第210話 流星の門、再び

 アリサたちがD級冒険者になった四日後、神陽ダンジョンの六層にある火山が噴火した。それと同時に『流星の門』の封印が解かれた。


 渋紙市の冒険者ギルドで『流星の門』の挑戦者に選ばれたのは、アリサたち四人と今年の春に魔法学院を卒業した黒月圭吾だった。


 黒月は学院を卒業した後、C級冒険者の石橋が設立したバタリオンに入ったという。このバタリオンでいくつかの攻撃魔法を習得した黒月は、仲間とチームを組んで水月ダンジョンで活動しているらしい。


 その日、神陽ダンジョンの前にはD級冒険者が集まっていた。そのほとんどが『流星の門』の挑戦者である。アリサたちと黒月は、封印が解けた『流星の門』の前で冒険者ギルドの職員から整理番号をもらった。


 どうやら一時間半ほど待つ事になるようだ。

「ダンジョンハウスで待とうよ」

 由香里が提案すると、他の皆が賛成する。そのダンジョンハウスの休憩室に行くと、先に来ていた黒月が売店で買ったらしい紅茶を飲んでいた。


「黒月先輩は、『騎攻士隊』に入ったんですよね?」

 天音が質問した。騎攻士隊というのは、石橋が設立したバタリオンの名前である。


 少し逞しくなったように見える黒月が頷いた。

「そうだ、攻撃魔法を磨き直そうと思って、攻撃魔法使いのバタリオンに入ったんだ」


 しばらく会わない間に黒月が修行者のような雰囲気を持つ人物になっていた。グリムも真面目だが、余裕がある感じがする。一方、黒月はぎりぎりのところで生きているような厳しさを感じる。


「そう言えば、君らはE級じゃなかったのか?」

 そう聞かれて、アリサが代表して答える。

「先日、D級になったばかりです」

「そうなんだ」


 由香里が黒月にバタリオンがどんなものなのか尋ねた。

「うちの騎攻士隊は、まだ設立したばかりで蓄積が少ないのだが、先輩たちが作った資料がある。その中には魔法の使い方や魔物との戦い方を記録したものもあって、勉強になる」


 雑談を交わしながら時間が経過し、黒月の番になった。そして、最初にアリサの番が来た。

 アリサの整理番号が呼ばれ、『流星の門』の前に立つ。いつも持っているマジックバッグは他の三人に預け、その代わりにエスケープボールと初級治癒魔法薬だけが入っているウエストポーチを身に着けている。


 万形剣だけを持ってオレンジ色の扉に手を触れた。そのまま扉を押し開いて中に入る。中はかなり広い空間だった。この広さなら『ハイブレード』も使える。


 その中央にケンタウロスが立っていた。グリムに教えてもらった通りである。アリサは急いで『オートシールド』と『センシングゾーン』を発動した。


 生活魔法で攻撃するには間合いが遠いので、アリサは前に進み出た。それを見たケンタウロスが槍を持つ腕を後ろに引いた。


 かなりの速さで槍が投擲される。その攻撃が有る事を知っていたアリサは、クワッドオーガプッシュで迎撃した。オーガプレートで弾かれた槍がケンタウロスの手元に飛んで戻った。


「あの槍は、厄介ね」

 そう言った瞬間、ケンタウロスが走り出していた。接近したケンタウロスが槍を振り上げ、アリサを刺そうとする。それをクワッドオーガプッシュで迎撃する。


 攻撃しようとした瞬間に、カウンターで反撃を食らったケンタウロスはバランスを崩してよろけた。チャンスだと思ったアリサは、セブンスジャベリンを放つ。


 それをケンタウロスが槍で弾いた。グリムがケンタウロスはD粒子が見えるようだった、と言っていたが本当のようだ。


 ケンタウロスが突進してきた。アリサはその進路に『プロテクシールド』を発動する。D粒子が見えているケンタウロスは、形成されたD粒子堅牢シールドを跳び越えようとした。


