第4章 上級ダンジョン挑戦編
第147話 魔導知能
新しいダンジョンの事を聞いた翌日。俺は冒険者ギルドの支部長に会って、C級への昇級試験を受ける資格を得るためにはどうすれば良いか確認した。
「グリム君も
近藤支部長が俺の顔を見て尋ねた。
「もちろんですよ。ところで新しいダンジョンは、鳴神ダンジョンという名称に決まったんですか?」
「そうだ。奈留丘という土地は、元々鳴神の丘と呼ばれていた場所だったのだ。それはいいとして、D級になったばかりだろ。上級ダンジョンに潜るにはC級冒険者でないとダメなのだぞ」
「分かっています。それでC級への昇級試験を受ける資格を得るには、どんな条件があるか聞きに来たんです」
支部長が頷いた。
「通常は、D級になってから五年以上の経験があり、中級ダンジョンの三十層以上で活動している事が条件になる」
俺はガッカリしたが、もしかしてと思い確かめた。
「三十層のファイアドレイクを倒すと資格が与えられると聞きましたが?」
「ああ、それは支部長推薦枠の事だな。ファイアドレイクを倒すくらいの実力を持つ冒険者は、特別に支部長が推薦して、資格を得る事ができるというものだ」
「それです」
俺は笑みを浮かべて言った。
「まさかとは思うが、ファイアドレイクを倒すつもりなのか?」
「ええ、倒したら、推薦してもらえますか?」
「実際に倒したのなら推薦する。ただ君はチームを組んでいない。ソロで倒すつもりなのかね?」
「今からチームを組んでいたら遅くなりますから、ソロで倒すつもりです」
「ファイアドレイクは強力な魔物だ。私には無謀だと思えるのだが?」
「ファイアドレイクについては、調べました。勝算がなければ、こんな事は言いません」
「冒険者は自己責任だ。これ以上は言わないが、無理をするんじゃないぞ」
俺はファイアドレイクを倒したという証拠はどうするのか確認した。すると、ファイアドレイクは黒魔石<大>とファイアドレイクの牙を必ず残すらしい。それを持ち帰れば、討伐した証拠になるという。
昇級試験の資格について確認した俺は、冒険者ギルドの近くにある魔道具ストアへ向かった。ここの店で売っている魔道具は、ダンジョン産ではなく魔導職人が製作したものである。
俺は店に入って、ケースに入っている商品を見た。魔力ホットプレートや魔力カウンター、レベルゲージなどが並んでいる。
「何をお探しですか?」
店の主人が尋ねた。
「魔道具の眼と耳を探している」
「ああ、ソーサリーアイとソーサリーイヤーですね」
ソーサリーアイは魔導のセンサーで光を感知して、その光景を使用者の脳にイメージとして送り込む魔道具である。視力を失った人が使う魔道具だ。
もう一つのソーサリーイヤーは音波を感知して、音を使用者の脳に送る魔道具である。どうして俺がそんな魔道具を欲しがっているのかというと、魔導知能が欲しいと言い出したからだ。
二つ合わせて百二十万円だった。現金で支払って領収証をもらう。ソーサリーアイは黒い碁石のようなもので、ソーサリーイヤーはコインのような形をしていた。
「これを使用する人は、どうやって使っているんですか?」
俺は店主に尋ねた。
「ソーサリーアイは、ヘアバンドのようなものに組み込んで使用する方が多いようです。ソーサリーイヤーはバッジのように服に付ける方も居ます」
俺は革細工職人の広末に頼んで、余っていたスティールリザードの革でヘアバンドを作るように注文する。そのヘアバンドに二つの魔道具を組み込むように頼む。広末は首を傾げたが、注文には応じてくれた。
二時間ほどで出来るというので、適当に時間を潰してから注文品を受け取ると代金を支払った。
「何だか、出費が嵩むな」
俺はマンションに帰り、魔導知能をマジックポーチから取り出してテーブルに置く。その横にヘアバンドを置いた。
魔導知能は近くにある魔道具に回線を繋ぎ制御する事ができるらしい。鑑定モノクルもそうやって制御しているのだが、鑑定モノクルは余計な情報まで送ってくるので、眼の代わりにするには相応しくないらしい。
そして、ソーサリーイヤーは耳の代わりである。俺との会話が成立していたので聴覚があるのかと思っていたが、俺の思考を読んでいたという。
思考を読まれるのは勘弁して欲しいので、どうしたらいいか尋ねると魔導知能に触れなければ、人間の微弱な思念は読めないらしい。
「購入した魔道具は使えるか?」
『映像と音声は送られてきました。但し、まだ言語を理解できません』
魔導知能は、俺が何を言ったのか推理して答えた。魔導知能から俺へ思念を送る事は、触れていなくても可能なようだ。魔導知能は思念の強さが違うのだと言う。
魔導知能は瞬く間に日本語と若干の英語を理解するようになった。俺との会話と一日中テレビを見ていて覚えたのである。ちなみに魔導知能を『メティス』と名付けた。ギリシャ神話に出てくる女神の名前である。
ここ数日、俺はメティスの相手ばかりしていた訳ではない。水月ダンジョンの二十三層~三十層の情報も調べファイアドレイクを倒す準備もしていた。
ただファイアドレイクの火炎ブレスを防ぐ方法は思い付いていない。それに空中を自由自在に飛ぶ化け物をどうやって倒すかという問題も解決していなかった。
「取り敢えず、二十九層まで攻略しよう」
そう決めると水月ダンジョンへ向かった。二十層の中ボス部屋まで行くと先客が居た。蒼銀を専門に採掘している『月華団』というチームである。
「こんにちは、一緒に野営させてもらいます」
月華団のリーダーらしい男が、ジロリと睨んだ。
「お前は、峰月さんと一緒に蒼銀を採掘した奴だな」
「ええ、峰月さんとは、ちょっとだけチームを組みました」
「近藤支部長が、お前の事を買っているみたいだったが、ダンジョンは甘くないからな」
後輩に忠告しているつもりなら良い人だが、まだ判断できない。取り敢えず、忠告をおとなしく聞いて野営の準備を始めた。
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