第232話 怪我人救助

 大学に合格したアリサと由香里は、分析魔法と生命魔法の魔法レベルを上げるために水月ダンジョンへ修業に来ていた。


「七層の墓地エリアじゃなくて、十一層の廃墟エリアへ行くのはなぜ?」

「やっぱり十一層の方が手強いアンデッドが居るからよ。弱い相手だと中々魔法レベルが上がらないから」

 由香里が頷いた。


「『エクソシズム』は覚えたばかりで、あまり自信がないんだけど、大丈夫かな?」

「ダメな時は、聖属性付きの武器か、生活魔法で倒せばいいだけだから」


 二人は『ウィング』の魔法も使って、急いで十一層まで行った。その十一層の入り口で別のチームと会った。


「女性二人だけのチームというのは珍しいな。あんたたち、この先はアンデッドのエリアだぞ。大丈夫なのか?」

 若い男四人チームのリーダーが話し掛けてきた。


「問題ありません。あなたたちはD級のチームなんですか?」

 リーダーが顔をしかめる。

「いや、おれらはE級の『レッドウォーリア』だ」


「私たちはD級の冒険者です」

 『レッドウォーリア』のリーダーが肩を竦めると、廃墟の街へ行ってしまった。


「心配して声を掛けたんでしょうけど、余計なお世話だと分かったみたいね」

 由香里が笑いながら言う。

「さて、アンデッドが現れたら、由香里の『エクソシズム』を試そう」


 アリサたちはゆっくりと廃墟の街を進み始めた。最初に遭遇したのは、スケルトンソルジャーだった。その魔物に向かって、アリサが『モンスター・アナライズ』を発動。


 スケルトンソルジャーの情報がアリサの頭に浮かんできた。アリサが目で合図すると、由香里が『エクソシズム』を発動する。


 突き出した由香里の手から黄金色の光のシャワーが噴き出し、スケルトンソルジャーの頭を消し飛ばした。

「ふうっ、成功した」


 由香里は本当に自信がなかったようだ。

「一発で成功させたじゃない。さすが由香里ね。この調子でどんどん行きましょう」

 アリサは自分の事のように喜んだ。


 それを聞いた由香里が心配そうな顔をする。

「でも、こんな風に生命魔法を使っていたら、すぐに魔力切れになるんじゃない?」

「大丈夫、理由を話して、グリム先生の不変ボトルを借りてきたから」


「そっか、その手があったのか。アリサ、冴えてるね」

 由香里は感心して笑顔を見せる。


 二人は分析魔法で魔物を分析してから、生命魔法で仕留めるという事を繰り返した。

「やったー! 魔法レベルが一つ上がった」

 由香里の生命魔法の魔法レベルが上がり『6』になった。


 喜ぶ二人は、奥へと進む。そして、スケルトンナイトの集団に遭遇した。二人は仕方なく生活魔法を使って全滅させる。


「あっ、魔法レベルが上がった」

「やったね、アリサ」

 由香里がアリサに抱きついて喜んだ。この調子で修業すれば、すぐに魔法レベル10になるという手応えを感じた二人は、廃墟の奥まで進む事にした。


 その時、助けを求める叫び声を聞いた。二人は叫び声の方へと走り出し、『レッドウォーリア』がファントム三体とスケルトンナイト五体の集団と戦っている現場に到着する。


 四人チームだった『レッドウォーリア』は、二人しか戦っていなかった。その足元には倒れた二人の冒険者の姿がある。


「参戦します」「頑張って!」

 アリサと由香里が叫んで、戦いに飛び込んだ。由香里が『エクソシズム』を使ってファントムを駆逐し、アリサが『ブレード』でスケルトンナイトを殲滅する。


 瞬く間に仕留められた魔物を見て、必死で戦っていた『レッドウォーリア』の二人は、地面に座り込んだ。


 アリサは倒れている二人に駆け寄り、生死を確かめる。スケルトンナイトの槍で刺されたようだが、二人とも急所を外れていた。但し、出血が続いているので、急いで手当をしないと危ない。


 由香里が『ケア』で血止めをした後、『ヒーリング』を使って治療した。その結果、二人とも出血が止まり傷口が塞がる。


 視線を感じて由香里が後ろを振り向いた。そこには心配そうに覗き込んでいる『レッドウォーリア』の二人の顔があった。


「取り敢えず、治療しました。傷口は塞がったので、命に別状はないと思うけど、早く病院に運んだ方がいいと思います」


「あ、ありがとう。感謝する」

 由香里への感謝の言葉を聞いたアリサは、どうやって運ぶかが問題だと考えた。普通は担架を作って運ぶのだが、アリサと由香里の力では長時間運ぶというのは無理だろう。


「ねえ、アリサ。D粒子ウィングに担架をぶら下げて運べないかな」

 そのアイデアを聞いたアリサは、良い考えだと思った。棒とテント用の帆布を使って担架を作り、その担架にD粒子ウィングへ固定するロープを取り付けた。


 怪我を負った二人を担架に載せた後、アリサと由香里はD粒子ウィングを出し鞍を装着した。それに担架をロープで固定する。D粒子ウィングを少し浮かせてみると、担架も浮き上がった。大丈夫なようだ。


 アリサと由香里はD粒子ウィングに乗って、飛び上がった。

「あなたたちは、二人だけで地上に戻ってください」

 そう言ったアリサたちは、怪我人を運びながら急いで戻り始める。


 地上に戻ったアリサたちは、救急車を呼んだ。救急車が来て怪我人を運んで行くとアリサたちはホッとした。


「疲れたね」

「そうね、でも、助けられて良かった」

 アリサたちが話していると、冒険者ギルドから近藤支部長が来た。


「支部長、怪我人は救急車が運んで行きましたよ」

「そうか、怪我をした状況を教えてくれ」

 アリサたちは十一層での出来事を話した。支部長は時々頷きながら聞いている。二人をD粒子ウィングで運んだ事を話すと、即席で作った担架に興味を持ったようだ。


「その担架を見せてくれ」

 アリサたちはダンジョンの入り口前に放り出したままの担架を見せた。支部長は担架とD粒子ウィングの使い方が気に入ったようだ。


「これは本部に報告する価値が有る」

 ダンジョンで負傷した冒険者を助け出す場合、担架で運び出すのが普通だ。だが、そのためには一人の怪我人に四人の担ぎ手が必要だった。


 それでも地上まで戻るにはかなりの時間が掛かり、亡くなる者も居た。その常識をアリサたちが覆したのである。


「しかし、よく魔力が尽きなかったな」

 支部長が魔力の事を指摘すると、アリサが不変ボトルを見せた。

「グリム先生から、これを借りたんです」

「不変ボトル、万能回復薬か。グリム君は弟子の育成に熱心だな。若いのに感心する」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る