第178話 蛙型シャドウパペット

 雷神ダンジョンは、同じ上級の鳴神ダンジョンとは違いリアル型ではない。中級ダンジョンを大型化したような構造をしている。


 この雷神ダンジョンの一層は縦横十五キロの草原だが、鳴神ダンジョンより魔物の密度が薄く多様性も低い。


「この一層には、ハイゴブリンやオークソルジャーが居る。ハイゴブリンの魔法には気を付けろ」

 そう試験官の垂水が注意した瞬間、二匹のハイゴブリンが現れた。


 昇級試験の受験生たちが一斉に猟銃を構えて、引き金を引いた。銃声が響きハイゴブリンに銃弾が命中する。

「よっしゃー、仕留めたぞ」

 『ダンジョン狩人』の淵田という男が声を上げた。


 この様子を見ていた俺は、銃も良いんじゃないかと思った。射程も百メートルほどあり、威力が有りそうだ。ちなみに、受験者たちが使っているのは散弾銃らしい。


 猟銃としてはライフル銃もあるのだが、日本の法律では散弾銃での経験年数がないとライフル銃は扱えないという。それで散弾銃に熊撃ちとも呼ばれるスラッグ弾を装填して使っているらしい。


 問題はダンジョンにおいて、どこまで通用するかという事だ。一層を抜け二層に下りると荒野エリアでキングスネークと遭遇し戦いになった。


 全長十二メートルの大きな蛇である。地上に居る蛇とは違い、胴回りが太く直径が三十センチほどもありそうだ。そのキングスネークにスラッグ弾が撃ち込まれた。


 熊でも倒すという評判のスラッグ弾だったが、キングスネークの頑丈な皮で威力が減少し筋肉で弾かれるようだ。それでも痛いのだろう。キングスネークは苦しそうに藻掻く。


「トドメだ!」

 淵田がそう言って『クラッシュバレット』を発動した。攻撃魔法使いだったらしい。

 初めから『クラッシュバレット』を使えば良いのに、と思った。だが、『ダンジョン狩人』というチームとしては、まず銃で撃つというのが基本だという。


 そのうちに大怪我しそうな気がする。ただ他のチームの事なので口出しは控える。

 三層の荒野エリアで遭遇するアンデッドは、基本銃で倒せるようだ。ただトロールゾンビは例外らしい。驚いた事にファントムまで銃で倒していた。聖属性付きの銃弾というのを用意しているのだ。


 四層の山岳エリアでは、アーマーボアを倒すのに苦労していた。大半の魔物を銃で倒しているので、魔法が必要な魔物と戦う事になった時に手間取るようだ。魔法を使って戦う場合の熟練度みたいなものが不足しているように見えた。


 『ダンジョン狩人』が使う銃に対する評価は、中級ダンジョンの十層くらいまでが限界だろうというものだ。但し、もう少し強力な銃をダンジョンに持ち込めば、評価は変わるだろう。


 五層で昇級試験の集団と別れ、六層に向かった。六層は湿原エリアである。沼や湖が点在しており、平野も泥濘んでいる場所が多い。


 ここで遭遇する魔物は、ブラックゲーターとキメラビーバー、シャドウフロッグである。目当てのシャドウフロッグは影の中に潜んでいる事が多いので、探し出すのが大変だという。


 その時も沼の周りをうろうろしていたら、ブラックゲーターと遭遇した。この全長五メートルほどの黒いワニは獰猛でタフな魔物だが、クイントコールドショットを頭か背中に撃ち込むと一撃で仕留められると分かり、瞬殺できるようになった。


 キメラビーバーは尻尾が毒蛇になっている大型ビーバーである。こいつは毒蛇の牙にさえ注意すれば、簡単に倒せる。


 そして、問題のシャドウフロッグは中々見付からない。

「メティス、シャドウフロッグはどこに居るんだ?」

『シャドウフロッグは、木の影に潜んでいる事が多いそうです』


 少し先に毒々しい赤い花をつけた低木があった。花の色が警戒心を起こさせるような色だったので、近付かなかった。だが、もしかするとシャドウフロッグは赤い花が好きなのかもしれないと思い、確かめるために近付いた。


 その時、木の影から巨大なカエルが飛び出し、俺に襲い掛かってきた。全長一メートル半ほどの巨大カエルが四本の足を大きく広げ、前足に付いている毒爪で引っ掻こうとする。


 俺はトリプルオーガプッシュで反撃した。オーガプレートの回転に巻き込まれたシャドウフロッグは、回転しながら宙を舞う。


 回転した事で目を回したシャドウフロッグは、クイントブレードで簡単に仕留められた。それ以降、赤い花をつけた低木を探して、シャドウフロッグが居ないかどうかを確かめ、合計で八匹を仕留めた。


 回収したシャドウクレイは十二キロ、黒魔石は八個だ。

「これくらいで大丈夫だろうか?」

『今日は、これくらいにしましょう。慣れていない上級ダンジョンで無理するのは危険です』


 俺はメティスの意見に従う事にした。地上に戻ると、『ダンジョン狩人』がボーッとしていた。近くには垂水が居り、傍に近付き質問する。

「どうしたんです?」


「ああ、全員不合格です。全員協力して、アーマーベアを倒した事は有っても、一人で倒した事はなかったようです」


 チームで戦う場合とソロで戦う場合は、戦い方が違うのだ。あの連中はそれが分かっていなかったという事だろう。まあ、いい経験になったと思い次回に頑張れば良い。


 俺は着替えてから本屋に行った。カエルの解剖図みたいなものがないかと探したのだ。無いかもしれないと思っていたが、存在した。その本を購入してから魔道具ストアでソーサリーアイとソーサリーイヤーを購入。その後、ホテルに泊まる。


 ルームサービスで軽い食事を摂ってから、カエルのシャドウパペットの製作に取り掛かる。

『今回は、水中を泳ぐシャドウパペットですので、背中の内部に空気袋のような空洞を作ってください』


 シャドウクレイは水より重い物質なので、空気袋がないと沈んでしまうらしい。俺は空気袋と本の解剖写真から勉強した情報を元に、蛙型シャドウパペットを作製した。


 最初に魔導コアと指輪を作ってから、シャドウクレイを四キロほど切り分けて、D粒子を練り込み造形する。


『頭が大きすぎます』

 メティスからダメ出しを食らった。その後、作り直してメティスが良いだろうというものが出来た。仕上げると口に比べて目が小さな蛙型シャドウパペットが完成した。


 俺は動かしてみようと思い、指輪を嵌めてジャンプするように命じた。蛙型シャドウパペットは力強くジャンプして、天井にぶつかってからベッドに落下した。


「あっ、こいつ力加減が分からないのか」

『生まれたばかりの赤ん坊ですから、力加減なんて分かりませんよ』

「でも、コムギはちゃんと動いていたじゃないか?」


『あれは私が制御していたからです』

「何だ、そうだったのか」

 俺は蛙型シャドウパペットもメティスに任せる事にした。


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