第185話 海中神殿

 俺はジービック魔法学院に来た。定期的に学院に来て、カリナと一緒に生活魔法の教科書を作成しているのだ。生徒指導室に入るとカリナの他に亜美とアリサたち四人も居た。


「どうして、四人も来ているんだ?」

 俺がアリサたちに顔を向けて尋ねると、天音がニコッと笑う。

「グリム先生、ネタは上がっているんですよ。シャドウパペットの件は、グリム先生でしょ」


 鳴神ダンジョンでシャドウパペットを製作する方法が発見されたという噂が広まっているらしい。亜美が俺に視線を向けた。


「私は喋っていませんよ」

 それを聞いたカリナも慌てたように自分も喋っていないと言う。


「シャドウパペットの件は、魔導特許が認可されましたから、いいんだけど」

 アリサが頷いて、

「という事は、噂は本当だったんですね?」


「『シャドウパペット製作法』は、鳴神ダンジョンの宝箱から手に入れたんだ」

「凄いです」「強運の持ち主です」

 俺の言葉を聞いたアリサたちが騒いだ。


「幸運とか、そういう事じゃない。新発生したダンジョンで初めて開けられる宝箱には、特別なものが入っている確率が高いという事なんだよ」


 アリサたちが羨ましそうな顔をする。それはカリナも一緒だった。

「グリム先生、シャドウパペットを見せてください」

 天音が頼んだ。俺は頷いた。


「まずは、猫型シャドウパペットのコムギだ」

 メティスが俺の影からコムギを出した。

「可愛い」「でも、なんか変」

 アリサたちはガヤガヤと騒ぎ出した。次にゲロンタを出すと千佳以外は、ちょっと引いた。


 千佳だけはゲロンタの頭を撫で、「可愛い」と言う。その感性は特別製らしい。

 カリナが魔法庁でシャドウパペットを作る手伝いをしたという事を話すと、話が盛り上がった。


「その猫型シャドウパペットは、どうなったのですか?」

「魔法庁の所有という事になって、松山審査官がちゃんと動けるように訓練してから、魔法庁の長官が預かる事になったみたい」


 由香里が首を傾げた。

「シャドウパペットを実際に作ったカリナ先生や龍島先生じゃなくて、長官が預かるんですか?」

「材料は魔法庁が揃えたものだから、仕方ないのよ」


 その代わり協力費みたいなものが支払われたそうだ。

「龍島先生は、自分用のシャドウパペットを作ると言われていましたから、そのライセンス料がグリム先生に払われると思いますよ」


 ライセンス料には最低金額というのが決まっており、魔導職人が自分用のシャドウパペットを作製する場合、その最低金額をライセンス料として支払う事になる。

 販売する場合は、販売額の数パーセントが払われるらしい。


 由香里がコムギを抱き上げて、優しく撫でている。

「あたしも欲しくなりました。ライセンス料を払って作ろうかな。ところで、亜美ちゃんはどうして、ここに居るの?」


 俺は弟子入りの件を話した。それを聞いたアリサが亜美に顔を向ける。

「魔導人形師になりたいの?」

「生活魔法使い兼魔導人形師です」


「それでグリム先生の弟子になりたいのね。でも、先生は割とスパルタだから、大変なのよ」

「えっ、俺ってスパルタなのか?」

「先生は気付いていないようですけど、早く自分と同じレベルに引き上げようとして、結構きつい訓練をさせています」


 俺はちょっと反省した。自分なら、これくらいはできるという事をさせているのだが、きつい訓練だったようだ。


 天音が頷いた。

「それに教えた事は、次に会う時には習得している事を要求するんですよね」

 俺としては、そんなつもりはなかった。

「そ、それは違う。ただ、どこまで進んでいるか、チェックしていただけだ」


 アリサたちが笑った。

「厳しく指導してくれた事も含めて、グリム先生には感謝しています。ただ付いていけない人も居ると思いますよ」


 アリサの忠告は、考えさせられた。と言っても、教え方を大きく変えるつもりはない。

「それより、受験勉強はどうなんだ?」

 俺が反撃すると、天音がガクッと肩を落とした。


「最新の模試では、アリサと由香里が合格圏で、あたしと千佳がギリギリだったんです」

 俺は頷いてから、C級冒険者の上条から教えられた魔力を動かすと脳が活性化するという方法を教えた。


「へえー、魔力を右肺から左肺、それから右肺へみたいに動かすだけで、脳が活性化するんですか?」

「ああ、魔法文字を覚える時に試してみたら、効果があった。但し、魔力を動かせるようになるのは、訓練が必要だ。でも、天音たちなら、一週間くらいで習得できると思う」


 それを聞いたカリナは、メモを取りながら詳しいコツを聞き始めた。生徒たちに教えるつもりなのだろう。


 由香里が名残惜しそうにコムギを解放する。

「大学に合格したら、ダークキャット狩りをします。そして、材料を手に入れたら、絶対シャドウパペットを作ります」


「だったら、早く帰って、勉強を頑張りなさい」

 カリナに言われたアリサたちは帰った。その後、俺とカリナ、亜美の三人は教科書作りの作業を始める。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、鳴神ダンジョンで探索していた後藤のチーム『蒼き異端児』が、三層の海エリアで海中神殿を発見した。後藤たちは調査しようと海中に潜ったのだが、プチロドンに邪魔された。


 海中で戦う事になった後藤たちは苦戦して、撤退したらしい。プチロドンが一匹だけなら、後藤たちで倒して進む事もできたのだが、数匹が海中神殿の入り口を守るように遊泳していた。


 地上に戻った後藤は、冒険者ギルドに報告。それを聞いた同じB級冒険者の赤城たちも挑戦したらしいが、複数のプチロドンを駆除する事はできなかったらしい。


 支部長と後藤は相談して、蛙型シャドウパペットを利用しようという事になった。特別なシャドウパペットを製作し神殿内部の構造を調査しようという事になったのだ。


 支部長に呼ばれた俺は、その特別なシャドウパペットが作れるか聞かれた。

「シャドウパペットが見た光景を、使用者の脳に送って見れるようにするんですか?」


「そういう特別なソーサリーアイが開発されている。それをシャドウパペットに組み込めるのではないかと考えている」


「そういうソーサリーアイが有るのなら、可能だと思います」

 俺は『蒼き異端児』と合同で、海中神殿を調査する事になった。


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