 アリサは発動までの時間が一番短いセブンスアローを放ち、その直後にセブンスジャベリンを発動した。D粒子コーンをケンタウロスが槍で弾いた次の瞬間、D粒子ジャベリンがケンタウロスの胸に突き刺さる。


 地面に倒れたケンタウロスに向けて、連続してセブンスジャベリンが発動。頭と心臓を直撃したD粒子ジャベリンが、その息の根を止めた。


「ふうっ、残念ながら魔法レベルは上がらなかったみたいね」

 アリサは今の戦いを分析して、勝てたのは事前にケンタウロスの戦闘パターンを教えてもらった事が大きいと判断した。何も知らずに戦ったら、負けていたかもしれない。


 宝箱が出現していたので、それを開ける。予想していた通り、D粒子収集器だった。アリサはD粒子収集器を拾い上げて、扉から出た。


 三人がアリサに抱きついた。

「やったー!」「勝ったのね」「ちょっと不安だったんだから」

「ありがとう。次は由香里の番だから、気を付けてね」


 由香里は真面目な顔になって頷いた。

 『流星の門』の扉に手を当てた由香里が押し開いた。中はグリムから聞いていたのと同じ広い空間だった。但し、中央に立っていたのは、ロックゴーレムだ。


「はあっ、あたしは攻撃魔法使いと判断されたのか」

 由香里の魔法レベルは、生活魔法が『8』で攻撃魔法が『10』である。高い方の魔法レベルが選択されたようだ。


 岩で出来た化け物が動き出した。『センシングゾーン』と『オートシールド』を発動させてから、セブンスハイブレードを発動する。


 D粒子の巨大な刃が超高速で振り下ろされた。ロックゴーレムの肩に命中したV字プレートは、そこに食い込んでヒビを走らせる。


「硬い、でも、集中的に狙えば」

 ロックゴーレムの動きは遅いので、少しずつ後退しながらセブンスハイブレードを連続で発動する、そのD粒子の刃はロックゴーレムの肩から首にかけて命中しヒビを作った。


 そして、十分だと思った由香里は、最後のセブンスハイブレードを横に薙ぎ払いロックゴーレムの首に叩き込んだ。首が刎ね飛び、ロックゴーレムが倒れた。


 ロックゴーレムの姿が消えると宝箱が現れる。中を確かめると、大きな金の延べ棒だ。

「あたしもD粒子収集器が良かったなー」

 そう言ってから、重い金の延べ棒を持ち上げ外に出た。無事に帰還した事を他の三人が喜んでくれる。


「でも、私のお宝は、これだったの」

 不満そうに言う由香里を、他の冒険者たちが羨ましそうに見ていた。アリサが慌てて金の延べ棒をマジックバッグに入れる。


「今度、冒険者ギルドと提携しているオークションに行ってみようか。もしかすると、D粒子収集器があるかもしれない」

 天音が提案した。他の三人が頷く。


 それから天音と千佳が『流星の門』に挑戦して、二人ともD粒子収集器を手に入れた。千佳の魔法レベルは、生活魔法が『11』で魔装魔法が『8』である。生活魔法使いと判定されたようだ。


「千佳は生活魔法に偏り過ぎだと思う。もう少し魔装魔法に力を入れた方がいいかな」

 アリサが千佳にアドバイスした。

「それは受験が終わってから、と思っている。限られた時間の中で両方というのは無理」


「あああっ、また受験勉強の日々が始まるのね」

 天音が残念そうに言った。由香里が分かるというように頷く。

「そうだ、大学に合格したら、三十一層のダークキャットを狩りに行こうよ」


 それを聞いた天音が、パッと明るい顔になった。

「シャドウパペットね。グリム先生のコムギちゃんを見て、欲しいと思ったのよ」


 ちなみに黒月は『流星の門』に挑戦したが、門が受け入れなかった。どういう基準で判定しているのか分からないのだから仕方ない。


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