第222話 レイスとの戦い

 俺は六層を探索するために鳴神ダンジョンへ潜った。一層に入って転送ゲートが有る巨木密集ポイントへ向かう。入り口から巨木密集ポイントまで行くと、転送ルームへ入る扉を探して、その前に立つ。


 その扉には転送ゲートキーのタトゥーと同じ模様が描かれている。俺は左手の甲にあるタトゥーを扉の模様に押し当てた。扉が開いたので中に入る。


 転送ルームで唯一稼働している五層への転送ゲートへ足を踏み入れた。次の瞬間、俺は五層の転送ルームに立っていた。


「ここまで一日掛かる時も有るのに、超便利だな」

 転送ルームから外に出た俺は、六層への階段へ向かう。階段を下りて六層の景色を見詰めた。陰々滅々……アンデッドの街だ。


 壊れたアラビア風建築物を眺めながら、慎重に街の奥へと進む。最初に遭遇したのは、スケルトンナイトだった。クイントブレードを打ち込むと、呆気なくスケルトンナイトの頭蓋骨が砕けた。


『光剣クラウは使わないのですか?』

「スケルトンナイトなら、クイントブレードで十分だ。それに魔力の消耗を抑えられる」


 万能回復薬が有るので、魔力消費を気にする必要はないのだが、魔力を浪費するような癖を身に付けたくはない。


 スケルトンナイトとボーンゴーレムに遭遇して生活魔法で倒した後、一体のレイスと遭遇した。俺は黒意杖を取り出して丸盾に変化させる。そして、聖属性付きの聖銀製短剣を取り出した。


 光剣クラウの威力を判断するために、最初は聖属性付きの聖銀製短剣で仕留めようと思ったのだ。


 そのレイスは十一世紀から十二世紀に存在した十字軍の兵士のようだった。ショートソードを持つ兵士の姿をしたレイスが、俺に襲い掛かってくる。


 ショートソードの攻撃を丸盾で受けようと突き出す。レイスのショートソードなら、盾をすり抜けて人間にダメージを与えるものなのだが、その丸盾は聖属性付きだった。


 レイスのショートソードをしっかりと受け止める。その瞬間、聖属性付きの聖銀製短剣をレイスの顔に突き刺す。短剣の切っ先が顔に突き刺さり、レイスが苦しそうに藻掻いてから消えた。


「レイスは『あううっ』と言わないんだな」

 ファントムは消える時に『あううっ』と言っていたのだが、レイスは違うようだ。


『聖属性付きの武器と言っても、短剣だと瞬殺という訳にはいかないようですね』

「ファントムだと一撃で、確実に死んだけど、レイスはタフだという事だ」


 瓦礫が散らばっている道を五分ほど進んだ時、今度は二体のレイスと遭遇した。俺は迷わず光剣クラウを抜いた。『浮身』を使って剣の重さを消した俺は、二体のレイスを薙ぎ払う。


 一体のレイスは、持っているショートソードで光剣クラウを受け止めようとした。だが、光剣クラウの刃は、レイスのショートソードを切り裂き首に吸い込まれるように食い込む。


 レイスが小さな光の粒に分解され爆散したかのように掻き消える。もう一体のレイスも胴に光剣クラウが命中すると瞬時に消えた。


「予想していた事だけど、威力が全く違う」

『さすが伝説の剣ですね』

 メティスも光剣クラウの威力に感心したようだ。


 その後、スケルトンやグールを倒しながら進み、エリアの半分ほどまで来た時、レイスの集団と遭遇した。十数体のレイスが隊列を組んで街を見回っていたのだ。


「死んでまで仕事をしなくてもいいのに」

『誰か命じている者が居るのでしょうか?』

「レイスの司令官みたいな魔物が居ると言うのか?」


 これほどの規模の街だと、本当に居そうな気がする。とは言え、そんな魔物を探して倒そうとは思わない。俺はレイスの集団を倒して七層へ行きたいだけなのだ。


 こういう集団に対処するために、二つだけ準備した事がある。装備している黒鱗鎧を骸骨ダンジョンの精霊の泉に沈めて、聖属性を付与する事と専用のヘルメットを用意する事だ。


 もちろん、そのヘルメットにも聖属性を付与する。俺はヘルメットは嫌いだ。ヘルメットを被るとD粒子の動きを捉え難くなる気がするからだ。だが、レイスはD粒子感知能力では感知できない。


 ヘルメットを被った俺は、光剣クラウを引き抜き、左手で丸盾を持つ。『浮身』で剣の重さを消すと戦闘モードに入った。


 押し寄せるレイスに光剣クラウを打ち込む。立ち止まると取り囲まれるので、絶えず動きながら一体ずつレイスを始末する。


 街を駆け回り、途中で遭遇したスケルトンも光剣クラウで斬り付ける。光の剣を受けたスケルトンが爆散するように消える。アンデッドが相手なら凄まじい威力を発揮する剣のようだ。


 煙突の一部だったらしい瓦礫の上に跳び上がり、追って来たレイスに光剣クラウを叩き込む。レイスが瞬時に消えて、次のレイスが迫る。


 次々にレイスを倒した俺は、ついに最後のレイスに向かって光剣クラウを振り抜く。レイスが小さな光の粒となって爆散するのを確認した俺はホッとした。

「ふうっ、やっと終わった」

 不変ボトルを取り出して、万能回復薬で魔力と体力を回復する。


 レイスのショートソードが俺の身体に触れようとした事があったが、それは黒鱗鎧やヘルメットが防いでくれた。やはり聖属性を付与したもので防備を固めた事は正解だった。


『やはりソロだと辛いですね』

「そうだな。背後の守りが欲しい」

『為五郎の武器を作るべきでしょうか?』


「聖属性付きの武器か……爪か牙だが、使いやすさを考えると爪だな」

 俺は為五郎用の武器を作る事にした。背後からのレイスの攻撃が危険だと思ったのだ。


 『マジックストーン』で魔石を回収してから、七層へ下りる階段に向かう。街の奥には教会のような建物があるのだが、その横にある通りを進んだところに階段がある。


 その教会を通り過ぎた時、悲鳴が聞こえた。教会の方を見ると、ベルタワーがある屋上テラスに冒険者数人と悪魔のような魔物が見える。


 その魔物は山羊の頭を持つ人型の魔物だった。異教の神バフォメットという悪魔が伝承として残っているが、そのバフォメットに似ている。


 但し、教会の屋上テラスに居る魔物には翼がなかった。その山羊頭が屋上テラスから通りの反対側へ飛び下りた。冒険者たちもそれを追う。


 俺も気になったので、通りの反対側へ向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る