第214話 国際冒険者会議の特別ゲスト
冒険者ギルドからシャドウパペットの作製依頼が来た。その依頼を引き受けると、B級昇級試験の特例許可が下りる確率が上がると聞いて、俺は依頼を受けた。
打算的だと言われるかもしれないが、俺は一刻も早くA級冒険者になりたいのだ。
数日後、慈光寺理事から連絡が来て冒険者ギルドの本部で会う事になった。作製するシャドウパペットについて、打ち合わせするためである。
東京の本部へ行って、受付で慈光寺理事の名前を出す。
「伺っております。理事の部屋にご案内いたします」
俺は慈光寺理事の部屋に案内される。近藤支部長の部屋より数倍広く豪華な部屋だった。
「よく来てくれた。そのソファーに座ってくれ」
俺は挨拶をしてからソファーに座った。何か飲むかと尋ねられたので、コーヒーを頼む。数分後に秘書らしい綺麗な女性がコーヒーを持ってきた。
「慈光寺理事の秘書をしている
理事ともなると、こんな美人を秘書にできるのかと思いながら、自己紹介した。
「作製するシャドウパペットなのだが、大きさに制限はあるのかね?」
理事に質問された。
「いえ、大きさに制限は有りませんが、大きいと大量のシャドウクレイが必要になり、作製が難しくなります」
慈光寺理事が頷き、俺がどれほど大きなシャドウパペットを作った事が有るかと尋ねられた。
「見せましょうか」
俺は為五郎を影から出した。
「……」
理事がビクッと身体を震わせた。秘書の杏奈は目を大きく見開き口に手を当てた。為五郎はいつもの挨拶で顔を俺の身体に擦り寄せ甘えるような仕草を見せる。
いきなり百八十キロの熊が、目の前に現れたら誰でも驚き恐怖を感じる。だが、為五郎の仕草を見て、二人は警戒を解いたようだ。
「触っても構わないかね?」
慈光寺理事の言葉に、俺は頷いた。理事は恐る恐るという感じで為五郎の背中を撫でる。
「剛毛かと思っていたが、本物の熊とは違い手触りの良い柔らかい毛並みだな」
杏奈の目がキラリと光り、為五郎の毛並みに注目する。こういう反応を示す人を何人か見ている。
「触ってもいいですよ」
俺が言うと、杏奈が為五郎を撫でる。幸せそうな顔になった。
「娘さんのパゥブを触った事がないのですか?」
「亜美は、私に見せてくれないんだ。取り上げたりしないのに。まあいい、それより作製するシャドウパペットなのだが、どんなものを作れるのだ?」
「猫・蛙・熊・豹の四種類です」
「ゴリラのようなシャドウパペットは作れないのかね?」
「シャドウ種のゴリラの魔物から手に入れた黒魔石が有れば、作れると思います。そんな魔物が居るんですか?」
シャドウクレイで猫の肉体を作って、それにシャドウフロッグの黒魔石から作った魔導コアを埋め込んでも、ちゃんと動く猫型シャドウパペットは完成しない。
それぞれのシャドウ種の黒魔石から作られた魔導コアには、元のシャドウ種の肉体を動かす基本制御情報のようなものが宿っている。その基本制御情報を元にシャドウクレイから作られた肉体を動かすのだ。その事を理事に説明した。
「なるほど、理解した。存在しないシャドウ種型のシャドウパペットは作れないという事だな?」
「そうです」
「ならば、豹型シャドウパペットを頼む」
「大きさはどうしますか?」
慈光寺理事は俺の横で寝そべっている為五郎に視線を向けた。
「あまり大きいと他国の理事を脅かす事になる。シャドウクレイを三十キロほど使ったものにしてくれ」
三十キロなら、手持ちのものが有るので問題ない。特別なソーサリーアイとソーサリーイヤーの調達は冒険者ギルドに頼んだ。
「ところで、今回の国際冒険者会議は、東京で行われるのだが、見学しないか?」
「遠慮します」
「そう言わずに……特別ゲストが来日するのだ。紹介しようと思うのだが、どうだね?」
「その特別ゲストとは?」
「その日のサプライズに取っておこう。その特別ゲストと知り合えば、いい経験になると思う」
そこまで言うのなら、本当に特別な人物なのだろう。人脈を広げるという点を考えれば、プラスになると思い承諾した。
豹型シャドウパペットは、亜美とカリナに手伝ってもらって問題なく完成した。それを慈光寺理事に渡すと喜んでいた。
国際冒険者会議の当日、俺は会場の隅で見学していた。そういう見学者がマスコミを含めると数十人居たので、目立ってはいない。午前中だけは公開していて、マスコミや見学者も聞いて良い事になっているらしい。
この会議のホスト国は日本なので、日本の冒険者ギルドが会議を主導していた。中心で頑張っているのは、潮崎理事長ではなく、慈光寺理事のようだ。
会議は英語を中心に進められており、英語を喋れない者は通訳が付いていた。英語は得意ではないので、会議の内容はよく分からなかった。ただいくつかの国の発言力が強い事に気付いた。それはA級冒険者が多いか、賢者の居る国だ。特に賢者の居る国は発言力が強いように感じた。
ホスト国である日本が特別製のシャドウパペットを紹介し、特別な蛙型シャドウパペットを使った宝の回収方法を発表すると各国の間から驚きと称賛の声が上がる。
慈光寺理事はホッとしたような表情を浮かべ、潮崎理事長は誇らしそうに笑っている。午前中の会議が終ると会議室の外に出た。
「グリム君、紹介したい人が居るんだ。こちらに来てくれ」
慈光寺理事に案内されて、部屋に入った。そこにはフランスのA級冒険者クラリスが居た。そして、その隣にフランス人らしい三十歳くらいの男性が立っている。
俺はクラリスを見て、以前にメティスから気を付けろと言われた事を思い出した。
「グリム、元気でしたか?」
「はい、クラリスさんも元気なようで……」
クラリスが隣の男性を紹介した。
「フランスが誇るワイズマンのテオドール・エミリアン様です」
ワイズマン、賢者という事だ。自分以外の賢者を初めて見た。まじまじとエミリアンを見ていると苦笑いされた。
「あまり見詰めないでくれ、恥ずかしいじゃないか」
流暢な日本語だった。
「済みません」
「謝らなくてもいい。クラリスから君の話は聞いたよ。優秀な生活魔法使いだそうだね」
クラリスが慈光寺理事に顔を向けた。
「理事、グリム君から話を聞きたいので、少し借りてもいいですか?」
「彼は日本の貴重な人材です。フランスに引き抜こうとしないでくださいよ」
クラリスとエミリアンが笑った。
「もちろん、話をするだけです」
忙しい慈光寺理事は、仕事に戻った。三人になるとエミリアンが俺に視線を向けて口を開く。
「ワイズマン・グリム、同じワイズマンとして、君と話したいと思っていたのだ」
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