第208話 受験勉強と流星の門
美乃里は『ソードフォース』の準備を始め、ファイアワームに向けて発動。魔力で形成された強力な刃がファイアワームに向かって飛翔する。
それにファイアワームが気付いたらしい。飛翔する魔力の刃に向かって火炎放射器のような炎を吐き出した。その炎が魔力の刃を包み込んだが、それくらいで弾かれるほど『ソードフォース』の威力は小さくなかった。
ただ軌道が少しだけ逸れた。ファイアワームを真っ二つにするはずだったのに、大きな傷を刻んだだけで、魔力の刃は飛び去った。
それを見たカリナはセブンスハイブレードを発動。真上から振り下ろした巨大なD粒子の刃は、音速を超えてファイアワームに叩き付けられる。
その一撃がファイアワームの息の根を止めた。その光景を見ていた澤井は、ゴクリと
「本気で生活魔法を勉強しようかな」
澤井を本気にさせるほど、カリナが繰り出した生活魔法は鮮やかで強力だったのだ。
ワーム岩穴から飛び出してきた二人の冒険者に事情を聞くと、やはり宝箱を目当てにワーム岩穴に入って、あっさりファイアワームに見付かって逃げ出したらしい。
「犠牲者が出なくて良かったが、これからは無謀な事はするな」
澤井が若い冒険者を叱った。その二人が去った後、ファイアワームの赤魔石<中>を回収した。
直美はカリナがニコニコしているのに気付いた。
「赤魔石を回収した事が、そんなに嬉しいの?」
「そんな事じゃない。ファイアワームを仕留めた時、生活魔法の魔法レベルが上がって『9』になったのよ」
「それはおめでとう」
魔法レベル9で習得できるようになる生活魔法は、『カタパルト』『ヒートシェル』『プロテクシールド』である。どれも重要な魔法なので、カリナは嬉しかったのだ。
「さあ、宝箱を確認に行きましょう」
美乃里が声を上げた。カリナはワーム岩穴に目を向けた。
「ファイアワームが、他にも居るって事はないよね?」
「大丈夫、二匹出たという話は聞いた事がないから」
カリナが納得して進み始めた。
ワーム岩穴の内部は乾燥していた。このエリアは川がいくつも流れているので、乾燥した穴の中はファイアワームにとって居心地が良かったのだろう。
岩穴の奥へと進む。暗くなったので懐中電灯を取り出した。
「この中に入るのは、初めてよね?」
直美が確認すると、他の三人が頷いた。
「こんな狭い場所で、ファイアワームと戦うのは不利だから、先輩たちから『入るな』と言われていた」
澤井が昔を思い出して言った。
「あった」
美乃里が宝箱を発見して声を上げる。それは金属製の宝箱で、みかんが入っている段ボール箱ほどの大きさがあった。
カリナたちはトラップに気を付けながら、宝箱の蓋を開けた。トラップはなし。中に入っていたのは、四本の金の
カリナは奇妙なものに見覚えが有った。グリムが所有していたD粒子収集器だ。それを手に取ったカリナが、皆に頼んだ。
「他は要らないから、これを私のものにしてもらえないかな」
澤井が首を傾げた。
「それは何なんだ?」
「生活魔法使いが使う特別な装置よ」
澤井は他の二人と相談して承諾した。
「ファイアワームを仕留めたのは、カリナだ。そいつはカリナのものにすればいい」
「ありがとう」
その後、戦い足りないという澤井と直美が、数匹のリザードソルジャーを仕留めてから地上に戻った。その戦いは澤井のリハビリになったようだ。
澤井が本気で生活魔法を習いたいと言うので、カリナはグリムと一緒に作った生活魔法の教科書を送ると約束した。
この教科書は少し厚い本になった。だが、教科書に出てくる生活魔法を全部習得すれば、グリムが一人前の条件と決めた十一個の生活魔法と魔法レベル1で習得できる有用な魔法のいくつかを学習できるようになっている。
この教科書は日本語版だけでなくフランス語版と英語版が、同時に発売される事になっていた。まだ発売前だが、カリナは著者の一人として、出版社から何冊かもらったので所有しているのだ。
直美と美乃里は、生活魔法よりシャドウパペットに興味を持ったようだ。シャドウパペットを売っている店が早く出来ればいいのに、と言っていた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
アリサたち四人は二週間に一回の割合でダンジョン探索をしている。その日も水月ダンジョンの十層でアーマーボア狩りをして地上に戻り冒険者ギルドへ行った。
回収した魔石を換金して帰ろうとした時、支部長から呼び止められる。支部長室に招かれたアリサたちは、何だろうと思いながら支部長が話し始めるのを待った。
「実は神陽ダンジョンの六層で、火山活動が活溌になっている、と報告があった」
アリサは神陽ダンジョンの火山と聞いて、ある事を思い出した。
「もしかして、『流星の門』ですか?」
「そうだ。『流星の門』の挑戦権を得るために、D級の昇級試験を受けずにいるらしいじゃないか?」
『流星の門』を試したいという冒険者を無制限に受け入れれば、混乱が起きると考えた冒険者ギルドが一年以内にD級に昇級した冒険者だけに挑戦権を与えると制限をしたのだ。
なぜD級かというと、『流星の門』に入れるかどうかは、門自身が判断するようなのだ。ギルドはそれまでの経験からD級に昇級したばかりの者が、『流星の門』に入れる可能性が高いと突き止め、そのように制限したのである。
支部長から『流星の門』の事を聞いたアリサたちは、グリムと相談した。そして、D級昇級試験を受ける事にする。この試験の課題は、アーマーベアかブラックオーガを倒すというのが定番だ。
グリムに相談した時、『オーガプッシュ』の魔法陣をもらった。『流星の門』に挑戦する弟子たちへの支援という事らしい。
『オーガプッシュ』を教える機会が遅くなったのは、中級ダンジョンの二十層くらいまでしか活動範囲を広げていないので、まだ必要ないと思っていた事と受験勉強を始めたので、勉強を優先させたためだと言っていた。
「『プッシュ』の強化版か、『流星の門』の中に居る魔物と戦うには必要だという事かな」
天音が声を上げた。それを聞いてアリサたちが頷く。
「私たちが受験勉強している間に、グリム先生は魔導書からいくつも新しい生活魔法を掘り出したようね」
アリサがグリムと話して感じた事を言った。『掘り出す』というのは、魔導書に載ってる魔法陣を分析して、魔法庁に登録できるような形にする事である。
「はあっ、早く自由にダンジョン探索に行けるようにならないかな」
千佳が愚痴るように言った。ちなみに、四人は合格圏内に入っている。グリムが教えた魔力を動かして脳を活性化するという方法が効果を発揮したらしい。
魔力を動かすコツを習得した四人は、勉強が進み模試などの結果も良くなったのだ。
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