第186話 特別なシャドウパペット

 特別なシャドウパペットを作製するためには、シャドウフロッグの黒魔石とシャドウクレイ、それに特別なソーサリーアイとソーサリーイヤーが必要になる。


 シャドウフロッグの黒魔石とシャドウクレイについては、後藤たちが用意する事になった。俺は特別なソーサリーアイを手に入れるために鎌倉に向かう。


 この特別なソーサリーアイが作れるのは、日本では龍島という魔導職人だけらしい。鎌倉の龍島邸に行って、龍島に面会した。


「冒険者ギルドから聞いておる。特別なソーサリーアイが必要じゃというが、何に使うんじゃ?」

「シャドウパペットです」


「ん、君は榊と言ったな。もしかして、シャドウパペット製作法の魔導特許を出したグリム先生なのかね?」

「カリナ先生から聞いたんですね。ええ、そのグリムです」


「面白い、どんなシャドウパペットを作るのじゃ?」

「海中偵察用の蛙型シャドウパペットです」

「ほう、蛙型か。見たいものだな」


「ご覧に入れましょうか」

 俺はゲロンタを見せる事にした。俺の影からゲロンタがピョンと飛び出してきて龍島を見上げた。


 それを見た龍島が、一言。

「ブサイクだな」

「そこは勘弁してください。手慣れていない事も有りますが、人間用のソーサリーアイしか手に入らなかったんです」


 龍島が頷いた。

「条件付きでソーサリーアイの製作を引き受けよう」

「ありがとうございます。その条件というのは?」

「儂用の猫型シャドウパペットを作る手伝いをする事じゃ」


 龍島が自分のシャドウパペットを欲しがっているのはカリナから聞いていたが、その製作の手伝いをする事になるとは思わなかった。


 龍島は自分で材料を揃えたらしい。驚いた事に猫の眼を真似て作ったソーサリーアイも用意されていた。


 ちなみにソーサリーアイを使わない場合、どうなるかというと、全てが黒い眼が出来上がる。この黒い眼はダークキャットの眼を模倣したものであり、人間の眼より性能が落ちる。つまりソーサリーアイは強化部品という事になる。


 龍島が黒魔石から魔導コアと指輪を作った。その後、生活魔法使いである俺の出番である。

「次は、シャドウクレイにD粒子を練り込んでもらうとするか」

「分かりました」


 この作業は何度もやった。確実に均一になるように丁寧にD粒子を練り込んだ。出来上がったものを龍島に渡す。


 そのシャドウクレイを使って龍島が猫の形を作り上げる。龍島の造形力はさすがというほかなかった。ソーサリーアイとソーサリーイヤーを組み込み、最後に魔導コアを頭に埋め込む。その後、頭部や顔を仕上げていく。


 龍島は猫の小さな鼻やヒゲさえも再現した。

「いいだろう。これに魔力を注ぎ込んでくれ」

 俺が魔力を注ぎ込みながら、猫の骨格や筋肉をイメージする。但し、心臓や肺などの臓器は無視した。臓器はシャドウパペットにとって弱点となるからだ。


 骨格が作られ、それを覆うように筋肉が形成された。最後に毛並みや顔が生きた猫のように変化する。その様子を龍島はジッと見ていた。


「なるほど、骨格や筋肉までイメージしておるのじゃな」

 見抜かれてしまった。イメージなしでも魔導コアに込められているダークキャットの基礎構造を模倣するのだが、イメージが有るとより細かな部分も再現するようだ。


 猫型シャドウパペットが完成。本物の黒猫と見分けがつかないほど精巧に作られたものになった。龍島がニッコリ笑うとシャドウパペットを抱き上げる。


 龍島は特別なソーサリーアイを製作する事を約束してくれた。俺は渋紙市に戻り支部長に報告する。

「よくやってくれた。後藤たちも黒魔石とシャドウクレイを持ち帰るだろう」


 その言葉通り、後藤たちは大量の黒魔石とシャドウクレイを手に入れて戻ってきた。それから数日後、龍島から三体分のソーサリーアイが届いた。


 それはカエルの眼球を模倣したもので、サングラスのような魔道具とセットになっていた。材料が揃ったので、蛙型シャドウパペット三体を作製した。


 出来上がった蛙型シャドウパペットの一体は俺に任された。今回はメティスに任せるというような事はせず、歩く動作からジャンプや平泳ぎができるようになるまで訓練する。


 シャドウフロッグの黒魔石から作られた魔導コアには、魔物だった時の基本動作がインプットされており、それを元に学習させた。


 蛙型シャドウパペットの訓練が終了した後、俺と『蒼き異端児』は鳴神ダンジョンの三層へ向かった。海岸から後藤の冒険者用小型船に乗る。黒鉄製の船で砕氷船並みの頑丈さが有るらしい。


 神殿が発見されたポイントは、海岸から九キロほど沖で大きな島が近くにあった。そのポイントに到着した俺たちは、船を止めて蛙型シャドウパペットを影から出した。


 残りの二体は、後藤と白木という人がマスターとなっている。

「さて、神殿調査だ。プチロドンもそうだが、他にも魔物が居るかもしれない。慎重に行こう」


 後藤の合図で、俺たちは例のサングラスを掛けると、シャドウパペットを海に飛び込ませた。区別が付くように俺のシャドウパペットは緑のベストを着ている。後藤が赤で、白木が白である。


 このベストは冒険者ギルドの加藤が作ったものらしい。彼女は洋裁が得意なのだという。

 俺の脳裏に海中の光景が送られてきた。映像受信機がサングラス型だったのでサングラスのレンズに映像が映し出されるのかと思ったら、映像は脳に直接届いた。


 赤いベストを着た蛙型シャドウパペットが深く潜っていく。海底にトンネルのような大きな穴が有り、そこを抜けると神殿のようなものが見えた。


 その神殿の前を数匹のプチロドンが泳いでいる。赤ベストは右側にある岩場へ向かう。岩陰に隠れながら神殿に近付くようだ。


 俺はシャドウパペットに付いて行くように指示した。三体の蛙型シャドウパペットが岩陰に隠れながら、神殿へと近付く。これが人間だったら発見されていただろう。


 神殿から七メートルほどの距離まで近付いたところで、隠れる岩がなくなった。俺たちはプチロドンの注意を逸らす事にした。


 後藤の指示で『蒼き異端児』の攻撃魔法使いが海底に向かって、『ヘビーショット』を発動した。魔力榴弾が海底に突き刺さり爆発する。


 その瞬間、神殿前で遊泳していたプチロドンたちが、一斉に反応して爆発した場所へ向かった。俺たちはシャドウパペットを神殿に向かわせる。


 神殿に入った俺たちは、通路を奥に向かった。奥に部屋があり、入り口から中を覗くと大きな神の彫像がある。王冠を被り杖を持つ人魚のような神だ。ここは祈りの間なのかもしれない。


 俺たちは中に入って調べ始めた。すると、その部屋の四隅に宝箱を発見。その他に部屋の壁に文字が刻まれているのを見付けた。


 魔法文字で書かれており、『なんじたちに告げる。我は三つの宝を用意した。選択を間違いし者は、大いなる罰を受けるであろう』とあった。


 四つの宝箱の中で一つはトラップだという事だろう。


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