第137話 評論家

 数日間『プロテクシールド』をテストして不具合を探し出して修正した。満足できるものが完成したので、賢者システムに登録する。


 その後、習得するための魔法陣を四人分用意した。その他に魔法庁へ登録するための魔法陣と説明文を用意する。


 次に冒険者ギルドでアリサたちに会った時に、俺は頭を下げて謝った。

「この前預かった巻物なんだが、やっぱり特定条件の人物が見ると強制的に習得させるものだった。俺が使ってしまった」


 真面目な顔をして謝る俺を見て、天音が笑った。

「グリム先生も失敗する事が有るんですね?」

「失敗というか、確かめるためには見なきゃダメだろ。それで見たら、自動的に巻物を使う事になった」


「何の魔法だったのですか?」

 その質問は予想していたので、答えも用意していた。

「『リモートプレート』という生活魔法だ」


 嘘を吐きたくなかったが、賢者システム用のものだとは言えない。俺は『リモートプレート』について説明した。それを聞いたアリサたちは、『ウィング』に似ていると思ったようだ。


 『リモートプレート』を元に『ウィング』を作ったので、似ていて当然なのだ。

「俺の失敗で、皆の巻物をダメにした。それで代わりの生活魔法を用意した。これで勘弁してくれ」


 俺が代わりと言って渡した『プロテクシールド』が、どういう生活魔法か聞いたアリサたちは狂喜した。オークキングの槍から発射される魔力砲弾をどうするかで悩んでいたらしい。


「でも、この生活魔法はかなりの価値になると思いますよ。本当にいいんですか?」

 アリサがちょっと不安そうに言う。


「構わない。魔法庁に登録して、ライセンス料は皆で分けるといい。但し、魔法レベル9にならないと習得できない魔法だから、当分お金にはならないかもしれないけど」


 生活魔法に関して言えば、一番高い俺が魔法レベル13、次がアリサたちで『10』、その次がカリナや上条の『8』なのだ。『プロテクシールド』を習得できそうなのは、アリサたちを除けば居ない。もう少しすれば、カリナと上条が習得するだろうが、それでもたった二人だ。


 考えると、生活魔法はまだまだだなと思えてきた。生活魔法が攻撃魔法や魔装魔法と肩を並べるようになるのは、ずっと先になりそうだ。


 『プロテクシールド』については、アリサたちがダンジョンで手に入れたという事にしてもらった。また魔法庁の連中が賢者だと言い出さないようにするためだ。まあ、『プロテクシールド』以外の生活魔法も順次登録しているので、あまり意味はないかもしれないが。


 俺とアリサたちは話し合い、『プロテクシールド』を素早く発動できるようにしようという事になった。その実戦訓練も含めて、水月ダンジョンの二十層まで攻略しようと話し合う。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アリサたちは魔法学院の訓練場で『プロテクシールド』の練習を始めた。多重起動無しの『ジャベリン』だけで互いを攻撃し、『プロテクシールド』で防御するという練習だ。


 その練習を見たカリナが、

「ちょっと待って、その魔法は何なの?」

「あれっ、カリナ先生に言っていませんでしたっけ。ガルムを倒した時に手に入れた巻物が、この『プロテクシールド』なんですよ」


 天音が説明すると、カリナが驚いた。

「そんな魔法が有ったら、どれだけダンジョンでの活動が楽になるか……」

「生活魔法使いの時代になるんです」

 天音が胸を張って言うと、カリナもそんな気がしてきた。


 アリサがカリナに尋ねた。

「三年生は、どれほどのレベルになったんですか?」

 卒業間近になった三年生が、どれほど生活魔法を学べたのか、アリサは気になったのだ。


「最低でも魔法レベル5、『プッシュ』『コーンアロー』『サンダーボウル』『エアバッグ』『ブレード』『ジャベリン』は習得しましたよ。これだけの生活魔法が有れば、F級冒険者になれます」


 本当はグリムが一人前の基準としていた十一個の生活魔法を習得させたかったのだが、さすがに大学受験の勉強をしながらだと、魔法レベル5までが限界だという生徒が多かった。


 大学に進学してからも生活魔法の修業と勉強を続ければ、一人前の生活魔法使いになれるとカリナは三年生たちに言ったそうだ。自分たちのために精一杯の事をしてくれたと感じた生徒たちは、カリナに感謝しているらしい。


 ただ三年生の中には大学進学をやめて、プロの冒険者になると決めた者も居た。そういう生徒には引き続き指導を続けるとカリナは言う。


「そう言えば、三年生の授業に生活魔法が追加されるんですよね?」

「ええ、選択科目の一つとして、生活魔法も加わる事になりました」

 三年生の生活魔法はカリナが教える事になっているらしい。


「そう言えば、交流会の時に会った週刊冒険者の記者さんが、取材に来ると言っていました。その時は、皆も協力してね」


 そういう話をした数日後、鬼塚エミリと攻撃魔法使いで魔法評論家の田島陽一が魔法学院を訪れた。

 エミリは顔を知っていたが、田島は初対面だったので、アリサたちは挨拶して自己紹介する。


「やっと生活魔法の特集を組む許可が下りたので、来る事ができました」

 週刊冒険者の内部でも、生活魔法に対する評価は低いらしい。交流会で生活魔法の可能性に気付いたエミリは特集を組むように訴えたのだが、やっと条件付きで許可されたという。


 生活魔法にのめり込んでいると見られたエミリは、生活魔法について正当に評価を下す事ができないのではないかと思われ、評価役として田島が同行する事になったらしい。


 エミリは分かっていない上司だと愚痴を零した。田島が薄ら笑いを浮かべる。

「君が次の時代は、生活魔法だと大声で騒ぐからだ」

「本当に、そう思ったんですよ」


「だが、生活魔法使いなどD級冒険者にもなっていないではないか?」

 アリサが口を挟んだ。

「いえ、D級の生活魔法使いは存在しますよ」


 口を挟んだアリサを、田島がジロリと睨んだ。

「それは失礼した。だが、C級はどうなのかね?」

「それはまだ居ません。ですが、すぐにC級やB級になると思います」


「ふん、本当かな。C級やB級になるという事は、上級ダンジョンで活動するという事だ。ソロでブルーオーガくらい倒す実力がないと難しいのだよ」


 田島が生活魔法使いのD級冒険者に会いたいと言い出し、エミリが止めた。まだアリサたちへの取材も終わっていなかったからだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る