くのにも使えそうだった。


「でも、こんな高いものを頂いていいんですか?」

 アリサが尋ねた。俺は笑いながら頷く。

「いいんだよ。どうせマジックポーチを換金しても、その六割くらいは税金で持っていかれるんだから」


 政府を喜ばすよりも、弟子たちを喜ばして感謝された方が数倍良いと本気で考えているのだ。それにアリサたちには早くC級冒険者になって、鳴神ダンジョンの探索を手伝って欲しいと考えていた。


 ちなみに、何か節税方法を検討しなければ、と真剣に思うようになっていた。所得税に最高税率が課せられると四十五パーセントくらいが税金となる。それに加えて地方税が有るので、合計六割くらいが徴税されてしまうのだ。


「グリム先生、鳴神ダンジョンの探索はどうなんですか?」

 タイチが質問した。

「七層で手子摺っている。今は崖に開いている穴の調査をしているんだけど、やっと七割が終わったところなんだ」


「そう言えば、七層は広大だと聞いています。手強い魔物も居るんですか?」

「俺が探索している崖は、巨大なダンゴムシのような魔物だけなんだが、左奥にある台地には体長三メートルのスノーベアが居るそうだ」


 スノーベアは動きが素早くタフで、爪に魔法効果が付与されている。この爪は氷爪と呼ばれ、引っ掻かれると冷却の効果が発揮して傷口が凍るらしい。


 そんな話をしながら楽しい食事会を過ごした。美味しい寿司と弟子たちの笑顔が見れたので満足して帰宅する。


 その翌日、冒険者ギルドへ行って鉄心から面白い話を聞いた。

「鳴神ダンジョンの七層で、アイスドレイクが眠っているのが発見されたらしい」

「場所はどこですか?」


「中央にある山だと聞いたぞ」

 A級冒険者になる第一段階として、五大ドラゴンを倒すつもりだった。その練習台としてアイスドレイクは良いかもしれない。だが、アイスドレイクが宿無しだった場合、俺が倒すのはダメなような気がした。


 鳴神ダンジョンにおいて、宿無しは転送ゲートキーを冒険者に与えてくれる存在である。俺はすでに所有しているので、俺が倒すと転送ゲートを使いたいと思っている冒険者のチャンスを潰してしまう。


「そのアイスドレイクは、宿無しだと思う?」

 俺は鉄心の意見を聞いた。鉄心が迷っているような表情を浮かべる。

「どうかな。宿無しは動き回っている魔物だ。山の中で眠っているというのは、宿無しらしくない」


 鉄心は宿無しではないと考えたようだ。それでも宿無しだという可能性がある限り、狙うのはやめた方が良いようだ。


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