第136話 堅牢

 アリサたちが宝物庫のガルムを倒したという情報を冒険者ギルドで知った。俺はアリサたちを祝福するために、魔法学院の女子寮に電話した。


 マンションに引っ越した俺は、固定電話の契約をしている。御蔭でアリサたちとの連絡が簡単になった。

 俺は天音を呼び出してもらい、今度の土曜に会う約束をする。


 土曜日の午後に冒険者ギルドで待ち合わせた俺たちは、打ち合わせ部屋で話を聞いた。

「『リフレクトガード』の一種か。貴重な魔導装備を手に入れたんだな」


「グリム先生の黒鱗鎧の方が凄いですよ」

 アリサが笑いながら言う。貴重な魔導装備を手に入れて嬉しそうだ。


「そうだ。ガルムを倒して、この巻物を発見したんですが、何か分かりますか?」

 アリサがマジックバッグから巻物を出して、俺に見せた。その巻物を見た時、<貫穿>の魔法陣が描かれていた巻物を思い出す。


 あれは魔法陣を見た瞬間に自動的に賢者システムが立ち上がって、強制的に情報を取り込んでしまった。その巻物に外見が似ていたのだ。


「これは特別な巻物かもしれないな。中を見た?」

「はい。でも、魔法陣だけで説明文みたいなものは、全くありませんでした。何か心当たりが有るんですか?」


 俺は頷いた。

「巻物の中には、条件が合致した者が開けると、自動的に習得させるような魔法陣が描かれている場合が有るんだ」


 アリサたちは感心したように頷いた。

「これが、そういう巻物に似ているんですか?」

「俺も一つしか見た事がないから、確かな事は言えないけど似ている。持ち帰って調べたいんだが、いいか?」


 アリサたちが承知したので、その巻物をマジックポーチに仕舞った。

 その後、二十層のオークキングを倒すための行動予定を打ち合わせた。オークキングが装備している鎧が厄介だという話になる。


「グリム先生、セブンスヒートシェルでオークキングの鎧を貫けるでしょうか?」

 アリサが質問した。

「攻撃魔法の『デスショット』で貫けたと聞いたから、大丈夫だと思う。ただ『ヒートシェル』は撃つためのチャンスを作らないとダメだからな」


「厄介なのは、もう一つ有りますよ。トライデントという魔導武器です」

 千佳が魔力砲弾を撃ち出す槍を話題に出した。最初の頃、魔力砲弾を防ぐために『オーガプッシュ』を考えたのだが、『オーガプッシュ』では魔力砲弾を防げないのでは、と思うようになった。


 撃ち出された魔力砲弾を迎撃するというのは、難しすぎると考えたのだ。

「攻撃は最大の防御なり、という考え方も有るけど、必ず先手が打てるという保証もないからな。少し時間をもらって調べてみよう」


 俺は防御の問題を持ち帰る事にした。その後、教え子たちの成功を祝福するために、ちょっと高いレストランで奢る事になった。


 食事の後、俺は皆と別れマンションに戻った。

 アリサたちから預かった巻物が気になったので、ベッドの上に座ると巻物を広げる。やはり、それは<貫穿>と同じ特性の魔法陣だった。


 賢者システムが自動的に立ち上がり魔法陣から情報を取り込んで行く。どれくらいの間ジッとしていたのか分からないが、気付いた時には巻物から魔法陣が消えていた。


 賢者システムをチェックすると、『D粒子二次変異』に<堅牢けんろう>が追加されていた。調べてみると<不可侵>ほど強力な特性ではないが、D粒子の形成物を大幅に頑丈にするものらしい。


 しまった。アリサたちから預かった魔法陣を勝手に使ってしまった。その時になって、まずい事をしてしまったと反省する。


「……仕方ない。別の生活魔法をアリサたちに渡そう」

 そうなると、選択肢が『ヒートアロー』『オーガプッシュ』『パイルショット』の三つしかない。


「そうだ。この<堅牢>を使った生活魔法を創って、渡そう」


 欲しいと思っているのは、防御用の魔法である。オークキングの魔力砲弾を防げるだけの強度があるものを創りたい。


 参考にした魔法は『ウィング』である。盾となるものなので、警察が使っているライオットシールドのような丸みを帯びた長方形にして長さ百八十センチ・幅七十センチとする。


 背の高い者はかがむ必要があるが、あまり大きくするとより多くのD粒子が必要になるので仕方ないのだ。


 このD粒子製シールドに<堅牢>の特性を付加して頑丈なものにする。魔力でコーティングするかどうか迷ったが、しない事にした。コーティングすると形状を長時間保てるようになるが、多重起動ができないようになるらしいのだ。


 なので、『ウィング』は多重起動できない。という事で、そのシールドが形を保っていられる時間が限られてしまう。十五秒しか形状を保てないようだが、それで十分だと思った。


 十五秒以上続く連続攻撃を受けた場合は、十五秒経過する寸前に別のシールドを発動すれば良いのだ。そのために十秒経過すると点滅するようにした。この点滅は魔力を使っているので、特性の<発光>は付加していない。D粒子を光に変化させる時には<発光>が必要なのだが、魔力で光を作り出す時には必要ないのだ。


 その魔法を『プロテクシールド』と名付けた。発動してみると、目の前にD粒子堅牢シールドが形成されたようだが、目に見えないので触ってみないと分からない。


「ちょっと不安だな」

 見えないシールドだと不安なので、D粒子堅牢シールドを微かに光らせる事にした。これも魔力を使ったものだ。淡く黄色の光を放つシールドが出来上がる。


 『プロテクシールド』は由香里も使う事を考えて、ぎりぎり魔法レベル9で習得できるようにした。

 俺はどれほどの防御力が有るか確かめるために、有料練習場へ向かった。小さな練習場を借りて中に入る。


 まず『コーンアロー』を使って、多重起動なしの『プロテクシールド』の強度を試す事にした。


 『プロテクシールド』を発動し淡く黄色の光を放つD粒子堅牢シールドが形成されたのを確認すると、その前方に素早く回り込んだ。


 D粒子堅牢シールドは一度形成されると、位置を変えられないのだ。最初は自分の動きに合わせて移動するものを考えたのだが、それだと習得できる魔法レベルが『12』に跳ね上がるのである。


 回り込んだ俺は、『コーンアロー』の三重起動・五重起動・七重起動を発動してD粒子コーンをD粒子堅牢シールドに向けて撃ち出した。


 結果、五重起動までは耐えたが、七重起動で撃ち抜かれ崩壊した。

「多重起動無しのものが、五重起動まで耐えるのか。防御力が相当高いな」


 俺はトリプルPシールドを試す事にした。『パイルショット』で検証すると、トリプルパイルショットで崩壊した。特性の<貫穿>と<堅牢>は性能的には同じだと思うのだが、『プロテクシールド』は広い面積を守る事になるので、一点に威力を集中できる『パイルショット』の方が有利なようだ。


 クイントPシールドは、クワッドパイルショットに貫かれた。オークキングの魔力砲弾は、クワッドパイルショット以上クイントパイルショット以下の威力が有ると推定されるので、クイントPシールドではダメだ。


 セブンスPシールドは、クイントパイルショットに耐えた。合格だ。但し、セブンスパイルショットで簡単に崩壊したので、セブンスパイルショットに耐えるにはD粒子収集器を使ったナインスPシールドが必要になるだろう。


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