第211話 鳴神ダンジョンの五層
『流星の門』に挑戦したアリサたちが、冒険者ギルドの打ち合わせ部屋で俺に結果を報告した。
「良かったな。今度は大学受験だけど、大丈夫なのか?」
天音が頷いた。
「一応、全員が模試で合格圏内に入りましたから、大丈夫です」
俺はちょっと羨ましくなった。彼女たちがキラキラしているように見えたからだ。
「それにしても、D粒子収集器三個と金の延べ棒か、凄いな。オークキングから手に入れたD粒子収集器も合わせると四個だから、これで全員が一つずつ使える」
アリサたちは、千佳が魔装魔法使いと判定されて、D粒子収集器が四つ揃わないんじゃないかと思っていたらしい。千佳は魔法学院で魔装魔法使いとして扱われていたからだ。
それでオークションでD粒子収集器を探そうという話も出ていたようだ。大学に入ってバラバラになれば、D粒子収集器を共有して使うというのも難しくなると考えたらしい。
由香里が『流星の門』で手に入れた金の延べ棒を売って、皆で山分けにすると言い出した。オークキングから手に入れたD粒子収集器を自分のものにする代価だと言う。話し合って山分けにする事に決まった。
「そう言えば、私が持っているマジックバッグは、どうする?」
アリサがゴブリンロードを倒して手に入れたマジックバッグの話をする。
「そうか、それがあったか」
千佳は完全に忘れていたようだ。
「そのマジックバッグは、ゴブリンロードが通常ドロップするマジックバッグより、ワンランク上の容量があるものなんだから、売らない方がいいと思う」
俺の言葉を聞いたアリサたちは頷いた。
「そうですね。でも、皆で一つずつマジックバッグが欲しいな」
マジックバッグはオークションなどで手に入れようとすると、億単位の金が必要だと言われている。そこで今あるマジックバッグを売って、容量の小さなマジックバッグを四つ手に入れようと思ったらしい。
俺は鳴神ダンジョンの二層にあるゴブリンの町を思い出した。
「そう言えば、鳴神ダンジョンの二層にゴブリンメイヤーが居る。そいつを倒すとマジックポーチをドロップするらしい」
四人が興味を示した。
「そのマジックポーチは、どれほどの容量が有るのですか?」
アリサに質問された俺は、B級冒険者の後藤から聞いた話を思い出した。
「確か五十リットルだったはずだ」
「それだけ有れば、十分じゃない」
千佳が言った。大学に合格してからC級冒険者になり、ゴブリンメイヤーを倒しまくってマジックポーチを手に入れようと、天音たちが盛り上がった。
アリサたちと別れた俺は、冒険者ギルドの資料室で、鳴神ダンジョンの情報を調べた。まだ五層で転送ゲートらしきものが発見されたという報告はないようだ。
五層の山岳エリアで調査済みの場所をチェックして、メモに書き写す。
その翌日は、鳴神ダンジョンの五層を目指した。まだ調査が済んでいない区域という事で、右側の山の中で一番高い山に向かう。
この辺りには他の冒険者が居るかもしれないので、為五郎は出さない事にした。この辺りは見通しが悪いので、魔物と間違われて攻撃されるのが嫌だったのだ。
山岳エリアなので、ラッシュゴートやキラーパンサーなどの魔物が多い。獣道のような細い道を山頂に向かって登っていると、黒い豹のような魔物と遭遇した。
『これはシャドウパンサーですね』
頭の中でメティスの声が響いた。
「へえー、こいつもシャドウ種なのか?」
『そうです。ですが、気を付けてください。こいつは今までのシャドウ種と違って、積極的に影に潜れる能力を利用するようです』
そう言われた直後、シャドウパンサーが木の影に姿を消した。俺は『センシングゾーン』と『オートシールド』を発動する。
黒意杖を右手に構えて慎重に近付く。シャドウパンサーが消えた木の影から三メートルほどの地点に近付いた時、突然シャドウパンサーが飛び出して襲い掛かってきた。
俺は反射的にトリプルオーガプッシュを繰り出した。空中で魔物とオーガプレートが衝突し、シャドウパンサーが弾き飛ばされる。
だが、空中で体を捻ったシャドウパンサーは、スタッと地面に着地。そして、俺の横にある木の幹に向かって跳び、その幹を蹴って俺に襲い掛かってきた。
シャドウパンサーの爪が俺の首を狙う。その爪を『オートシールド』の発動で発生したD粒子シールドが防いだ。一瞬ヒヤッとしたが、こういう時のための『オートシールド』である。
まだシャドウパンサーが着地する前に、クワッドパイルショットをシャドウパンサーに向けて放つ。D粒子パイルが魔物の背中に命中し貫通した。
やったと思った瞬間、シャドウパンサーが飛び掛かってきた。最後の反撃だ。俺がトリプルオーガプッシュで突き飛ばすと、宙を舞って地面に激突。そのまま地面を転がる。
シャドウパンサーは血を流しながら起き上がろうとしたが、力尽きて死んだ。黒い豹の姿が消えた場所には、黒魔石とシャドウクレイ十キロほどが残されていた。
「こういう素早い魔物は、手強いな」
『最初に『オートシールド』を発動したのは、正解でした』
「影に隠れているシャドウ種が発見できるような魔法はないのかな?」
『既存の魔法にはなかったと思います』
「『センシングゾーン』でも分からなかったからな。素早く反応するしかないという事か」
俺は『オーガプッシュ』の早撃ちを練習する事にした。
その山の頂上に登り下を眺める。そこから隣の山を観察すると、山の中腹に洞穴があるのを発見した。
『何かの巣穴かもしれません』
「嫌な予想だな。もしかすると、転送ゲートかもしれないぞ」
『それは楽観的すぎると思います』
「そうかな? とにかく行って確かめよう」
俺は山を下り、隣の山を登り始める。途中、休憩を挟んでから中腹の洞穴に到着した。洞穴は直径三メートルほどで、かなり奥が深いように感じる。
俺は暗視ゴーグルを取り出して掛けると、中に入った。
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