第220話 光剣クラウの伝承

 俺は冒険者ギルドの資料室へ行って、六層について分かっている事を調べた。この廃墟エリアには、ファントム・スケルトンナイト・レイス・ボーンゴーレムなどの魔物が発見されている。


 この中で厄介なのはレイスである。霊体型アンデッドの中で最下級がファントム、その上がレイスになる。ファントムは形のない存在だったが、レイスは人間の姿として見えるらしい。


 レイスは死んだ兵士の魂がアンデッドと化したものだと言われている。兵士と言っても昔の兵士なので、剣や槍を持っているレイスが普通だ。


 但し、肉体がないので普通の剣や槍で倒すのは不可能である。浮遊した状態のまま移動し、剣や槍で攻撃する。その攻撃が人間の身体に命中すると、麻痺を起こすようだ。


 そして、レイスの武器が頭や心臓などに当たると人間は死ぬ。厄介なのはレイスの持つ剣や槍も霊的存在であり、普通の盾などでは防げないという事だ。


 『プロテクシールド』や『マグネティックバリア』で防げないものかと考えたが、魔法での攻撃が通用しないのだからダメなような気がする。


 俺は黒意杖にもう一つの形を与える事にした。それは小さな丸盾の形だ。黒意杖は精霊の泉に沈めた事が有るので、聖属性が付与されている。この丸盾も聖属性付きになるはずだ。


「問題は、レイスが一体ではなく、集団で襲い掛かってくる場合が有るという事だな」

『光剣クラウに、特殊攻撃みたいなものはないのですか?』

「さあ、鑑定モノクルでは、そこまで詳しく調べられなかった」


 光剣クラウは、いくつかの伝承が残っている。以前にも同じ剣が世の中に出現した事があったらしい。世の中には、そんな伝承を調べて発表している人も居る。


 俺は山梨県へ行って、光剣クラウの伝承を調査している人から資料を買った。その資料によると、光剣にはクラウと兄弟剣であるソラスが有るらしい。


 その二つが揃ったのは、歴史上一回だけだそうだ。その時は強力な魔物を倒したらしい。ソラスが世に出たのは一回だけだが、光剣クラウは何度か世に出ており、それが伝承として残っている。


 俺が手に入れた資料には、光剣クラウが持つ能力の一つが書かれていた。『浮身ふしん』と呼ばれる能力で、風に舞う花びらをイメージしながら剣に魔力を注ぎ込むと、光剣クラウが風に舞うほど軽くなるのだという。


 光剣クラウは重い剣なので、基本は両手で扱う。だが、『浮身』を習得した者は片手で扱えるようになるそうだ。


 どうやら練習が必要らしい。探索が遅れるのを嫌った俺は、生活魔法でレイスの集団を何とかできないかと考えた。D粒子一次変異で<聖属性>みたいな特性を創れないかと試したが、ダメだった。


 D粒子一次変異では<聖属性>みたいな特性は創れず、可能性としてはD粒子二次変異のようだ。


「今回、生活魔法で解決する事はできなかったな」

『蒼銀製の細剣に聖属性を付与すれば、使えるのではないですか?』

「細剣でも、重量は一キロ以上になるので、それを扱う技術が必要らしい」


 結局、練習する事になるなら、光剣クラウが扱えるようになるのが良いだろう。俺は西洋剣術を練習する事にした。と言っても、ちゃんとした西洋剣術を習えるような道場が近くにないので、本を買って独学で学ぶ事になる。


『グリム先生、西洋剣術の使い手が居るじゃないですか』

 俺は首を傾げた。メティスは誰の事を言っているんだ?

『カリナ先生です。彼女が使っているのは、朱鋼製細剣ですよ』


 そう言えば、カリナが舞うように朱鋼製細剣を使っているのを見た事があった。メティスに言われるまで忘れていた。

「そうか、カリナ先生に習うか」


 次の日、カリナに交渉すると魔法庁では買えない生活魔法を教えてもらう代わりに、引き受けるという。アリサたちには教えたが、カリナには教えていない生活魔法がいくつかある。それを教えて欲しいらしい。


 いつかは魔法庁に登録しようと思っているものなので承諾した。

「ところで、あの四人はどうですか?」

「結城さんたちの受験の事?」

「そうです」


「グリム先生が教えてくれた脳活性化法が、効果的に働いたみたい。コツを掴んでからは、どんどん実力を付けているようです」


「それは良かった」

 それを聞いたカリナが顔を曇らせた。

「どうかしたんですか?」


「あの脳活性化法のコツを習得できるのは、ある程度魔力操作ができる人に限られるみたいなんです」

 それはしょうがないと思う。基本が魔力操作なのだから。


「他の生徒たちにも教えたんですけど、習得できた者は一部だけなんです。それが分かって、なぜ早くから魔力の操作方法を教えてくれなかったんだと、不平を漏らす者が出ているんです」


「新しい事を始めたんだから、最初から百点満点なんてあり得ませんよ。不平や不満が出るのは仕方ないと我慢するしかないですね」


 カリナが溜息を漏らした。俺は空手の稽古は休みにして、西洋剣術の練習を始める事にした。空手の稽古は、基本を学び終えダンジョンでの戦いに応用する段階に来ていたので、三橋師範も組手をしたくなったら来れば良いと言っていた。


 カリナから西洋剣術の基本を学んだ俺は、それを光剣クラウを使った戦いに応用できるか試した。風に舞う花びらをイメージしながら魔力を流し込むという作業は難しかった。


 魔力を細い糸のようにして少しずつ流し込まないと、すぐに魔力切れになってしまうからだ。魔力の流れを細くして切れ目なく光剣クラウに流し込む。


 すると、剣の重量が消えた。紙で作られた剣を振っているかのように感じられ、逆に威力が有るのか不安になる。


 そこで細い丸太に向かって斬撃を放ってみた。丸太に当たった光剣クラウの刃が、ほとんど抵抗もなく食い込んで両断する。


 真っ二つになった丸太を見て、カリナがビックリしていた。今の斬撃が軽く当てた程度で、ほとんど力を込めていなかったからだ。


「恐ろしい剣ね。こんな剣を持っていたら、アイアンドラゴンも斬撃で倒せたんじゃない?」

「これでアイアンドラゴンの首に斬撃を当てられたら、倒せたかもしれないですね」


 そう思わせるほど、光剣クラウの切れ味は凄かったのだ。『フライングブレード』の魔法で作り出した斬剛ブレードより、切れ味は上かもしれない。


 俺がカリナから西洋剣術を習っている時、六層でレイスの集団に酷い目に遭った冒険者が増えた。ただチームで活動している冒険者ばかりだったので、仲間の助けで無事に撤退できたようだ。


 一部の冒険者たちは手子摺ったようだが、ベテランたちは経験から対処法を知っており、六層の探索を続け七層への道を切り開いた。


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