第221話 ゴブリンの町

 俺は鳴神ダンジョンの二層で西洋剣術の修業を行う事にした。修業相手はゴブリンだ。黒鱗鎧のスイッチを入れ『オートシールド』を発動した後、光剣クラウを手に持ちゴブリンの町に入る。


 最初に遭遇したのは、棍棒を持つゴブリンだった。光剣クラウに魔力を注ぎ始めると、剣から重さが消える。棍棒を振り上げて殴ろうとするゴブリンに、片手で持った光剣クラウを振り下ろす。


 その一撃でゴブリンが消えた。仲間が倒されたのを見たゴブリンたちが、集団で襲い掛かってきた。ハイゴブリンの姿も見えたので、俺は黒意杖を出して盾の形にする。


 棍棒を持って駆け寄ってくるゴブリンを斬り捨てながら、注意を全方位に向ける。もちろん目でチェックしている訳じゃない。D粒子感知能力を使って動くものを感じ取ろうとしているのだ。


 俺のD粒子感知能力は、かなりレベルアップしていた。目の代わりになるほどではないが、魔物の位置が分かり大きな動きなら感じ取れるようになっている。但し、その範囲は半径十メートルほどだ。


 一匹ずつなら問題ないゴブリンでも、集団で攻撃されると対応が難しくなる。俺はゴブリンの攻撃を丸盾で防ぎながら、重さのない光剣クラウで基本の斬撃を繰り返しゴブリンを切り裂く。


 そんな攻防が繰り返される中で、ハイゴブリンが魔法を放った。攻撃魔法の『バレット』のような魔法である。但し『バレット』が銃弾なら、ハイゴブリンの放つ魔法はゴルフボール大の鉄球だった。


 威力は大きいのだが、『バレット』ほどの速度がないので貫通力はなかった。

 俺は丸盾を使って受け流した。真正面から受けると手首を怪我するほどの威力が有る。だが、少し斜めに受け流すと簡単に防御できた。


 近くのゴブリンを三十匹ほど倒し終えた時、メティスが話し掛けてきた。

『グリム先生、楽しそうですね』

「まあね、新しい事を学んで、それが実戦で使えるようになるのは、楽しいものさ」


『生活魔法でレイスをどうにかできれば、良かったのですが』

「霊的なものじゃないD粒子の操作が基本となる生活魔法は、霊体型アンデッドには効かないから仕方ない」


 俺だって生活魔法でレイスを倒せるなら、西洋剣術を習ったりしない。

『しかし、このタイミングで光剣クラウを手に入れられたのは、偶然なんでしょうか?』


「偶然だと思うけど……ダンジョン同士の横の繋がりとか、有るのだろうか?」

『ないとは断言できませんが……有っても希薄なものだと思います』


 俺は魔力と体力を回復するために不変ボトルを出して、万能回復薬を飲んだ。

「ふうっ、第二波が来そうだな」

 俺は『オートシールド』を掛け直して戦う準備をした。


 第二波のゴブリンとハイゴブリンを倒し終えた時、光剣クラウを扱うコツみたいなものを掴んだ。ちなみに万能回復薬がなければ、戦い続けられなかった、と思う。


 光剣クラウは乱暴に扱ったのに刃こぼれ一つしていない。ゴブリンの町に残っているのは、町長のゴブリンメイヤーとハイゴブリンたちである。


 こんな状況になった人間なら、逃げると思う。だけど、魔物は逃げない。自分たちが復活するのを知っているからだろうか?


 剣を持っているハイゴブリンが居た。ハイゴブリンは魔法だけでなく、剣を扱える個体も居るのだ。斬り掛かってくるハイゴブリンの剣を光剣クラウで弾き、バランスを崩したハイゴブリンの胸を斬り裂いた。


 最後にはゴブリンメイヤーが残った。この魔物はゴツイ戦鎚を持っている。体格も俺より大きく力が強そうだ。


 ゴブリンメイヤーは、その腕力を活かして戦鎚を振り回して攻撃してきた。ブン、ブンと空気を切り裂く音を立てながら振り回される戦鎚を躱し、その腕に光剣クラウを叩き込んだ。


 戦鎚と一緒に腕が切り飛ばされる。絶叫を上げるゴブリンメイヤーにトドメを刺そうとした時、魔物が魔法を放った。炎の玉が俺目掛けて飛んでくる。


 反射的にクイントオーガプッシュで迎撃。それと同時に光剣クラウへ流し込んでいた魔力が途切れた。魔力を光剣クラウに流し込みながら、生活魔法を発動させるというのは難しいのだ。


 重さが戻った光剣クラウを手放し、クイントコールドショットをゴブリンメイヤーの胸に叩き込む。その一撃でゴブリンの町長が死んだ。


『最後の最後で、ミスが出ましたね』

「敵は倒したんだから、大目に見てくれよ」

 そう言ったが、まだまだ修業は続けなければ、と思った。『浮身』を使う事が歩くという動作と同じくらい自然にできるようになれば、俺の技量は格段に上がるだろう。


 ちなみにゴブリンメイヤーを倒した瞬間、体内でドクンという音が聞こえた。生活魔法の魔法レベルが上がったのだ。ゴブリンメイヤーを倒して上がったというより、アイアンドラゴンを倒した事で上がる寸前まで来ていたのだろう。


 これで魔法レベル17だ。俺の影からコムギが出てきた。コムギはゴブリンメイヤーが死んだ辺りへ行って、何か咥えて戻ってくる。


『ゴブリンメイヤーのドロップ品です』

 コムギが咥えてきたのは、マジックポーチだった。五十リットルほどの容量があるという収納用魔道具である。


「俺には収納アームレットとゴブリンキングのマジックポーチが有るから、小さな容量しかないマジックポーチは要らないんだけど」


『では、私がもらってもいいですか?』

「メティスが使うのか? でも、コムギだと持ち運び難いぞ」

『それは考慮済みです。コムギの体をバージョンアップしようと思うのです』


 シャドウパペットの個性と言えるものは、魔導コアに有る。その魔導コアを壊さずに別のシャドウクレイで作ったものに入れ替えれば、バージョンアップができるという。


 シャドウパペットをペットの代わりだと思っている者は、バージョンアップは難しいかもしれない。一度その肉体を壊すことになるからだ。しかし、俺のように使い魔や道具だと思っている者には可能だった。


「さて、魔石を回収してから帰ろう」

 俺は『マジックストーン』を何度か使って魔石を回収し、不変ボトルの万能回復薬を補給してから地上に戻った。


 それから何度か修業を重ね、光剣クラウを扱う技量が及第点に達したと感じたのは、季節が冬に変わった頃だった。


 俺はこの修業を無駄だったとは思わない。この先、光剣クラウでないと倒せないという魔物に遭遇するかもしれないのだ。その時になってから、西洋剣術の修業を始めても身に付くまで時間が掛かるだろう。


 若い時に身に付けた方が良い技術は、積極的に身に付けるべきだと三橋師範も言っていた。


 俺が鳴神ダンジョンの攻略を再開すると、注目する者たちが居た。七層での攻略に行き詰っている者たちだ。七層は寒冷針葉樹林エリアと呼ばれている。


 気候が九月頃のシベリア針葉樹林地帯に似ており、雪が降る事も有るらしい。この針葉樹林地帯は広大であり、調査に時間が掛かる事が原因だった。


 そこで空から調べられる俺を注目する冒険者が居るのだ。俺としては七層より、まず六層のレイス集団を攻略する事が重要だった。


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