第135話 ガルムの最後
千佳が放ったセブンスハイブレードは、ガルムが避けようと横に跳んだ事で肩を切り裂いただけに終わる。魔物の血が空中に飛び散り、牙を剥き出して怒りを表すガルム。
ブラックハイエナを駆逐したアリサと天音も、ガルムに向けてセブンスハイブレードを放つ。その攻撃を壁に向かって跳躍して躱したガルムが、壁を蹴ってアリサに飛び掛かった。
千佳と由香里が『プッシュ』の多重起動で迎撃する。二発の『プッシュ』を同時に叩き付けられたガルムは、空中で勢いを止められ落下した。
そこにアリサと天音がセブンスサンダーアローを放つ。この連撃はさすがのガルムも避けられなかった。魔物の肉体に突き刺さったセブンスサンダーアローは、落雷のような轟音と同時に大電流を流し込み、大きなダメージを与えた。
広い地下室に焦げた臭いが漂い、ガルムがふらついている。千佳がセブンスハイブレード、アリサと天音がセブンスヒートシェルを放ち、由香里はクイントジャベリンを放つ。
それらの攻撃が次々にガルムに命中した。さすがの化け物も切り刻まれ息の根を止めた。四人の身体の中でドクンという音がする。
「魔法レベルが上がったみたい」
由香里が声を上げた。調べてみると、由香里が二つ上がって魔法レベル7になり、他の三人は魔法レベル10になっていた。
「とうとう二桁になった」
天音が嬉しそうに声を上げる。
「いいな」
由香里が羨ましそうに言う。
「由香里が本気になって、攻撃魔法を頑張れば、すぐに魔法レベル10になると思うけど」
アリサが言うと、由香里は不満そうな顔をする。皆と同じように生活魔法が魔法レベル10になりたかったのだ。
「アリサだって、本気で分析魔法を頑張れば、今頃魔法レベル10を越えていたんじゃないの?」
アリサが溜息を漏らす。
「それは言わないで、カリナ先生からも分析魔法も頑張りなさい、と言われているんだから」
分析魔法はダンジョンでの活躍には役に立たないが、ダンジョンの産物を分析したり、巻物の魔法陣を分析して、魔法庁に登録できるような形で取り出すという事ができる。
高度な分析魔法を使える者が少ないので、魔法レベル10を越える分析魔法使いは高額の契約金でスカウトされる事が珍しくないのだ。
「皆、ドロップ品が有るよ」
千佳の声が聞こえた。アリサたちも急いで行って確かめる。黒魔石<小>と巻物、それに鍵が残されていた。
「この巻物は何だろう?」
アリサが拾い上げて中を見た。魔法陣しか描かれていない。説明文が何もないので、アリサにも何の魔法陣か分からなかった。
『アイテム・アナライズ』を使ってみたが、生活魔法に関係する魔法陣が描かれた巻物というだけで、魔法陣が何かは分からない。
「グリム先生に調べてもらうしかないかな」
アリサが言うと由香里が何でという顔をする。
「でも、グリム先生は高度な分析魔法を使えないよ」
「あれだけ多くの生活魔法を魔法庁に登録しているのよ。優秀な分析魔法使いと組んでいるんじゃないかと思うの」
「なるほど」
千佳が鍵を拾って見詰めていた。その傍に天音が歩み寄る。
「金庫を開けましょう」
「ええ、何が入っているのか、楽しみ」
宝物庫に戻ったアリサたちは、手に入れた鍵がどの金庫のものなのか調べた。二つ目の金庫が目的のものだった。金庫を開けると、そこには四つの左手用篭手が入っていた。
「これは普通の篭手じゃないよね」
そこに有ったのは、魔導装備の篭手だった。攻撃を撥ね返す機能を持つ篭手だったのだ。アリサたちは装着してみて意外に軽いのに驚いた。それに大きさも自動的に調整するようである。
青白い金属製なのだが、特殊なものだ。外に出たアリサたちは木の枝を切り取って、その篭手に向かって攻撃してみた。
アリサが篭手を付けた左腕で枝の攻撃を受けると、その枝が攻撃と同じ力で跳ね返された。攻撃した千佳がバランスを崩すほどだったので、撥ね返す力は強いものだったのだろう。
「使いようによっては、切り札になるかも」
千佳が呟くように言った。ただ現時点で切り札にできるだけの技量を持っているのは自分だけだろうと感じていた。
その日、アリサたちが地上に戻ったのは夜遅くになった。冒険者ギルドに行って、アーマーボアの剥ぎ取り品や魔石を換金した。
アーマーボアの肉はきちんと処理したら美味しいという。だが、アリサたちには処理する技術がないのでギルドで換金する。
ギルドの奥から支部長が出てきた。
「またガルムを倒したチームが出たそうだな」
「魔法学院の生徒さんたちですよ」
加藤が支部長に伝えた。それを聞いた支部長は苦笑いする。
「またグリムの教え子たちなのか。凄いとしか言いようがないな。それで宝物庫では何を手に入れたんだ?」
アリサたちは教える事を拒否する事もできたが、魔導装備の篭手がいくらするものなのか知りたかったので教えた。
「ふむ、『リフレクトガード』の一種だな。両腕用のセットだったら一億を超えただろうが、片腕だけだと五千万くらいか」
五千万と聞いて、アリサたちは飛び上がって喜んだ。
「オークションに出すなら手続きをするぞ」
アリサたちは首を振った。
「いえ、自分たちで使います」
支部長は夜も遅いので、アリサたちをギルドの車で送らせた。
千佳が自宅に帰ると、家族が心配して待っていた。
「遅かったじゃないか」
父親の剣蔵が
「遅くなると言ったはずですけど」
剣蔵は頷いた。剣蔵が返事をする前に兄の剣壱が口を挟んだ。
「ガルムと戦いに行ったんだろ。家族が心配するのは当たり前だ。それで倒せたのか?」
「もちろんです。これが戦利品です」
千佳が魔導装備の篭手を見せて説明すると、剣蔵と剣壱は驚いた。
「まだ魔法学院の生徒なのに、これだけの宝を手に入れるとは信じられん」
手に入れた千佳自身も信じられないほどなのだから、家族が驚くのも無理はなかった。
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