第215話 フランスのワイズマン

「ワイズマン……何の事ですか?」

 取り敢えず、白を切る事にした。

「我々に対して隠す必要はない。君が魔法庁に登録した魔法を調べたのだ。『オートシールド』以外は、君が創った魔法だという事が分かった」


 完全にバレている。賢者システムで創った魔法には、何か特徴が有るのだろうか? 有るのなら、今のうちに知っておきたい。


「どこが違うというのです?」

 エミリアンが笑った。

「私から情報を引き出そうというのかね? いいだろう、教えてあげよう」


 エミリアンの説明によると、ダンジョンが魔法を創る場合は必要以上に完璧な魔法を創ろうとするようだ。習得できる魔法レベルなどは考慮せず、目一杯の機能を詰め込もうとして過剰で複雑な魔法となるらしい。


 だが、俺が魔法を創る場合、習得できる魔法レベルなどを気にして創る。射程などを短くしたりして妥協する。それが違いとして現れるらしい。但し、それを調べるには魔法に関する深い知識と賢者システムが必要だそうだ。


 これ以上誤魔化す事はできないと分かった。

「どういう目的で、生活魔法を調べようと思ったのです?」

「私は常にワイズマンを探している。同じ人物が魔法を続けて登録した場合は、必ずチェックしているのだ。大抵はダンジョンが創って魔導書にした魔法が多いのだが、今回は当たりだった」


「ワイズマンを探す目的を教えてください」

「警告するためだよ。ワイズマンを狙っている者たちが居るのだ」

 俺は首を傾げた。賢者を狙うとは、どういう事なのだろう?

「そいつらは、ワイズマンをどうしようと?」


「攫われて行方不明になった者も居る。だから、そいつらを撃退できる実力を付けるまで、自分がワイズマンだと公表しない方がいい。それとも政府に保護を依頼するかね?」


 攫われるのも嫌だが、政府に保護されるのも嫌だ。

「そいつらの正体は、分かっているのですか?」

「『ディアスポラ』という名前以外は分からない。だが、A級冒険者になると手を出さなくなるようだ」


 これでA級冒険者にならねばならない理由が増えた。でも、なぜA級冒険者になると手を出さなくなるんだ? それをエミリアンに尋ねた。


「A級になるには、ソロでドラゴンを倒すほどの実績が必要だ。そういう冒険者でも殺す事ならできるだろうが、攫うのは無理だろう」


「反撃しないのですか?」

「したよ。何人も逮捕したが、金で雇われた連中だけだった」

 黒幕が誰かを知らない連中を逮捕してもダメだという事だ。


「他のワイズマンたちは、何もしないのですか?」

「ロッドフォードが亡くなり十人のワイズマンたちの中で、政府に保護されている者が二人。残りの八人はA級冒険者だ。A級になった者は狙われなくなるので興味を失ったようだ」


 政府に保護された二人というのは、まだ魔法レベルが低いうちにワイズマンだと公表して、政府が保護プログラムを発動したという。


 その保護プログラムというのは、自分自身を守れないと判断されたワイズマンを政府の護衛チームが二十四時間体制で警護するというものだ。


 鳥籠に入れられた鳥のように、政府に飼われているのと同じだ。その自分自身を守れるかどうかという判断基準が、A級かどうかだという。


 A級になれば、世界冒険者ランキングに入り、国家でも簡単に手が出せない存在となるとは聞いていた。だが、保護プログラムの事は初めて知った。


 ディアスポラや政府の保護プログラムから解放されるには、A級冒険者にならねばならないという事だ。エミリアンから聞いたのだが、A級冒険者になったワイズマンは自由気ままに暮らしているらしい。


「後輩のワイズマンにアドバイスするために、日本まで来るなんて、エミリアンさんは優しいのですね」

 エミリアンが違うと言う。彼はディアスポラに敵対しているだけで、後輩を助けるという事ではないらしい。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 他のワイズマンと話をするという貴重な経験をした俺は、渋紙市に戻った。

『慈光寺理事は、エミリアンに頼まれて、彼を紹介したのでしょうか?』

 メティスが質問した。

「分からない。だが、エミリアンの話を聞けたのは、良かったよ。慈光寺理事には感謝しなきゃならないな」


 翌日、俺は有料練習場に向かった。魔導弓と魔導鉄甲を使う練習をするためである。魔導弓の練習から始める。


 魔導弓の射程は二百メートルほどなのだが、練習場では五十メートルの距離で練習する。魔導弓のグリップの下にあるスイッチを入れて弦を張る。


 弦の中央にあるガラス玉のようなもの、これはトリガーボールというものらしい。そのトリガーボールを指で挟んで引き絞る。すると、身体から魔力が流れ出し紅魔矢となった。


 コンクリートブロックを狙って紅魔矢を放つ。その矢はコンクリートに二十センチほど突き刺さってから消えた。


「普通の矢に比べれば、凄い威力なんだけど、トリプルパイルショットほどの威力しかないな」

『しかし、射程は二百メートルですから、使う機会は多そうです』


 魔導弓を八十射ほど練習してから、魔導鉄甲を取り出す。この魔導鉄甲にはセブンスパイルショットの魔法が溜め込まれている。


 使用者が発動と念じれば、魔導鉄甲に込められた魔法は発動する。慣れるまでは時間が掛かりそうだが、難しいものではなかった。


 両手に魔導鉄甲を握り締め、コンクリートブロックを見る。深呼吸してから、コンクリートに向かってセブンスパイルショットを発動する。その直後に右手の魔導鉄甲を突き出しながら込められている魔法を発動させた。


 ほとんど同時に二つのセブンスパイルショットが発動。二発のD粒子パイルは続けざまにコンクリートに命中し貫通した。


「これは使えるな。但し、D粒子が問題になるかもしれない」

 同じ場所で複数の生活魔法を発動させた場合、一時的にD粒子の濃度が薄くなった場所で生活魔法を発動させる事になる。そうなると発動までに時間が掛かる時も有るだろう。それは風の強さや開放的な場所かどうかにも関係するので、その場で判断するしかない。


 練習を終えて冒険者ギルドへ向かう。資料室で鳴神ダンジョンの資料を見ていると、支部長が入ってきた。

「本部から連絡が来た。グリム君のB級昇級試験の特例許可が下りた。おめでとう」

 俺は思わず満面の笑みを浮かべていた。

「ありがとうございます」


 近藤支部長が笑う。

「今回の特例許可は、慈光寺理事が動いてくれたようだ。理事に感謝するんだな」


 シャドウパペットの作成依頼を引き受けた事が評価されたようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る