第177話 水中での威力
俺は三層の海について情報を集めた。ダンジョン内にある海なので、それほど深くはないようだ。発見された宝箱は水深八メートルの海の中にあり、素潜りで手に入れたという。
素潜りの得意な冒険者が潜って宝箱を引き揚げたのだろう。慣れていない者は八メートルなんて潜れないと思う。それに宝箱を引き揚げて開けるには、船が必要だった。水中の宝箱はマジックバッグ系の魔道具に収納できないらしい。
元々船は購入するつもりでいた。ただ『ウィング』を開発したので、買うタイミングを逃したのだ。
冒険者ギルドを出た俺は、電車で二十分ほどの町に行く。この町には小さな造船所があり、しかも冒険者用の船も造っているという。
船の免許は船を購入しようと思った時に数日掛けて取得している。ダンジョン内だけで使う船なのだから、免許は必要ないと思ったが、船を購入するには免許が必要らしい。
その造船所は中古船の販売もしており、俺は中古船を見に来たのである。造船所の隣に中古船展示場があり、陸に上げられた船が展示してあった。
従業員らしい人が居たので、冒険者用の船がないか尋ねてみた。
「冒険者用でしたら、二隻あります」
一隻は八人乗りの船で全長九メートルの船だった。もう一隻は六人乗りで全長六メートルほどの小型船である。どちらも冒険者用というだけあって頑丈そうだ。
「これは鋼鉄製ですか?」
「はい、両方とも鋼鉄製です」
値段を確認すると、大きい方が千二百万円ほどで、小さい方が八百万円ほどだと言う。冒険者用の船は、普通の船より二倍ほど高いらしい。
中を確認して、小さい方を購入する事にした。手続きを済ませ代金を支払うと、冒険者用小型船が俺のものになった。本当は黒鉄を使った特別製の船が欲しかったが、今から建造する時間はなかった。
小型船を左腕に装着している収納アームレットに仕舞う。それを見ていた販売会社の従業員が驚いていた。いきなり船が消えたのだから当然だ。
小型船を購入した俺は、海を見ながら駅の方へ歩き始める。
『巨大ザメの魔物が襲ってきた時は、どうするのですか?』
「『パイルショット』や『コールドショット』で撃退できると思うんだけど、甘いかな?」
『『パイルショット』ほどの貫通力が有れば、海中でも大丈夫だと思いますが、一度試してみてはどうでしょう?』
「そうだな。だけど、どこで試す?」
『そうですね。ダンジョンの湖や海では、魔物が居ますから、危険です』
俺は水中の標的に対して攻撃できる有料練習場があるのを思い出した。確か千葉県の
生活魔法の水中での威力を試すという事を決めたので、宝箱の探索方法をメティスと相談した。
「まず宝箱を探さなければならないけど、どうすればいいと思う?」
『グリム先生はソロですので、自分で潜って探すというのは危険です。さすがに海中で魔物に襲われたら不利です』
チームなら、他の冒険者が魔物が近付かないか監視する事もできるが、ソロだと難しい。
「そうだな。泳げるシャドウパペットが有れば、そいつに任せるんだが」
『それなら、ちょうどいい魔物が居ます。シャドウフロッグです』
「そいつもシャドウ種なのか?」
『そうです。シャドウ種の黒魔石とシャドウクレイをドロップします』
メティスによると、そのシャドウフロッグは雷神ダンジョンの六層に棲息しているそうだ。雷神ダンジョンといえば、俺がD級の昇級試験を受けた場所だ。
俺は電車で千葉へ行き、木更津市の有料練習場で水中に標的がある練習場を借りた。練習場の真ん中に池のようなものがあり、七メートルほどの深さがある。
その池の底にはコンクリートブロックが沈んでいた。
『何から試してみますか?』
「そうだな。『パイルショット』から試そう」
俺は池の傍に立ち右手を底に沈んでいるコンクリートブロックに向ける。クイントパイルショットが発動するとD粒子パイルが形成され、水中に向かって放たれた。
水面で
『貫通していません。かなり威力が弱くなるようです』
セブンスパイルショットやセブンスコールドショットも試してみたが、この深さだと威力が半分くらいに低下してしまう。
一度水中に腕を入れてD粒子パイルが水中で形成されるか試してみた。形成されるまでに時間が掛かる事が分かった。しかも初速がかなり遅くなる。
『パイルショット』や『コールドショット』はまだ良いが、『ブレード』や『ハイブレード』は使わない方が良いと分かった。盛大に水飛沫が上がるだけで威力が大幅に低下するのだ。
そして、試している中で意外に威力を発揮したのが、『サンダーアロー』だった。水中でも電気ショックの威力は同じという事だ。
水中での威力を確かめた俺は、木更津市のホテルで一泊してから、翌日に雷神ダンジョンへ向かった。到着してダンジョンハウスで着替えると、珍しい集団が居た。
武器として猟銃を持っている集団だった。彼らはD級昇級試験のために五層へ行くらしい。課題はアーマーベアなのだろう。
ダンジョンが存在するようになっても、日本では銃器を使う冒険者が少なかった。アメリカなどでは多いらしいが、攻撃魔法の基礎である『バレット』でさえ銃と同じような威力なので、日本人は銃を選択しないようだ。
しかし、銃を武器とする冒険者が存在しない訳ではなく、魔力を消費しないという点を重視して武器にしている者も居た。
「『ダンジョン狩人』の皆には、協力して五層まで進んで、課題であるアーマーベアを倒してもらう。慎重に行動してくれ」
昇級試験の試験官をしているのは、俺の時と同じC級冒険者の
「ん、君は生活魔法使いの……」
名前までは出てこないようだ。俺が名前を告げると、
「ああ、グリム君だったね。もしかして、もうC級になったのか」
「ええ、最近になって、渋紙市で昇級試験に合格しました」
「ほう、そうなると、大物を倒して支部長推薦で試験を受けた事になる。何を倒したんだ?」
「ファイアドレイクです」
垂水が驚いた顔をする。
「確かに大物だ」
俺が六層へ行くと言うと一緒に途中まで行こうという事になった。魔物に対して銃がどれほど威力を発揮するか見たかったのだ。
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